序章 仲村くんと私
序章「私と仲村くん」
彼の熱い棒が私を貫いた
「痛い」
「ごめん」
たぶん、何とも思ってないのだろう
行為は続く。そして、今日も彼が果てることで行為は終わる。私自身もその痛みが早くすぎることを願いつつ、彼が果てるのをただひたすらに待つ。
もう仲村くんと関係を持ってから何度目の行為なのだろうか。
行為をして、帰る。その繰り返しだ。
人はこの関係を「都合のいい女」という。
痛みは私を惨めにし、世間的に価値を下げている。何となくそう感じた。
それでいい。
もっともっともっと下げろ。もうはい上がることができなくなるように。
行為が終わり。仲村くんは刹那の表情を浮かべる。一種の罪悪感なのだろう。
性欲処理として、彼の目の前に君臨する私に対しての。
射精して、初めて私が人間だと気づくのだ。
私は、仲村くんのその表情が好きだ。
あぁこの人をこんなにも情けなくしている私は最低だと感じるからだ。
私は最低な女。惨めで醜く、価値のない女。
仲村くんと関係を続けるのは、自分がそういう女なんだと忘れないためだ。
幸せになんかなるものか。私が私であるために仲村くんもまた「都合のいい男」なのだ。
行為が終わり。仲村くんはすぐに寝てしまう。
私は寝ることはない。もともとそんなに疲れてもいないから仕方ない。
私は、仲村くんの寝顔に恐る恐るキスをする。
ありがとう。今日も私は私でいれる。
いつもの通り、メンソールのタバコに火をつけ、思い出す。
まだ自分な価値があると信じて止まなかった日々を。ぐるぐるぐるぐる。
「タバコやめないとね。女の子なんだから」
「将来はゆっくり過ごしたいね」
いつからだろう。Kがこんなことを言わなくなったのは。
5年も共に暮らし、一度も気付かなかった。
最後の最後まで一度たりとも私の価値暴落の音に気づくことはできなかった。
毎日毎日朝ごはんを作り、夕ご飯を作り。定期的にセックスをしても。
一度も疑わなかった。自分はkにとって唯一無二の存在なんだと。
「寝ないの?」
仲村くんが、私をのぞきこむ。
「大丈夫」
「もうちょっと寝てもいいですか?」
「いいよ。時間になったら起こすね。」
仲村くんは、その言葉を聞き終わる前に、背をむけ眠る。
背中を、見てまたタバコに手を伸ばす。
ラブホテルとは便利だ。
ベットでタバコを吸っても、灰を落としたとしても自分で片付けなくていい。
臭いも気にしなくていい。どうせすぐに出ていくのだから。
30年間生きていて、こんな便利な場所があったとは知らなかった。
きっとこんな感覚もすぐに慣れていくのだろうが、今はただ誰に向けているかわからない優越感を感じる。
すぐに消えいく砂みたいな記憶だとしても、今は心地のよい幸福なのだ。
タバコでは、あまり暇は潰せずにテレビに手を伸ばす。
先ほどまで一緒に見ていた、アダルトチャンネルが大音量で流れた。
驚き、すぐに消す。
「ごめん」
と焦りながら仲村くんを見た。しかし、彼は寝息をたてて眠っている。
ふと、アダルトチャンネルに頼らなければ行為に及べない女なのか?と頭をよぎった。
妙な納得してしまい。少し吹き出してしまった。
そして、今日も休憩終了の時間が来て
寝起きの悪い仲村くんを必死に起こして
ホテル代金はいつものように、割り勘で払い
ホテルを出る。
初めは、ラブホテルに来た経験もなかったので一つ一つの動作に新鮮さや、驚きがあったが
最近では、事務的作業となっている。それもまた、遊び慣れた女になった気がして高揚感を感じるのだ。
二人で車に乗り、なるべく人が少ない道を選び
私のアパートへ向かう。
仲村くんは大音量で音楽をかけ大声で歌う。
初めは驚いたが、あまりにも彼が楽しそうに歌うもので、最近では私も一緒歌うようになっていた。
4歳の年齢差はあるが、彼は少し上の世代の歌がすきなので、私も一緒に歌えるのだ。
そして、10分ちょっとで家につく。
行事的なキスをし
「また、明日会社で」
という。
彼は会釈し、何事もなかったかのように車で歌いながら走りさる。
次の約束はしない。
『大切』な関係ではないからなのか、彼の罪悪感なのかは、男の扱いに慣れていない私にはわからなかった。
(仲村くん、ごめんね。嫌な役をさせてしまって)
いつも、こう思う。
そして、感謝する。
今日も少しだけ、Kへの想いを仲村くんへなすりつけることが出来たからだ。
ありがとう仲村くん。また明日。