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災厄たる存在

久方ぶりの更新


 南と東の国の国境。大森林が国を別けているその中で一人の少年。

 彼は南の国の出。そして類い稀なる魔獣使いの才能を持っていた。南に生息している魔獣で彼に支配できない存在はいなかった。クリムゾンウルフ、サイクロプス、ゴブリン、オーク、オーガ、トロール、フレイムゴーレム、レグニオス。全て支配し、従え少年は北へと進軍してきた。

 南は彼が育った国。

 その名も“傭兵国家ヒトリネウム”。

 魔帝戦争よりはるか昔に怒った世界戦争。その後に宗教国家イエステンから独立し、傭兵達によって建国された国家。独立したと云うがその実イエステンが戦争の打撃を受け切り捨てた土地。

 取り残された民は新しく王を立て国を作った。それがヒトリネウムである。

 また、ヒトリネウムは貧困国家でもある。痩せた土地、六割を締める火山地帯で作物が育ちにくく、鉱石等で鉱業を起こそうにめ火山域のほとんどがいつ噴火しても可笑しくない活火山。魔獣達も価値の高いクリムゾンウルフは数を減らし、今その土地を支配するのは狂暴なワイバーンなどの魔獣、ゴブリン達のような魔族種。


 それらを従えた彼は暗闇が支配する大森林にいた。



「な、なんだよこれは・・・」


 表情を驚愕の色に染めて。


 目の前では配下である魔獣達の見るも無残な惨殺劇が繰り広げられていた。

 ゴブリンは一刀両断に切り捨てられ、オーク達は首をねじ切り、クリムゾンウルフは挽き肉のように叩き潰されて、レグニオス等飛竜種は翼をもがれ蜥蜴のように地を這いつくばらされ殺される。

 自分は夢でも見ているのだろうか。自分が従える下僕達、王にに災厄の再来とまで云われた魔獣使いである自分の配下がたった一つの存在に蹂躙されている。


「―――――――♪♪」


 それは人形の姿をした少女。

 赤いドレスを身に纏うブロンド髪の彼女は楽しそうに笑い、赤い手を振り回し魔獣達を蹂躙している。

 その細身の小さな身体のどこにそんな力を秘めているのかは分からない。だがこれだけは分かる。彼女は人間ではない。れっきとした魔族種だ。赤いドレスを着た魔族など自分は知らない。だが、魔族種、魔獣の類いなら御することができない道理はない。


「我が名において命ずる!」


 手を天に掲げると同時に彼女の足元に展開された真紅の魔法陣。

 フレイムゴーレムを破壊した直後、自分がその陣中にいることに彼女は気付いたがもう遅い。


「我に従え!」


 陣から伸びた鎖がその細い腕、足、身体、首に巻き付き動きを封じる。


「我に下肢づけ!」


 少女はキョトンとした表情で自分を見る。

 視線が合致した。今自分の瞳にはある魔法陣が浮かび上がっているだろう。これが魔獣使い達の秘伝たる従属の魔法。世界に百と満たない魔獣使い達が知らぬ間に会得し、行使する伝承法が謎に包まれた魔法。

 この瞳に見いられた魔獣達は術者の配下になる。


「我が汝の王で―――」






 筈だった。



「―――――――♪」


 目の前には固縛され従属の魔法を掛けられた筈の少女が笑顔で立っていた。従属に成功した様子もない。ただ名にかを手で弄んでいる。

 待て、その手に弄んでいるのはなんだ?


 それは何かの腕。


 ゴブリンでも、オークでもない見慣れた人の腕。


「―――――♪♪」


 少女がちょんちょんと己の左腕を指差す。それに従い少年は自分の左腕に視線をずらす。


「ぎゃあぁあああぁあああ!?」


 直後上がる悲鳴。それもそのはず確かにそこにあった筈の自身の左腕がなくなっているのだから。

 滴り落ちる真っ赤な血液。その流出を止めようと右手で抑えようとするが


「あ、あ、あぁあ!?」


 今まであった筈の右腕も消え失せていた。

 彼は少女に視線を向ける。

 少女の両手には人の腕が二本握られ彼女は楽しそうにフリフリとその腕を振っていた。


 直後沸き上がる恐怖。

 その場に尻餅をつき必死に少女から距離を取る彼。

 顔は涙と鼻水にまみれ、身体は泥と自分の血に汚れる。


「た、たすけて」


 必死に命乞いをするも少女は言葉が通じていないように笑顔のまま歩み寄る。


「いやだ・・・」


 そして――――









 国境にある大森林への入り口。

 そこの道の脇にある切り株に我は腰掛けていた。

 本来なら今宵は災厄を語る輩に挨拶をしにいく筈だったのだが配下に我が出向くような輩ではないと進言され、今は渋々ここで配下の帰りを待っている。


『お待たせいたしました陛下』


 透き通るような声で人間ではない言語を耳に我は森の入り口に視線を向ける。闇に包まれた森から現れたのは赤いドレスを身に纏った十代前半の少女。闇夜に煌めくブロンド髪を靡かせながら彼女は我の前に歩み寄ると恭しく膝をつき頭を下げた。


『やはり陛下を語る輩は御自ら出向かれるほどの者ではございませんでした』


 この者は我の配下。魔族種の中でも既に絶滅したとされる貴族階級の悪魔令嬢である。


「そうか。無駄な時間を過ごしたな」


 つまらなそうにする我に彼女は頭を上げると少しばかりむくれて我に同意した。


『さようでございます。全く、あの程度の力の癖に陛下を語るとは』


「そういう貴様はずいぶん楽しんでいたようだが?」


『久方ぶりに暴力を振るえましたので』


「それは、なによりだ。さて、我はそろそろ戻るとしよう」


『おやすみなさいませ。災厄たる存在である御身が立たれる時。私達は再びあなた様の元に集いましょう』


「―――その時は頼む。おやすみ」


 溶けるように暗闇に姿を現した悪魔令嬢を見送り。俺は闇に包まれた空を見上げる。


 さて、|俺を(魔王)を語る輩を始末したのはいいが少しばかり気になる。ヒトリネウムがそのような存在をみすみす泳がせたままにするとは思えないからだ。

 かの国の王は策略家で謀略家と云われている。

 願わくばこのまま何も起こらなければいいが

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