表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/5

『回答編』液晶画面の向こう側


――11月5日。


その日は母が屋外イベントに行きたいと言い、昼から一緒に行くことにした。

本当は朝からやっていたらしく、着いた頃にはコーナーが一部終了していた。


身体に重さがまだ残っていて、出発に時間がかかってしまったのだから、仕方ない。

それでも楽しいイベントにちがいなかった。


が、ものの数分で帰りたくなった。

肩こりが悪化したから。うずくまって、動けなくなった。


母には非常に心配された。

我慢できないほどの痛みが続いた。帰り道も痛みが続く。


『悔しい』その気持ちでいっぱいだった。 


家に帰りついてから、自室のベッドに横たわり。

もう一度、私は向き合うことにした。


ここ最近の私に。ずっと自分の感情に振り回されているのがバカバカしくなった。


「そもそも、私のやりたいことは、本当に配信者なのか」


 一時の憧れでないのは分かっている。けれども、この思いを認めたくない自分がいた。


 自分の中に何かに縛られている思いがあるのに、それが何か分からない。

 しいて言うなら、決まり事のような。深く長い間、縛られていたような。


 でも、それって私のことなのだろうか。


 配信者yになりたいのも、人生ゲームに羨ましくなるのも、何かに嫉妬するのも。

 私の中にはいつか芽生える感情だけれども、今の私には必要ない。考えれば考えるほど、自分らしさが無い気がした。ふと口にした言葉が腑に落ちた。

  

「――これ、私のじゃない」

 そういえば、前に母が言っていたかもしれない。

 父が何か持って来たかもって。ああ、そうか。

「私の思いではない」


「――やっぱり、お父さんが連れて来ちゃったんだ」

 気が付いた瞬間、肩の荷が下りたようにふっと軽くなった。

 

 憑いていたものが取れた気がした。


 


 父はコミュ障なので友人が少ない。

 それでも、友人0なわけじゃない。大学時代にはちゃんと友人がいたらしい。


 父がそんな数少ない大学時代の友人たちと顔を合わせたのはハロウィンの日。

 友人M氏のお葬式の日だった。


 私はM氏と一度も会ったこともないし、M氏の話すら聞いたことがなかった。

 でも、あのコミュ障の父と仲がいいということは、きっとM氏もコミュ障にちがいないと思う。


 実際、大学卒業後はほぼ連絡を取らず、しいて言うなら、M氏が父母の結婚式に来てくれたっきり。電話の連絡すらしてなかった。年賀状だけのやり取りで、約30年間一度も会っていなかった。 

 

 というのも大学卒業後、父を含む友人たちは皆同じ業界で就職した。ただ、M氏だけは家業を継がなければならなかった。父は他の友人たちとは、必然的に仕事の相談をしあっており、今でも年に数回連絡を取っている。それは流石に私でも知っている。本当にM氏のことだけは、我が家の話題に一度も上がらなかった。


 今回私がM氏について、教えてくれと言わない限り、父は何も言わなかっただろう。

 M氏が大学3年時に何かの宗教にのめり込むようになったことも。M氏がどういう人だったかも。父が薄情者でないのは、娘としては分かっている。頭ではわかっているのだが、それでも何とも言えない気持ちになる。


 これは父も葬式の時に初めて知ったことらしいが、父の結婚式の後、M氏は重い病気にかかり、今まで数十年介護状態だったらしい。

 結婚していたが、奥さんとの間に子どもを授かることができなかった。

 父の大学時代の友人の中で、子どもがいるのは父だけだ。

 


 ――この世界に幽霊というものが存在したら。

 きっと人は亡くなったら、どこかで遠くで私たちを見ているのかもしれない。

 


 父は他の友人と一緒に斎場へ向かった。初めて行く場所で土地勘もなく、皆でしばらく道に迷ったんだそう。その姿は傍から見れば、今でも仲が良く見えたのかもしれない。

 好きな仕事をして、子どもも授かり、友人とも今でも仲の良く、健康で病気もしていない父の姿を幽霊が見ていた。なんてオカルト話だろう。


 もしかしたら生前からM氏は、そんな恵まれた父が羨ましかったのかもしれない。

 父にとっては当たり前のものはM氏にとっては、のどから手が出るほど欲しいものだろうに。


生前、M氏が抱えていた多くの無念が、父の娘の私にとり憑いてきてしまったのかも。


 

――といったことを父に電話越しに伝えたところ、父は一切に信じてくれなかった。


 母は霊的なものを信じてくれたが、父はそう柔軟に受け取れるタイプじゃない。100%信じていなかった。実際、私だって半信半疑だ。


 ただ、『自分』と称する何かが、無性に『やりたいこと』を伝えてきていた。

「結局、M氏のやりたいことって何だったのか」


 それだけ気になっているが、父に聞いても、検討つかないらしい。


 私の肩こりは楽になったので、多分、霊的なものはいなくなったんだろう。


 きっと配信者yに執着していたのは、M氏だった。

 M氏は、人生をやり直したかったのかもしれない。若い時の選択をやり直したかったのだ。

 自分の人生ゲームをやり直したかった。


 そういえば、異常な執着を示したのが、もう一人。体力自慢の【司会者A】だ。私にとってはお兄さんの年齢の人になんで執着したかと思ったけれど。そりゃあ、父世代から見れば若いだろうな。


 でも、他の配信者はたとえ男性でも執着しなかったのに。なんて思ったが、すぐに理由が浮かんだ。司会者のあの人は体力があって、元気な姿を見せていた。ああそっか。


「――もしかして、元気な体になりたかったんですか?」


 M氏にそう問いかけた瞬間、ぼろっと涙があふれ出た。

 かけていたメガネがびしょびしょになるくらい、大粒の涙がとめどなくあふれたと同時に気が付いてしまった。


 司会者Aの年齢は、ちょうど父が結婚した時の年齢と同じだったことに。

 

 M氏はやり直したかったかな。


 もし学生時代に戻れたら、

 父と会話していたあの頃になら、

 せめて病気になる前のあの頃に戻れたら。


 M氏はいろんな人生のターニングポイントに思いをはせていた。

 そのターニングポイントを、私が勝手に配信者yやら司会者Aに取り違えただけだ。


 M氏がやりたかったことは、健康な身体で友人たちに、父にずっと会いたかっただけだったと気が付いてしまった。別に人生なんかやり直さなくても、今の父にでも当たり前にできることがやりたかっただけだ。それだけのことだった。それだけのことが心残りだったのか。

 

 気が付いたら、本当に涙が止まらなくて、ティッシュで押さえつけてもどうにもならない。ちくしょう。もういなくなったと思ったら、まだ空気中にM氏の無念の残滓が残っていたのか。見ず知らずのおじさんのために、私はここまで泣くつもりは無かった。


 いろんなものに縛り付けられて、友人と会話するなんてそんな当たり前のこともできなかった一人の人間の未練が痛くてしようがなかっただけ。可哀想と思ってしまった。


 他の友人もきっと父と同じようにM氏に連絡してやらなかったんだろうな。

 たったそれだけのこと。


 本当は誰も悪くない。

 強いて言うなら、父のせい。そう思うことにした。

 


 

 後日談

翌日、身体はいつも通り普通に動く。

多分、もう何も取り憑いていないと思う。


それでもせっかく予約したのだからと、鍼灸院には行ってきた。

腕のいい先生だった。ただ初対面なのに、若いのに肩甲骨の筋力が弱いとしかられた。

昨日の時点で肩こりはほぼ無くなっていたけれど、施術のおかげでより良くなった気がする。


その帰り道、本屋に立ち寄ってみた。

いつもは読まない不動産についての専門書を手に取ってみた。

知らない内容なのに。いつもより内容がすっと入るような気がした。

まるで誰かの記憶がちょっぴりだけ頭の中に残っているような、そんな気がした。


その日、配信者yのアーカイブを見た。

配信者yは普通に配信者のy。言い回しが軽快で、いつものトーク。確かに面白いけれども、昨日までのように、吸い込まれるような感覚もない。羨ましいとも、スントも思わない。いや、内容は面白いけど。そこまで執着しないよな。


ちなみにあの人生ゲームも見返してみると、かなり笑えた。

あの時の苦しみなんて嘘のように楽しめた。


配信者yは大好きだけど、配信者yのようになりたいとは思えない。勿論、ガチ恋も無い。

それは諦めでも何でもなく、ただ推しは遠くで見るのが一番ってなだけ。

他人の人生は幸せそうで、羨ましい。でも、その人にはその人の苦しみがあるのかもしれない。

きっと私の人生も誰かの人生もきれいな茨道。その道にも棘にぶつかる。そういうことにしておく。人の人生を無条件で羨ましいと思うことはできないよな。


私は私の人生を生きるので精いっぱい。誰かを羨ましがる暇なんてない。

そして、見ず知らずの人の未練に振りまわされるのは、もうこりごり。もう私を振り回さないでね。


最後に、きっとこれを読んでいる誰にも伝わらないだろうけども。

それでも伝えたいことがある。


──どうか。今度は元気な身体で生まれ変わっておいで。


生まれ変わりがあればの話だけど。

もう今度は誰かに嫉妬しなくてもいいように、目一杯幸せになってほしい。


──今度こそ、貴方が未練の日々を過ごさないことを願って。

後書き編集

王道なろう系の小説が書きたいです。本当なら転生したら悪役令嬢系も書いてみたいです。

ただ、ネタが死ぬほど浮かばないだけ。


どう頑張っても私の倫理観が「いやあ、婚約破棄するような王子にうちの子はやらん」ってなる。

物語を書くときはどうしても愛情が減らないように、自分のキャラクターを愛せるように書いてます。


じゃあ、愛せないキャラクターは自分のキャラじゃないのか?って聞かれると。そうですねってなる。


ごめん。だって、無理なもんは無理。ちゃんと愛せるものだけで構成したいじゃないですか。本当は気にかけてあげたいし、そのキャラが悲劇に合うのも嫌ですよね。皆ハッピーエンドになってほしい。


今回の物語もそういうお話です。ハッピーエンド最高!!


ちなみに名づけ理由は下記の通り

配信者y→youth 司会者A→ACTIVE M氏→MAN


謎解き要素はちょい薄かったかもしれません。伏線的に、筆ペンともう一個くらいだったと思います。気になる人は探してみてください。

以上、お付き合いいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ