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遊び人を舐めんな!【連載ver】  作者: 国高ユウチ
01:遊び人の仕事
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03

 ナナイの街で馴染となりつつあるギルドに依頼の終了報告に向かうと、美人で華奢なエルフのお姉さんではなく、スキンヘッドでムキムキマッチョのギルド員、タイゾウが出迎えてくれた。

 受付窓口は他にも二つあるが、この街に来る以前からの知人であるタイゾウを無意識に選んでしまったのは、昔からの知人だからという理由よりも、彼の前だけ報告の冒険者が並んでなかったからという方に比重が置かれていたりする。



「おー、予想より早いお戻りじゃねえか。『勇者』サマ」

「ははは、今回はエッタ一人を街に残しちゃってたからね。早く仕事を片付けないと、エッタが寂しくて死んじゃうでしょう?」

「……いやいやいや、寂しくて死んじゃう生き物は生物としてはいかんでしょう」

「エッタは僕がいなくて寂しくなかったって言うの?」



 顔は笑顔のままなのに、碧の瞳が圧力を込めてこちらを射抜く。薄っぺらい笑みを浮かべながら殺気をばらまくのはやめてほしい。

 繋いだままの手にもどんどんと力が籠りはじめ、放っておくとめきめきと音が響きそうなくらいの痛みが襲ってきた。



「いや、別に寂しくなかったってわけじゃないけど」

「なんだ、寂しかったんじゃない。よかったね、僕が早く帰ってきて」

「あー…うん、そうだね」



 タイゾウの前でご満悦な表情を浮かべるジローを否定するのも面倒で、頬を掻きながら視線をそらす。

 彼は王都にいるときからの知り合いなので二人のやり取りにも生ぬるい視線を向けるくらいに慣れたものだが、ギルド内にいる他の冒険者は違う。

 生ぬるいどころじゃない視線がビシバシと、視線に鋭さがあるなら身体に穴が開いてるんじゃないかってくらいに突き刺さる。

 鼻持ちならないと言われるかもしれないが、マリエッタはいわゆる美人に分類される。

 昔、この美貌に目を付けた奴隷商の男に、それ専門の奴隷として付加価値を付けて売られそうになった程容姿は整っていて、職業上の理由も兼ねてアドバンテージになるので、美貌を磨く努力を欠かしたこともない。

 毎日の野菜ジュースに、パックに、適度な運動。睡眠もきっちりとる食事バランスも意識している。

 お蔭様で昔と種類は違うものの、昔のままの美貌をさらに花開かせて成長した。


 ジロー自身は立っているだけで人目を惹きつけるような華があるわけじゃないが、よくよく見れば端正で整った顔立ちをしている地味な美青年だ。

 眼帯で片目を隠していようと、嘘くさい笑顔を常に浮かべていようと、口を開けば棘がある言葉が出て来ようと、十分鑑賞に耐える顔立ちをしている。

 自分たち二人が並べば何もしてなくてもそこそこ視線が集まってしまうのは常ではあるものの、なんとも微妙な会話に聞き耳を立てられるのは好ましくない。

 さりげなく握られている手を放そうと上下に振ってみるが、握力はジローの方が上なのでぴくりともせず、むしろじりじりと力を籠められるので抵抗をあきらめた。



「相変わらず仲がいいこって」

「当然だよ。僕とエッタなんだから」

「…お前さん、ガキの頃からぶれねえなぁ。そんなんだとマリーちゃんも苦労するんじゃねぇか?」

「『勇者』である僕が傍にいるんだから、エッタが苦労するわけないでしょう」

「いや、そういう意味じゃなくてだな、主に恋愛方面というか」

「エッタには僕たち・・・家族がいるからいいんだよ」



 きっぱりとマリエッタの代わりに即答したジローは、ドヤ顔をタイゾウに向けた。

 何とも言えない顔でジローの発言を聞き遂げたタイゾウは、どこか可哀想なものを見る眼差しをマリエッタに送る。



「マリーちゃん…折角美人に生まれたのになぁ」

「いや、ちょっと待って!?諦めないで、タイゾウさん!私もまだ諦めてないから!」

「だがよ、いくらマリーちゃんが美人でも、こいつら・・・・を出し抜いてあんたを嫁にする猛者…俺には想像できねえよ」

「ぐっ…」



(やばい、私にも想像できない)



 脳裏に浮かんだ家族たちと、隣に立つ素晴らしくいい笑顔のジロー。

 一般女性の適正婚期は二十歳前後、冒険者をしている女性は三十路前後とされているが、結婚どころか今までの人生で一度も恋人ができたことすらない。

 同い年の友達の中には子供を二、三人生んでる子もいるのに、軽く凹む。このまま生涯ボッチだったらどうしよう。

 むしろ一生嫁に行かなくていいと断言してる家族に囲まれて生涯を終える図しか浮かばない。

 顔を青ざめさせ冷や汗を浮かべるマリエッタに小首を傾げたジローは、そのまま突っ込むでもなくタイゾウへと手を出した。



「そうだ、そんなことより今回の依頼の報酬をもらえる?」

「え?私の将来『そんなこと』?」

「うん。どうせどんな男連れてきても絶対に邪魔してやるから同じ結末だしね。それよりもさっさと依頼料受け取って家に帰りたいし」

「!?」



 さらりと人の人生を破滅させる宣言をしておきながら、まったく意に介さないとはこれいかに。

 こんな奴に将来設計を邪魔されてなるものかと密かに決意を抱きつつ、以来完了報告とともに報酬を受け取ろうとしているジローを睨みつけた。


 依頼の完了にはギルドが発行する『冒険者カード』が必須で、ギルドから正式な依頼を受けると冒険者カードの裏面に依頼内容が記載され、完了すると完了マークが浮かび上がるのだ。

 完了マークは依頼によって違うのだが、今回ジローが受けた届け物なので依頼完了のマークは『六芒星』で、さらに指名の依頼を表す『小さな太陽』が裏面に描かれている。依頼時に正三角形が描かれ、受取人が依頼完了とみなした時点で冒険者カードに逆三角形が記載される。

 完了マークが浮かんだ冒険者カードをギルドが専用の魔法器具に翳し、問題がなければ報告完了となり依頼達成の流れだ。

 他にも冒険者カードは冒険者のレベル管理や、冒険者の身分証明書代わりとしても利用され賞罰の記載もされていて、魔法でコーティングされてるので滅多なことでは傷ついたりしないが、なくしたら再発行の手数料や面倒な手続きがあるので、冒険者であれば管理には気を使う。


 ちなみに名前、職業、年齢、性別、レベルは誰でも確認できるが、ステータス、スキル類はプライバシー保護のためギルドの魔法器具か、もしくは祝福を受けた高位神官に頼まねば見ることはできない。

 マリエッタであれば職業に『遊び人』、ジローであれば『勇者』と誰が見ても判別できるようになっていて、虚偽記載は出来ない冒険者ギルドトップシークレットの作りになっている。



「タイゾウさん、私も依頼完了報告」

「おう、お疲れさん」

「…何?エッタも依頼を受けてたの?」

「遊んでたわけじゃないって言ったでしょ。あんたの仕事中にぼーっと宿屋で過ごすのも暇だし、私も一応『護衛』の仕事をね」

「つっても、実際は子守みたいなもんだけどな。花祭り中に仕事が忙しくて子供の面倒が見れない商売屋が、連名で子供の面倒見てくれるよう依頼を出しててな。滅多な危険があるわけじゃねえよ」

「ふぅん」



『護衛』と聞いてピクリと眉を動かしたジロー相手に、言い訳するようにタイゾウが言葉を連ねる。

 過保護な相棒を無視して仕舞っていた冒険者カードを取り出すと、タイゾウに差し出した。

 一応マリエッタの仕事は『護衛』になるので、依頼時には盾のマーク、依頼主が完了と認めると盾の中に十字が追加される。

 きっちりと完了マークが描かれた冒険者カードを器具に翳せば、裏面は白紙に戻り、こちらも無事に依頼完了報告が済まされた。



「ほら、マリーちゃんの分の報酬の八銀貨」

「ありがと」

「なんだ、護衛にしては随分と安いじゃない」

「実質は子守みたいなもんだって言ったでしょ。それに日当だし、依頼内容を考えるともらいすぎなくらいよ」

「八銀貨で?」

「あんたの届け物の依頼と一緒にしないでよ。二十金貨ももらえるような仕事、私だけに回ってくるなんて滅多にないの」



 ちなみに硬貨は一番小さい単位から銅貨、銀貨、金貨、月貨げっか陽貨ようかとあるのだが、一銅貨が大体百円と同じ程度の価値で、八銀貨は前世での比較だと八千円、二十金貨は二十万円相当くらいになる。

 月貨げっか陽貨ようかに関してはまた微妙に単位が変わり、一月貨げっかは百万円、一陽貨ようかは一億円ほどになり、陽貨ようかに至っては余程の金持ちじゃないとお目にかかることはまずない。



「ところがどっこい、あったりするんだな」

「…え?」

「新しく持ち込まれた依頼なんだけどよ、ちょっとばかし訳ありだが俺はマリーちゃんが適任だと思うんだ───どうだ、興味はねぇか?」



 ツルピカスキンヘッドを室内の明かりでキラリと光らせたギルドマスター・・・・・・・は、明らかに胡散臭い調子で楽しげににやりと口角を持ち上げた。

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