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18.土の中の沈黙

 「出ない……」


 私は鉢をじっと見つめていた。


 土は乾いていない。

 水をやりすぎてもいない。


 日当たりも悪くない。


 それなのに、何日経っても芽が出てこない。


 少女からもらった種。


 あの子は、これを大切そうに渡してくれた。


 私はさっそく鉢に植えて、毎日様子を見ていた。


 そして、毎朝の観察結果を帳面に書き残していた。


 ――一日目。

 変化なし。


 ――二日目。

 変化なし。


 ――三日目。

 土の表面に変化なし。


 ――四日目。

 変化なし。


 ――五日目。

 鉢の場所を変えてみる。変化なし。


 日数だけが増えていく。


「……おかしい」


 私は土の表面を指先でそっと触れた。


 変化はない。


 掘り返して確認することも考えた。


 けれど、それでは種を傷つけてしまうかもしれない。


 私は手を止めた。


「もう少し待ちます」


 そう呟いて、鉢を元の場所へ戻す。


 翌日も。


 その翌日も。


 芽は出なかった。


 観察日記には、同じ言葉が並んでいく。


 ――六日目。変化なし。


 ――七日目。変化なし。


 ――八日目。変化なし。


 私は毎朝、起きると最初に鉢を見るようになった。


 葉はない。


 茎もない。


 土の表面には、何の変化もない。


「……まだです」


 さらに数日が過ぎた。


 私は鉢を持ち上げ、角度を変えて眺める。


「日当たりは問題なし」


 置き場所を少し変える。


「水分も問題なし」


 土を指で確認する。


「温度も……たぶん大丈夫です」


 それでも、芽は出ない。


 私は観察日記を開いた。


 そこには、毎日の天気や気温、水をやった時間、鉢を置いている場所まで細かく書かれている。


 


 土を変える。

・水を変える。

・置き場所を変える。

・魔力の状態も調べる。(わかってる以上の鑑定はでなかったけど)

 

 その中で、何日経っても変わらない一行だけが、妙に目立っていた。

 

 ――発芽、なし。


「発芽条件が違うのかも……」


 少女からもらった種について、分かっていることはほとんどない。


 どんな植物なのか。


 どこで育つのか。


 どのくらいの期間で芽を出すのか。


 何も分からない。


 私は鉢を見つめた。



 すぐに答えが出るわけではない。


 だからこそ、少しずつ試すしかない。


 私は観察日記の新しいページを開いた。


 今日の記録を書き込む。


 ――34日目。


 そして、その下に一つだけ書き加えた。


 ――発芽しない。


 そのさらに下に。


 ――原因、不明。

 

 それから、さらに日が過ぎた。

 

 結局、その種は芽を出さなかった。

 

 鉢の中の種は掘り返さず、そのままにしてある。

 

 

 いつか発芽するのか。

 

 それとも、このままなのか。

 

 この種はどこから来たのか。

 

 今の私には、まだ分からない。

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