第28話 伯母
父は騒がしさに気がついたのか、とりあえず様子を見に来たのかわからないが、便所までいちいち見物にでも来たかのようにしてやってきた。
「伯母さんに電話して、明日朝早く、病院に連れて行ってもらいなさい。俺は明日、帰らないといけないから」
幸助は、父からまたも白々しく仄めかされた仕事の陰を見た。そして脱いで立ったままの祖母を見ながら、これを明日までどうしろというのだろうかと思った。しかしその心配も伯母に電話したことですぐに打ち消されることになった。幸助は明日と言う話をしたのだが、電話越しの伯母は、祖母の話をするや否や、のっぴきならない様相で話を終わらせ、すぐに駆け付けるというのだ。そしてそのことを父に伝えると、またあのどこかしら白々しくよそよそしいそぶりを見せ、ぶつくさぶつくさ言い始める。
「なんだっていうんだ——」「明日も用事があるっていうのに——」「そんなに大げさにすることもないじゃないか——」「ただの食あたりか何かだろう?——」「別に今すぐにどうのこうのする必要があるのか?――」「明日の夜には(仕事へ)戻らないといけないのに——」
幸助は祖母が壁に手をついて立ったままでは辛いだろうからと思い、スラックスと下着を両足から片方ずつ外して、わきの下を抱えながら、便器に座るまでを手伝った。祖母は座るや否や、一つため息をついて、安心した顔になった。けれど祖母の息切れが止むことはなく、食器を洗っていた時よりもずっと青白くなっていた。
そうこうしているうちに伯母は玄関を勢い良く開けて、家の中へ乗り込んできた。幸助を認めると直ぐに祖母の居場所を聞いてきた。幸助は廊下に脱ぎ捨てたままの汚れた下着を見せて、便所の方を指さした。玄関を上がり、廊下から便器に座る祖母を一瞥して、そのまま伯母は父のもとに行った。そしてすごい剣幕で父にこう言うのだった。
「アンタ、大変よ。老人の下痢は命に関わるのよ」
「なに?」父はそう叫んだあと、仕事にかまけていた自分に言い訳をするように付け足してこういうのだった。
「そんなこと俺は知らなかったんだよ」
伯母は祖母の様態を見てすぐに病院に電話した。幸助は便器で楽にしている祖母の熱をはかった。熱は38℃であった。ぐったりとしている祖母に幸助は動けるかを尋ねた。祖母かすれた声で動けると言った。幸助は祖母を抱きかかえ、排せつで汚れた祖母の臀部を紙で丁寧にふき取っていき、伯母に祖母の下着を持ってくるように伝えた。彼は祖母の両手を掴んで、ゆっくりと便所から連れ出すと、伯母から下着を受け取り、肩で脇を抱えながら、それを履かせた。スラックスも新しいものに替えて、汚れた下着は洗面所でもみ洗いをしてつけ置きしておくように伯母にお願いをした。着替えが終わった祖母は幸助が両肩を抱えて家から連れ出し、車にすぐに乗せられて、病院へ向かった。そして何とも言えぬ間に祖母は入院することになった。




