141.I.C.U. - Internal Chaos Unit -
「これは……ヤバいわね。何がヤバいってグレイスの縫い方も他人の皮を何枚も縫いつけたのもヤバいわね。グロいわ。それに傷口は壊死し始めてるし内臓はグチャグチャ。心臓と骨髄は無事だけど……むしろそれだけ。胃も腸も肝臓も膵臓も潰れて腐ってる。作り直すにしても先にお腹の穴をちゃんと塞いで綺麗にしないと死ぬわ」
「そんなに酷いの? なら早くこの人間の皮を剥がした方がいい?」
「飼い主様、死んじゃうのです? なんか縫い目が黒く変色してるのです」
「穴、大きいw 笑えない……www」
「笑ってるじゃない。やめなさいよ。ねえ、ダンジョンコア、あなたならこの人を救えるんでしょう? 貴女たちの王を必ず助けて」
「うーん……シスター、スライムの生き残りで何も混ざってないのっている? アスティ、あっちの部屋に行って製薬用のアルコールを取ってきてちょうだい」
「スライムはいるけど……下層は全て侵入者が……いや待って。一体だけ隠し部屋に隠れてる奴がいるわ」
「……仕事もしないで隠れてるとは最低なスライムね。でもいいわ、来なさい!」
「あ、アスティはエルフさんのところに行ってくるですぅ!」
「……! ……!!」
「このスライムw 女体化してサムズアップしてるwww」
「あんたまさか初期スライム?」
「……!!」
「シノミヤが心配で死なないように隠れてたって……w」
「はぁ……そーいやあんたが一番こういう時のシノミヤが大怪我してくるって知ってるものね。いいわ、今すぐに元の形に戻ってシノミヤのお腹の傷を内側から塞ぎなさい。縫い目の荒いところがあるから、あんたなら入れるでしょ」
「……!」
「ぐるる」
「何よグレイス、私のハウス命令を無視して……偶然シノミヤを助けられたからいいものの。まさかこんなに裁縫のセンスがないなんて思わなかったのよ」
「がうがう」
「グレイス、今はダンジョンコアと喧嘩をしている場合じゃないでしょ。アンタはごはんいっぱい食べてきたんだからじっとしてなさい」
「あら? あなたたちが話している間にスライムがこの人の中に完全に入ってしまったわよ? 大丈夫なの?」
「テルシアねぇ、あんたも急に態度が変わりすぎなのよ。心配しなくてもこのスライムはシノミヤの怪我を、この私の次に治してきたベテランよ。壊死して腐った部分と止血はこのスライムに任せればいいわ。あとは、この二歳児が縫ったみたいな縫合を解いて皮を引き剥がさないと」
「アスティ帰りました! アルコールをもらってきたのです!」
「おーけー、それじゃあそれを腹に思いっきりぶっかけて、残りはシノミヤの口にでも突っ込んどきなさい」
「え!? これ消毒液ですよ!?」
「どうせ寝てるんだからわかりゃしないわよ」
「そういう問題? www」
「大丈夫、スライムが保護してるからお腹の方のアルコールはスライムが調整して必要なところにだけ回してくれるわ。飲ませるのは気付けよ」
「気付けって普通鼻に嗅がせるんじゃなかったかしら……?」
……臭い。あとなんかめっちゃ痛くて苦しくて喉が熱い。そして煩い。目は……開いてんのかこれ? なんか視界が真っ白で霧の中みたいにボヤけている。声が……たくさん。コアちゃんと幹部たちと……テルシア?
いったい何を大騒ぎしてるんだ?
俺が寝てる間に何かトラブルでも……。
「それじゃあ、アスティ! その糸を解くのよ」
「えぁ!? アスティがやるのです!?」
「そうよ、なんか得意そうな顔してるじゃない」
「どんな顔ですかぁ!? ……もぅ……や、やってみるのです……うぅ、飼い主様、痛かったらごめんなさいなのですぅ」
コアちゃんに何か言われてアスティの不安そうな声がして、何をするつもりだろうかと思ったら。
「うぎゃぁぁぁぁぁぁ! 痛い痛いいったい何ぃ!?」
腹に激痛。
鋭利なものが皮と肉を何度も貫きながら出し入れされる激痛に思わず叫びを上げる。
「き、気付けが早かったようね……でも、生きていてよかったわシノミヤ」
気付けが早かったって何!? なにこれ手術中!? なんで!? なんで手術中に起こしたの!? タイミング絶対早……痛ぁい!
「痛い痛いムリムリムリ、やめてくれ、頼むから今すぐにやめてくれ! つーかなんでそんな同じところで何回もぐるぐる抜き差ししてるんだよ!?」
「仕方がないじゃない。グレイスは初めての裁縫だったのよ」
「ぐるるぅ!」
でしょうね!! 緊急事態だったしね!!
でもそれでなんで同じところ……うっわ、何この縫い目。全部間隔が違う。なんならバッテンに縫ってあったり、やたら厳重に何周もしてるところがある——って針ィ! 針、なんで刺さったまま抜き差ししてんだ! 抜く時にはいらねーだろそれ!! というのを伝えたいのに口から出るのは悲鳴のみ。助けて! 殺される!
「もう、こんなに痛がってるじゃない。アタシに貸してみなさい。あ痛っ! 指さしちゃった……ぺろ」
シスター! お前は何の役にも立ってないな!
なんでそこで自分の指が刺せるんだよ! ぶってんじゃねぇぞ! そんなちょいドジお茶目属性、今出すんじゃねーよ! 代われ! お前は今すぐに他のやつに代われ!
「仕方ない……普段からシャークヘッド作りで鍛えているサメに任せて……www」
笑ってんじゃねーぞサメ! ムカつくけどでもシャークヘッドで針の扱いに慣れてるなら心強い! 俺の腹の糸もお前ならなんとかできる! 頼むぞサメちゃん!
「え、あのお帽子ってやっぱりサメちゃん様の作った作り物だったのです?」
「!? ち、ちちち、チガウヨ? サメ、生まれつきサメ、頭、ツクッテナイ」
なんで今そこツッコんだんだよアスティ! サメちゃんがシチュエーションを大事にし始めちゃっただろうがいい加減にしろ! サメちゃんまだ針と糸にさえ触れてないのに一歩下がっちゃってるじゃねーか!
「はぁ……貴女たちって本当に世話が焼けるのね。裁縫くらい私に任せてちょうだい」
テルシア! お前とは話したいことがたくさんある! でもその前にありがとう! こんなバカだらけの場所に常識を持っていてくれてありがとう!
「こ……これがあなたの体なのね……痛々しい……でも、逞しい。私のためにこんなに傷ついて、戦ってくれた……あなた、ああ……でも、私みたいな汚れた女があなたに触れてしまっていいのかしら……」
いいに決まってんだろ!! なんで今デレてんだよ! 嬉しいよ? 嬉しいけど絶対今じゃないだろ! 後でにしろよ! こっちの状態を考えてからデレろよ! なんでちょっと留守にしただけでバカ一人増えてんだよ!!
なんなんだこいつらマジで。やるならひと想いにやってくれよ。じっくりじゃなくてパッとやってくれたらそれでいいから!
「ったく、どいつもこいつもこれじゃ埒があかないわね。いっそのこともう縫い目じゃなくて本体の皮を外側から剥いじゃえばいいじゃない」
え? コアちゃん今剥ぐって言った? 抱擁の間違いかな? 俺の耳のバグかな?
「皮を剥ぐくらいならアスティにもできるのです!」
「なによ、それくらいアタシにだってできるわよ」
「鱗なら剥がせる……w」
「私も拷問で皮を剥いだことはあるわ」
息が合うポイント!
人間の皮を剥ぐなんてどマイナーな作業で対抗心燃やすポイントないだろ!
お前ら俺のこと本気で助けようと思ってああ……やめろ、やめてくれ、せめて麻酔!
「麻酔でもう一回眠らせて!」
やっとのことでなんとか一言。そうだ、これだけ伝えられればこのバカ共でもさすがに理解するはず!
「これ以上麻酔は無理よ、六階層でグレイスがお腹の穴に直接大量の麻薬をぶち撒けたもの」
コアちゃん! 言った! 今ついに麻薬って言った! ずっと避けてたことぶち撒けたのはお前だよ!! コンプライアンス考えろよ!
「くそ……もうこんな腹嫌だ」
魔王だけど今コアルームに横になって泣いてる。ほんと無理。
「!! みんな! シノミヤからお題が出たわ!」
「お、お題なのです?」
「そうよ! シノミヤはツッコミを入れている時だけはそれ以外のことを考えられなくなる体質なの! さあ、お題は"こんな腹は嫌だ"よ! 魔王軍幹部の力を見せてご覧なさい! いきなさい、シスター!」
「え!? あ、アタシから!? えーと、お腹によく喋るカエルが張り付いてる」
ありきたりだわ! 古典派か! 日本じゃそれ普通だから! あと現代世代には伝わりにくいから! 誰にでも分かりやすくパッとイメージしやすいのにしろ! 次! いや、次じゃないが……そもそも何を大喜利始めて誤魔化そうとしてんだよ! それで痛みを感じなくなるわけが……
「次、テルシア行きなさい!」
「初産から五つ子が内定している」
めっちゃ嫌だ! 子宝にも限度がある! 人生設計練り直し! お義父さん義母さん年金暮らしのところすみません、同居とかって……え、しんどい? あー、二世帯住宅ですか? 七対三はどうでしょうか……? はい、こっちが三です。あ、八出してくださる? 本当にすみません、助かります。これでこの子たちをなんとか小学校に通わせ……ランドセルが十万!? 五つで五十万!? しかも税抜価格!! お、お義父さーん!!
最初は一人っ子から始めたかった! 上の子のお下がりを下の子に使い回せない! 幸せな安定した生活さようなら!
「これは効いてるわね。声に出してないけどこれは完全にだいぶ先の未来を見据えたツッコミをしているに違いないわ。次、サメちゃん!」
「ICカードにめっちゃ反応する」
ピッ! あ、すいません。俺のお腹が判定吸っちゃいました。先に改札通りますね。ちょっと失礼して……ピッ! あ、ちょっとそれ俺のお腹が決済したのに先いかないでお兄さん、あちょっと……ムズいわ! 勝手にIC対応させられる生活めっちゃムズいわ! だって周囲の理解が得られないんだもん!
「これはちょっと微妙ね。膨らませても面白くなさそうだわ。アスティ、やってみなさい」
「スーパーのセルフレジ全部決済しちゃう」
ICカード付いてるからね! あんな密集地帯で誰か電子マネー選択したらそうなるよね! なんなら交通系にも反応しちゃうから! それぜーんぶ俺のお金! お気になさらずに! 今日は俺の奢りです。奢るかぁ! 前のサメちゃんが微妙判定されたのをいいことに拾って再利用で攻めてくるな! やり方はいいぞ、その調子だ……じゃねぇわ! 払いたくねーから! 他人の今晩の食材代、代わりに払いたくねーか、ら……?
"払いたい"から"払いたくない"……腹痛くない?
天才かよアスティ! 個性の開花おめでとう! 違うところでやれ!!
「くっ……ここまでやってもダメだなんて、こうなったらもうサキュバスに頼んで無理矢理夢を見させることにしましょう」
それだよ! 最初からそうしろよ! むしろサキュバスここで使わなくていつ使うんだよ! 早くやってくれ! 気持ちよくなる準備はできている!
「さ、サキュバスって淫魔のことでしょう!? それはダメよ! ねえ、あなた……独り占めしたいってわけじゃないの……あなたを縛り付けるつもりはないけれど……でも、今は私のことだけ見ていて欲しいの」
後にしてくれ! テルシア! お前マジで今じゃないから! デレるのも嫉妬するのも今じゃないから! 俺のことを思うなら眠らせてくれ頼むから!
「あと、私……処女膜張り付いてないけど……大丈夫かしら?」
「なんの心配してんだよ! そんなんクソどうでもいいわ! 処女膜より俺の腹の膜さっさとどうにかしてくれ!」
「……っ!!」
処女膜どうこうはプリムス煽るために言っただけでどうでもいいわ! もう本当にこれ以上はやめて……。
「どうしよう……シノミヤが処女厨かと思ってサメベロスにユニコーンの角生やしちゃった……www」
サメちゃんが寝たきりの俺に見えるように差し出したのは、決闘前にお別れしたサメベロスがピンクの夢色になって、一本の角を生やした姿が三匹分。
お前、それ俺が今後一生サメベロスでひと笑い取らなきゃいけない誓約を背負ってんのに先に弄ってくんじゃねーよ! 滑りに滑り重ねてハードル上げるのやめてよ! しかも魚に角生やしたらそれユニコーンじゃなくてただのカジキマグロだろ!!
「ふぅ……とりあえず壊死した部分ごと皮を剥がすのは成功したわ。あとはスライム膜に合わせて皮膚を再生させていくだけよ。シノミヤ、お疲れ様」
「あ……え? 終わったの?」
「ええ、シノミヤが騒いでるうちにね」
騒いでたのは俺じゃなくてお前らだが。つーか知らないうちに俺の皮膚切られてたのかよ。
「小児科医が泣く子に注射をするテクニックの応用よ」
「誰が児童だ」
「あ、母さま、そのまま閉じちゃうと……」
「あ」
「あ」
「あ」
「あ」
「あ」
「え、おい、なんだよ。やめてよ。「あ」だけが五つも並ぶのなんて、俺、見たことも聞いたこともないよ何やったんだよ、おい」
「つ、次は内臓の修復にかかるわね」
「母さまもお疲れなのです」
「ま、まあ、これからっしょ、アンタなら平気よ」
「ケアレスミスは誰にでもあるw」
「あ、あなた……お肌がとっても綺麗になって素敵よ」
「…………」
おい、今なんかセリフが一人分多かったぞ。なんだよ、誰かいるのか? 沈黙してハイドしてるやつがいるだろ、何処のどいつだよ。
「沈黙の臓器がひとつ増えただけよ」
「スライムじゃねーか! 取り出し忘れたの!? 俺の腹の中に!?」
出たよ水回りのトラブル!
もうこんな腹嫌だ!!
少し真面目な回が続いていたので気が触れて長くなりました。まだいくつかシノミヤの腹でネタはあったのですが5千文字超えて日和りました。
4月末には第二部を終わらせるつもりが気が付けばGWが終わりそうです。本当に今度こそ今月上旬にはエピローグ含めて終わらせて第三部(完結編)に入るはずです!本当に!
あと、まだの人はブックマークとか高評価をして応援してくれるとヘテロシティに繰り出すのを我慢して毎日書けるのでよろしくお願いします!




