ま、いいからウンコ片付けとけよ
「…まさか入れっぱなしがここで役に立つとは、わからんもんですな」
金田は言いながら、少し安心した表情を浮かべる。
「5個あるね、これならしばらく持つかな」
秋元が自分のリュックの中から、スマホの充電バッテリーを全部取り出して、言った。
バッテリーは買って使ってないもの、半端に使って忘れているもの、乾電池式といろいろそろっていた。
今の二人にとっては、スマホの電池切れだけは避けなければならない事態になっていた。
これからは、スマホが活躍するかもしれない。
ミリアの歌を聴いたあの夜以降、金田と秋元は、この村での目標を見つけていた。
そのために、スマホの電池を切らすわけにはいかなかった。
「…随分妙な道具もってんな、なんだそれ?」
リーガンはモバイルバッテリーを見て訝し気に尋ねた。
彼は今日も金田のところへ来ていた。
「充電器…いわゆるエネルギーを詰め込んでる箱?みたいなモンですかね」
金田はふわっとした言い方でそう答えた。
この世界には電気がない――少なくとも、電気で機械を動かす文明ではないらしい。
しばらく暮らしてみて、金田はそう結論づけていた。
「エネルギーねぇ…ここいらでは、定期的に村の貯蔵庫に供給される魔力を持ってくる魔術師がいるけど…それみたいなモンか…」
充電器を手に取り、リーガンは言う。
金田はこの世界では電力の代わりが魔力で、それが電気よりも万能だが意味不明な理屈で世界に作用している、といちおうの結論をつけていた。
こればっかりは、いろいろ考えても時間の無駄だと思っていた。
だが、供給システムが確立されているとは少々驚きだった。
「魔力って、誰かが供給してたんですか?」
「そらそうよ、普通は大体の物が魔力で動いてんだから、魔力が切れたら困るだろうが、」
リーガンは半ば呆れたように言った。
「…そうなんだ、じゃあ、魔力で動く道具って、村の魔術師か誰かに頼むんですか?」
「そうだな、魔術師…ってぇほどでもないが、魔術を使えるじいさんがいて、そいつがここいらの道具を作ったりしてくれてんな。ホント簡単な物だけな、便利な物は大体町に行かないとどうにもなんねぇかな」
金田の問いにリーガンは答えた、それを聞いた金田と秋元は少しの希望を抱く。
「じゃあ、ぼくがちょっと行ってみようかな」
秋元はそう言って立ち上がる、その目はまさに目的の定まったオタクのそれだった。
「なら、お前は今日も労働よろしく!」
リーガンは嬉しそうに、金田の襟首をつかんだ。
ミリアの歌を聴いてからしばらく経つ。
後から知ったことだが、ミリアは修道院に身を寄せて暮らしているが、もともとは孤児だった。
今は育ちの悪い農作物や、乳の出が悪い家畜、果ては病気の人間などを歌を口ずさむことで治す、といったおまじないのようなことをして村人とかかわっているのだという。
金田は相変わらずリーガンに労働を押し付けられていたが、秋元の行動は変わった。
心の快復を図るためにミリアに付き添いながら、その手伝いをしていた。
純粋なミリアと、裏表のない発言や表現をする秋元は、不思議とかみ合っていたことは金田にとっても意外な展開だった。
そして今日もまた、金田はリーガンに連行されていった。
数頭の家畜が飼われている場所に連れていかれ、スコップを渡された。
家畜の糞の処理、金田はこれが一番しんどかった。
「なぁ!この国では20歳以下の女の子とおっさんは恋愛禁止、みたいな決まりってあるー!?」
牛らしき生き物の糞をスコップで掬いながら、金田はリーガンに尋ねた。
「なんだそれ、そんなモンねぇぞ」
柵の向こう、臭いが届かない距離から金田を見ていたリーガンは、大きな声でそう答えた。
「そうなんだー!」
金田は嬉しそうに叫んだ。
この世界は、年の差が恋愛の妨げにならない、ミリアを恋愛対象にしてもかまわない。
その事実を知っただけで、十分にうれしかった。
金田は、淡い月光の中で見たあの時のミリアの姿が脳裏に焼き付いて消えなかった。
あれはあまりにも鮮烈で、ずっと心を締め付け続けている。
…好きになっちゃうな、あれは…。
金田は自分が惚れっぽいのは自覚していた。
しかし今回は、いつものような勢いだけの思い込みではないと信じたかった。
「言っとくがー!ミリアはお前にはやらんぞー!」
金田の心を見透かしたように、リーガンがすかさず突っ込む、しかも大声で。
辺りにいた村人が何人か、金田の方をを振り向いた。
「で、でかい声で言うなー!」
金田は恥ずかしさのあまり、スコップを構えたままリーガンに近づく。
リーガンはスコップに着いた糞の臭いに少し顔をしかめながらも、やや真面目な口調で答えた。
「…まぁ、そもそも、司祭が許すワケもねぇんだが…それとは別でさ、なんかミリアは…なんていうか」
意外な顔をする金田に構わず、リーガンは続けた。目は真剣そのものだった。
「ここじゃなくてもっと大きな世界が似合うんじゃないかと思ってる、本人もこの村を出たがっていると…俺は思ってるんだ、それは司祭も同じでさ…お前がそうだとはどーしたって思えないが…誰かがミリアを、ここから連れ出す…あるいはそのきっかけを与えてやってくれないか、と…村のみんなは、そう思ってる」
「…大きな世界…まぁ、わかる気はするな…」
リーガンの意見には、不思議と金田も同感だった、そしてミリアのことを村全体がそんなふうに考えて大切にしていることに驚いた。
同時に、ならず者でおっさんの自分の恋心がその想いに反しているようで、胸の奥が少し痛んだ。
「ま、いいからウンコ片付けとけよ。ウンコも片付けられない奴をミリアの未来に関わらせたりはしねぇよ、絶対にな!」
そう言うとリーガンはいつもの調子に戻り、その場から去っていった。




