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導くカードは正解を知らない  作者: さんご
第一章 導くカード

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5/20

名前の残骸

数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。

この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。

もし気に入っていただけましたら、ブックマークや感想をお寄せいただけると、作者にとって大きな励みとなります。

なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。

夜は更けていた。


宿の灯りは柔らかく、外界の喧騒を遠ざける。

静寂の中で、ベルとカードは向き合っていた。


「……なあ、相棒」


ベルが、ぽつりと切り出す。


「お前の“元の話”、聞かせてくれよ」


カードは、少しの間沈黙した。


(……いいだろう)


その声は、いつもよりわずかに低い。


(俺は……たぶん、人間だった)


「たぶん、ってなんだよ」


(記憶が曖昧なんだよ。断片的にしか残ってない)


ベルは頷く。


「どんな奴だったんだ?」


(普通のやつだった。)


そして、しばらくの間。


カードは、自分の内側を探るように“考えた”。


(……名前は、あった)


「おう、どんな名だ?」


(確か……“かとう”……いや……)


微かなノイズのように、記憶が揺れる。


(“加藤”……“進”……)


「変な名前だな。でも、ちゃんとあるじゃねえか」


(……加藤進)


その名前を口にした瞬間。


何かが、引っかかった。


(……ん?)


「どうした?」


(いや……今の、なんか変だな)


カードの内側で、言葉が反響する。


かとう。


かとう?。


かーとう。


かーど。


(……あれ?)


「おい?」


(かとう……かーと……かーど……?)


「おい、落ち着け」


連呼が止まらない


(……)

(ちょっと待て)


カードは、急に焦り始めた。


(いやいやいや、そんなバカな)


「どうしたんだよ急に!」


(俺の名前、“加藤”だよな?)


「知らんけど、さっきそう言ってただろ」


(それがなんで“カード”になってんだよ!?)


沈黙。


ベルは、ゆっくりと口を開く。


「……いや、知らねえよ」


(おかしいだろ!?)


カードの声が、明らかに取り乱す。


(普通、人間が死んで転生したら人間とか魔物とかだろ!?)


「まあ、そういうイメージあるかもだな」


(なんで“カード”!?)


「知らねえって!!」


二人のツッコミが、同時に響く。


しばらくの間、沈黙。


やがて、カードがぼそりと呟く。


(……思い出してきた)


「お?何をだ」


(俺、働いてた)


「そりゃそうだろ。働かないと飯食えねえしな」


(すげえ働いてた)


「お、おう……。頑張ってったんだな。」


(朝から晩まで。いや、晩から朝もだな)


「は?寝ろよ。」


(“ブラック企業”ってやつだ)


「ブラックってどういう意味だよ。」


良くない意味だと察し、ベルは顔をしかめる。


(で、ある日……)


カードの声が、少し遠くなる。


(机に突っ伏して……そのまま……)


「……」


(終わった)


短い言葉。


だが、重い。


ベルは、何も言えなかった。


「……それで、カードに?」


(そこが問題なんだよ)


カードは、やや苛立ちを含んで言う。


(普通なら、転生だの何だの説明があるはずだろ)


「転生がよくわからんが、神様とか?」


(そうそう。それそれ)


(でもな、俺――)


一拍。


話しているうちにだんだん思い出してきたようだった。


(“手続き”された記憶がある)


「……手続き?」


(なんかこう……並ばされて……)


(名前呼ばれて……)


(“加藤”って)


「お、おう」


(で、そのあと)


わずかに、間が空く。


(“カード”って言われた気がする)


「……は?」


(いや、ほんとに)


カードの声が、真剣になる。


(“かとう”って呼ばれて、“カード”って処理された感じ)


ベルは、ゆっくりと理解する。


「……つまり」


「“加藤かとう”を“カード”って聞き間違えられた可能性?」


(……その可能性が、否定できない)


沈黙。


そして。


「……雑すぎるだろ!!!」


(だよなあああああああああ!!!!!神様~!!)


二人の叫びが、夜の部屋に響いた。


「いやいやいや、そんなミスある!?」


(あってたまるか!!)


「神様の仕事雑すぎだろ!」


(担当者出てこい!!)


しばらく、二人は荒れていた。


やがて、息を切らしながら。


ベルがぽつりと呟く。


「……でもさ」


(なんだ)


「もしそれが本当なら…」


カードを、そっと持ち上げる。


「お前、めちゃくちゃレアじゃね?」


(……どういう意味だ)


「おか――いや、だってさ。本来ありえないミスで生まれた存在だろ?」


(お金って言おうとした?)


「唯一無二じゃん」


(ごまかすな~)


その言葉は、不思議と軽かった。


だが――どこか、温かかった。


カードは、少しだけ黙る。


(……まあな)


そして、小さく。


(悪くないかもしれん)


カードは少し照れた感じだった。


「だろ?」


(あほなお前に会えたんだしな)

ベルが聞き取れないほどの小声で


ベルは笑う。


「“加藤進”改め、“カード”。いいじゃねえか」


(改名すんな)


「えー」


(せめてもう少しマシなのにしろ)


「じゃあ……“カトー”とか?」


(それはそれで雑だな)


軽口が、自然に交わされる。


だがその奥で。


カード――いや、“元・加藤進”は思う。


(……ミスで生まれたとしても)


(今、ここにいるのは事実だ)


そして。


(使ってくれる奴もいる)


ベルを見る。


(……なら、まあいいか)


完全ではない記憶。

不完全な存在。


それでも。


彼は――いや、“それ”は、カードとして生きていく。


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