第1話
●廃墟の一室
埃だらけの半壊した部屋。
椅子に座って書類を読む冒険者ギルド職員の男・ウィリアム。
ウィリアム、対面に座る二人の少年少女を観察する。
ウィリアム「Eランク冒険者のソイル」
ソイル「はい!」
背筋を伸ばした少年、ソイルが元気よく返事をする。
ウィリアム「Fランク冒険者のミラ」
ミラ「は、はい……!」
緊張する少女、ミラが返事をする。
ウィリアム、淡々と語る。
ウィリアム「君達は冒険者としての実力が致命的に不足している。だから特別講習を受けに来た。間違っていないね?」
ソイル「その通りです。俺は故郷の村を――」
ソイル、真剣な顔で話し出そうとする。
ウィリアム、鬱陶しそうに遮る。
ウィリアム「やめてくれ。君の過去に興味ない。素性も事情も才能も不要……こちらが求めるのは意志力のみだ」
ソイル「……すみません」
ソイル、険しい顔で謝る。
ウィリアム、探るような目で問いかける。
ウィリアム「講習を受けた者の大半が脱落し、そのまま冒険者を引退する。それでも講習を受けるかね」
ソイル「絶対にやり遂げてみせます!」
ミラ「わ、私もお願いしますっ」
ソイルとミラ、それぞれ力強く応じる。
ウィリアム、不敵な笑みを浮かべる。
ウィリアム「ではさっそく始めようか」
ウィリアム、指を鳴らす。
次の瞬間、周囲が白一色の空間に切り替わる。
ソイルとミラ、戸惑う。
ソイル「これは……!?」
ウィリアム「魔術で構築した亜空間だよ。ここは外界と時間の流れが異なるのでね。いくらでも鍛錬に没頭できる」
ウィリアム、両手を広げて説明する。
ウィリアム「講習のルールは単純だ。私の与える百種類の課題をこなすだけでいい」
ミラ「百種類……」
ウィリアム「心が折れたら教えてくれ。その時点で講習は終了しよう」
ソイル「大丈夫です! 絶対に逃げません!」
やる気満々のソイル。
ウィリアム、意味深に呟く。
ウィリアム「その気概が続くといいがね」
N【千年後……】
場面転換し、同じく白い空間。
剣を掲げたソイルが渾身の斬撃を放つ。
ソイル「はああああああぁぁっ!!」
斬撃が何もない空間に亀裂を作る。
ウィリアム、それを見て感心したように頷く。
ウィリアム「次元の切断……見事に成功したね。おめでとう、君は百種類の課題をやり遂げた。実力はAランク相当になったろう」
ソイル「ウィリアム先生! ありがとうございます!」
ソイル、礼儀正しく頭を下げる。
ウィリアム、楽しそうに提案する。
ウィリアム「ちなみに追加講習もあるがどうするかね。さらに実力を高めることもできるが」
ソイル「鍛錬はもう十分です。今までお世話になりました」
ウィリアム「なるほど、了解した。出口を作ろう」
ウィリアム、指を鳴らす。
目の前に扉が出現する。
ウィリアム「君にとっては千年ぶりの外界だが、実際は一週間ほどしか経っていない。感覚のズレに注意したまえ」
ソイル「わかりました、気をつけます!」
ソイル、扉から飛び出して消える。
ウィリアム、汗だくで素振りをするミラに話しかける。
ウィリアム「彼は要領が良かったね。たった千年でクリアするとは思わなかった」
ミラ「……そうですね」
ミラ、疲労困憊で応じる。
ウィリアム、愉快そうに問いかける。
ウィリアム「君はまだ課題の半分も終わっていない。どうするかね」
ミラ「あきらめません。このまま続けます」
ウィリアム「よかろう。存分に努力したまえ」
場面転換。
圧倒的な力で活躍するソイルのダイジェスト。
巨大なドラゴンを一刀両断している。
N「外界に戻った少年ソイルは、その力を遺憾なく発揮した」
N「村を救い、町を救い、国を救った」
人々から賞賛されるソイルの姿。
N「人々はソイルを英雄として褒めたたえた」
N「しかし、やがて彼は物足りなくなった」
N「正義のために培った力に溺れ、己の欲望を叶え始めたのだ」
闇落ちして暴走するソイル。
剣を振りかざし、人々は恐怖で平伏している。
N「十年後」
N「ソイルは暴君となり、莫大な力で大陸を支配した」
玉座の間に腰かける大人になったソイル。
そこに現れるかつてと同じ年齢のミラ。
N「そこにかつて肩を並べた少女が現れた」
ソイル、玉座から立ち上がり、少し驚いてミラを見る。
ソイル「ミラ……課題を終えたのか」
ミラ「うん。すごく時間がかかっちゃったけどね」
ミラ、木剣を腰に吊るしている。
ミラ、厳しい眼差しでソイルに告げる。
ミラ「ごめん、ソイル。あなたの悪行は見逃せない」
ソイル「ハッ、俺を殺す気か! 課題完遂に十年もかかった雑魚のくせにッ!!」
苛立つソイル、禍々しい力を剣に宿して斬りかかる。
次の瞬間、ミラが木剣を抜き放ってソイルを斬る。
あまりの速度に反応できず、無防備に斬られるソイル。
ソイル、驚愕して目を見開く。
ソイル「何……ッ!?」
ミラ「私は確かに十年かけて外界に戻ってきた。でもそれは、追加講習を受けていたからなの」
倒れるソイルを悲しそうに見るミラ。
ミラ「Sランクになるための千の課題……難しすぎて六億年もかかったけど、すごく強くなったよ」
ソイル「そ……んな……馬鹿な……」
ソイル、身体が端から崩れて消えていく。
●廃墟の一室
場面転換し、冒頭と同じ部屋。
書類を眺めるウィリアム、対面に座る少女マキに問う。
ウィリアム「Fランク冒険者マキ……講習を望む動機は?」
マキ「伝説の剣王ミラ様のような冒険者になりたいからですっ! どうかお願いします!」
マキ、緊張しながらも真剣に答える。
ウィリアム、不敵な笑みを浮かべる。




