11.魔女の裏庭と物騒な木札
結局、店の裏手の小さな区画を借りることになった。
最初は青鈴草と白眠根だけだった。
あのとき拾った麻宵草の種も芽を出づけば芽を出し、痺れ蔓、火傷草、眠り茸、さらには触れると皮膚が赤く腫れる赤棘草まで増えていた。
オルガは毎朝、裏庭を見ては頭を抱えた。
「普通、薬草園ってのは、もう少し安心して見られるものなんだけどねえ」
「全部、薬効があります」
「見た目が安心できないんだよ」
「薬効があるなら問題ありません」
「村の連中が近づいたら問題なんだよ!」
そこで私は、植物ごとに木札を立てることにした。
《触らないでください》
《食べないでください》
《花粉を吸わないでください》
《夜間は近づかないでください》
最後の札を見たオルガは、しばらく無言になった。
「……もっと穏当な書き方はできないのかい」
「事実です」
「事実でもね」
【危険!】
これなら、先ほどよりは穏当だと思う。
オルガは木札をしばらく眺めていた。
「……どこが穏当なんだい」
「危険な理由は書いていません」
「そこじゃないよ」
「では、少し詳しくします」
私は新しい木札を手に取った。
【命に関わる危険があります】
「……リゼット」
「はい」
「前のほうがまだましだよ」
村人たちは、私の庭を遠巻きに眺めるようになった。
子どもたちは「あの家の裏には魔女の草がある」と噂し、大人たちは「リゼットに近づくと毒を盛られる」と冗談を言った。
もちろん、私は誰かに毒を盛るつもりなどない。
ただ、珍しい植物があれば観察したいだけだ。
それに、毒草は美しい。
普通の薬草にはない、鮮やかな色や奇妙な形をしているものが多い。生き残るために毒を持ち、食べられないように進化し、他の植物とは違う方法で命を繋いでいる。
その姿を見ていると、胸の奥が静かに熱くなるのだ。
***
ある日、村の子どもたちが私の家の前を通りかかった。
「おい、毒草女!」
「誰が毒草女ですか」
「毒草をいっぱい持ってるじゃん」
「薬草も持っています」
「でも毒草の方が多いんだろ?」
「数えたことはありませんが」
「毒草を食べても平気なんだろ?」
「どうでしょう」
「じゃあ、これ食べてみろよ!」
少年が差し出したのは、道端に落ちていた黄色い木の実だった。
私は鑑定する。
《食用不可。強烈な苦味。軽度の下痢作用。未熟果には嘔吐作用》
「これは食べない方がいいです」
「なんだ、毒に強いんじゃないのかよ」
「毒に強いことと、無駄に苦い思いをするのは別です」
「……」
「それに、植物を粗末に扱うのはよくありません」
私は実を拾い、近くの木の根元へそっと戻した。
少年たちは、つまらなそうに去っていった。
その様子を見ていたオルガが、店先で小さく笑った。
「そこはまともなんだねえ」
「植物を大切にするのは当然です」
「人の扱いは?」
「勉強中です」
「毒草の扱いより、そっちを先に覚えな」




