振り回される店主は苦労
「バーのおっちゃん!いつものお願い!」
常連客で学生の金田くんは帰宅後、ほぼ毎日来てくれる常連客である。家で一人は嫌なので来てくれるらしい。うれしいことだ。
「今日学校どうだったんよ?なんか面白いことあったか?」最近の学校事情も気になるので少し聞いてみた。
「学校?うーん、まあ先生が授業中にダジャレ言うことくらいかな。超スベリまくりだけどね…。僕はそこがツボかな?あとはねえ、よく給食配膳のエレベーターが壊れることだな。だから給食の時間になる前は一階の給食室に配膳を待つ大行列が出来る。学校内では定番になってるんだよ…。」
授業中にダジャレを噛ます先生がいるのか、場を和ませる意味では良いんだろう。面白い・面白くないは関係無しに。
「でねー、今日朝礼で校長先生の話があったんだけど、ゴルフの話が多かったんよ。僕ゴルフに関しては全然詳しくないからなんなのかよく分からなかった。時事系はさんでくるのかなと思ったけど無くてさー。眠くなりそうになったよ…。ゴルフの話を真面目に聞いてるのはゴルフ部の部員と顧問くらいだろ。あとは聞いてないと思う。」
どうやら、金田くんの学校の校長先生はゴルフが好きなのか。にしても延々とゴルフの話を朝礼で話すってのは…分かるわー。
「あ、そうだ。金ちゃん(金田くん)学校からなんか言われてる?この前なんか先生らしき人から連絡あってさ。」
「たぶんそれ、担任だよ。ここに来てる事言ってるし。行くんじゃないよ?って事だろうし。でも家で一人だと心細いって言うか…。両親仕事で帰ってくるの遅いし。分かってはいるよ?でもここが好きなんだよ。」
このバーが好きといってくれたことは嬉しかったが、来るな!とは言えない。もし金ちゃん(金田くん)を家に一人にさせてしまって、もし何かあったら…と親でもないのにここまで言うのは少々お節介だとは思うがどうしても心配になってしまう。
「いずれ、担任がここに来るかもしれない。担任一人で来るかどうかは分からないけど…。本当に迷惑掛けてごめんなさい。」
あの連絡以降、学校から誰か来るのではないかと覚悟はしていた。
「大丈夫だ、心配するな。そんなことで私が怯むように見えるか?」
金田くんが少し沈黙を置いてから「あの担任、実はクレーマーなんですよ。生徒に対してもネチネチ言ってくるんですよ、何の根拠も無いのに…。でも担任は決して悪い人ではないですよ。常連なんで怯むような男じゃないのは知ってますよ。だってねえ…八重頭さんには、彼女は居ないし…。…って冗談でーす!!」
ちょっ…えー…。
「なぜ私の名前を知ってるんだよー。私からは言ってないよね?誰かから聞いたの?」
まさかの私の名前を知っていた。教えてないはずなのに…。
「すみません…。こっそり八重頭さんをつけての家の前まで…。別に変なことは企んでませんよ。ちょっとなんて名前なのか、気になっちゃって…。すみません…。」
悪気は無いように思えた。ただ、名前を知りたかったのならこっそりじゃなくて面と向かって聞いて欲しかった。
「まあ、今回は許すけど、次からはちゃんと言ってね。怖いから。」
軽く注意すると、「はい!分かりました。次はちゃんと言ってから行きます。」
え?行きますって?もしかしてバーが休みで開いてない日は家に押しかけるつもりか?流石にそれは…。
「おっちゃん、今日は帰るね、精算しないと!いくら?」
疑問を投げかけようとしたところを察したのか分からないがタイミングよく帰ると言い出しレジへ向かっていった。
「ジュース5杯と枝豆が2皿で学割による割引で1000円だね。気をつけて帰れよ?」
「はーい!おっちゃん。大丈夫だよお。」
これ今は大丈夫だろうけど、成人したら大変なことになるんじゃないか?と心配になった。