血の基準
青ざめた顔を指で辿ると瞼が微かに震えるが、目を開ける気力はないらしくまた動かなくなる。
何がこんなに彼を疲れさせているのだろう。
フェルニアは首を傾げた。
現在二人は部屋に閉じこもっていて、クッションの上で膝枕をしている所だ。アルトレルはフェルニアの腰に腕を回し、お腹に顔をうずめるような姿勢になっている。近くにあるカーテンを開けると暖かい日差しが入ってきて、これがこの五日間のフェルニアのお気に入りだ。アルトレルも少し躊躇っただけですぐに承諾してくれた。
そして悩み――最近、アルトレルの様子がおかしいのだ。
朝なかなか起きられなくなり、逆に寝ない時もある。食事もあまりとらないし、いつのまにか寝ていることが多い。綺麗な黒髪もなんとなくくすんで見えるし、赤い目も以前のような輝きがなくなった。
一度、フェルニアと居るのが嫌なのかと聞いたことがあるが、違うと言われてそれからは何も聞いていない。
しかし、もしかしたらアルトレルは血が足りてないのではないのだろうか?
アルトレルが来てから勉強し始めた書物に確かそういうのがあった。でもアルトレルはフェルニアに隠したがっているようなのでどうにもできない。無理やり聞き出すこともできるが、それだとアルトレルの意志を踏みねじったみたいで気分が悪い。
だから――フェルニアは知らないふりをする。
飢えた吸血鬼が危険なのは知っているが別に怖くない。
アルが欲しいと言ったら血をあげる。
父様がアルに何かを言ったのだと思う。
でもフェルニアがアルトレルに血が足りないと分かった時、一番初めに感じたのは歓喜だ。そうあれは紛れもなく喜び、
多分、私の血はとても美味しい。書物で書いてあったのによれば吸血鬼にとって美味しい血の基準と言うのは水棲馬と同じ、魔力の大きさと濃さで決まる。
魔力の大きさとは文字通り個人が持ち合わせる魔力の量のことで、一定以上使うと死に至る命の源、取り入れることはできるが時間がないとできない。だから、吸血鬼に血を吸われると命を落とす人が多いいのだ。彼らは血と一緒にこれも吸う。
次に濃さ、これも文字通り魔力の濃度のことで、濃ゆければ濃いほど高位の魔術を使えるという、つまり魔力が大きいことよりもこちらの方が魔法を使うのにはだいじなのだ。例えば薄い人がある魔法を使うとしたら、魔力を二十使うことになる。でも濃い人間がやったら三だけ、こんな風だ。
そしてそれは周りに滲むもので、濃い人間の傍にいると薄い人間は気持ちが悪くなったり、服従、心酔したりする。彼ら――吸血鬼に人が従ったり恐れたりするのは、魔力の濃さが人間より圧倒的に高いためである。
話が逸れたが、私の魔力の大きさと濃さはあまり知らないが、高いとは思うので多分美味しい。前に水棲馬の奴隷が襲い掛かって来たのでそれは間違いないと思う。
だからアルトレルに血を吸ってもらうことを期待したのだが、世の中上手くいかないものである。
水棲馬は食べようとしたのにアルは舐めたり噛んだりするだけで、牙を付きたてたりはしないのだ。
わざわざ噛み付きやすいように顔を首筋に持って行ったにもかかわらず。
もしかしたら美味しくないのかもしれない。
水棲馬には好みだったが、高位の吸血鬼には珍しいものではないのかも……
アルトレルの赤い唇をじっと見つめて指先でなぞる。
しっとりとした唇は子供らしく柔らかく、ぷっくりしているが、黒い髪と相まってとても蠱惑的に見える。機嫌よくそれを繰り返していると、ドアが乱暴に開いて、反射的にアルトレルの両耳をぎゅっと塞いだ。
女性が入ってきて大きく怒鳴る。
「レオンを返して! 貴方が隠しているのはもうわかって……!」
「静かにして」
フェルニアは女性に一瞥もくれずに命じた。
アルが起きたりしたら彼女はどうやって責任を取るといのだろう?
その命でも絶つと? あがなえるとでも思っているのだろうか?
息を詰める。
あぁ良かった。起きてない。
流石に起こしたくらいでは殺しませんよー。多分。




