第15話 記憶
うっすらといくつもの記憶をたどってつなぎ合わせていた。食事を終えた幸助はソファに座り楽にした。祖母は食事の片づけを終えるとお茶を出してくれた。父との会話の記憶をたどる方が、祖母と会話しているより正確に物事をつなげられるように感じる。父は菊池の話をしたとき続けてどう話していただろうか。今のソファから客間の暗がりを眺めながら、おぼろげながらも幸助は少しずつ当時のことを思い出した。
孝道が学校へ行かなくなったのは彼が中学2年の春も終わりのことだった。5月の中頃、母親が孝道を朝から怒鳴りつけているのを見た。両親はどうにかして孝道を学校に行かせようとしていた。最初の頃はまだその余力もあったように見えた。けれど、そのことすら学校では無下にされたのである。
「あのとき担任がなんて言ったかわかるか? ――孝道が学校に行けなくなって、どうにか行けるように説得して行かせたのに、行けるようになったその日に〝無理して学校に来なくていい〟って言ったんだぞ」
このとき、幸助はその場面を正確に思い出すことができた。彼はいま眺めている暗闇の客間で庭の向こうの空を眺めていた。父は衣替えをした後、祖母に言われて布団を干すところだった。押し入れの引き戸を開けて父は彼に話していた。ちょうど幸助が昔を思い出して菊池の話をしたからだ。この話は祖父母が孝道から聞き出して、父や母に伝えられたことである。どこまで事実と指すかはあやふやな出来事だった。隠れて自身を殴りつけていたあの卑怯な兄の言うことだ。自分をいいように偽っているに決まっている。全く自業自得な奴だ。そのためにとうとう天罰が下ったのだと幸助は思った。——彼にはそのように思うほかなかった。そして彼は父に対して無表情のまま目を向けて黙って話を聞いた。父はこういう時、どうしても怒りが抑えられない人だった。そして孝道が「無理してこなくていい」と言われたことに関して実に理にかなったことを言った。
「そんな馬鹿なことあるか? 中学の教員だぞ? 責任放棄じゃねえか」




