私は強くいられる。
修学旅行をきっかけに、私の学年にカップルが増えた。
理穂や優希葉にも彼氏ができたらしい。
「みんないいなぁ、私も彼氏欲しい……。クリスマスにひとりは嫌だよ」
と、陽菜は笑うけど、こいつも告白をされていた。しかも、志水に。
「じゃあ付き合えばよかったじゃん」
「だって誰でもいいってわけじゃないんだもん」
陽菜は、先輩に片思い中なのだ。
みんなは、恋をして、青春を満喫している。
友だちのいちゃいちゃがすこし羨ましい気もするけど、私はこれでいい。
だって、奏汰さんに恋ができたことが幸せだもの。
そして、私は毎日バイオリンの練習に明け暮れた。
来る日も来る日も練習して、コンクール当日を迎えた。
「そろそろですよ」
舞台袖で声をかけられて我に返った。
すると、ステージから聞こえる音に、夢中になった。
サンサーンス作曲、『序章とロンドカプリチオーソ』。
めちゃくちゃに美しい。
ところどころ音が震えるが、それがまた美しさを増す。
茶色がかった短髪がゆれ、奏でる音が幸せそうに踊っている。
思わず口元がゆるんだ。
ホールに拍手が響いて、自分の出番があと少しだと自覚した。
心臓がバクバクいいはじめて、G弦に触れてみた。
やっぱり、ほっとする。
舞台に上がると、照明が眩しかった。
伴奏の人とアイコンタクトをとり、演奏が始まる。
私はこの会場にいる人になにか伝えられるかな。
元気を与えられるかな。
ふと、もう一つのバイオリンが聞こえた気がした。
楽しい、懐かしい。
高台から見える海も、柔らかく香る金木犀も、何もかもが愛おしい。
ああ、幸せだ。
こうして舞台の上で、誰かに音を届けられるということ。
バイオリンが好きだということ。
幸せな思い出があるということ。
私は、この世に音楽がある限り、強くいられる。
それは、あなたと出会えたから。
静かに最後の高音を鳴らし終えて、弓を弦から離したところで、拍手を浴びた。
それこそ、いままでされたことがないくらい、たくさん。
ちらっと隣を見てもそこに奏汰さんはいなかった。
当たり前の切なさに耐えながらも、私の音を聞いてくれた全ての人への感謝を込めてお辞儀をした。
ステージから降りた頃には、頬が火照っていた。




