表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夏の思い出  作者: 凡。
PR
4/9

(4)「想いと記憶と温もり」

待っていた者、あったもの、そしてあたたかさ。

今、俺が居るのは本殿だ。本殿の奥の大きな狼の像の傍。


「これが、ボク。もう今は誰も来ないから、ちょっと汚れちゃってるけどね。」


見上げるほどの大きな銅像がそこにあった。

隣にいるのと同じように正服を着て、しっかり前を見据えている像。

顔つきも凛々しく、何かを守るかのような佇まいをしている。


「本当に覚えてないの?」

「覚えるも何も知らないし、何の話なんだよ。」

「……そっか、匂いを嗅いでようやく分かった。ヒトの時間の流れは早過ぎだね。

 どんな気持ちであっても、ボクは一緒に居ちゃいけないのかな。

 キミはもうボクの……。」

「一人で納得して凹まないで欲しいんだが。」


さっきは本殿に連れ去ってくるくらい強引だったのに、

見た目で分かるくらい凹んで耳も下がっているし尻尾も下がっていた。


ようやく話を聞いてみると、500年前からある神社らしい。

この場所は森に多くの狼が住んでいて、ヒトは森に住むオオカミを敬い、

大事にすることで共存していた。次第に土地神として祀るようになり、

あの神社が出来たらしい。それもあって、昔から犬もカミサマの遣いとして、

どの家でも必ず1頭以上飼われていたらしい。


こいつが言ってる『相手』は、どうやらその500年前の時の神主。

以後も何百年かは神主の一族がきちんと管理していたのだが、

いつ頃からは不明だが、急に神主が来なくなったらしい。


「それでね、ボクはここの土地を守る約束を、その人としたんだ。」

「そんな話を親から聞いたこと無いぞ……。」

「そうなの? でも、キミの匂いは、とてもあのヒトに似てるよ。

 だから神通力の少ないボクの姿も言葉も見えてるんだし。」

「石碑が俺だけ読めたのもそのせいか?」

「うん、そう。でもこれで、ボクの事が見えるヒトが出来たから、

 ちょっとだけ神通力も戻ってきたかも。

 ボクたちカミサマはね、『祀られて』『信じて貰う』事で、

 神通力や神力って呼ばれるチカラが使えるんだよ。」

「神通力や神力とかで何が出来るんだ?」

「えーっと、ボクの場合は『守る力』だから、

 厄を払ったり、危険なことから守ったりとか、

 危ないものを封じる力になるかな。

 何かを『与える力』ではないから、

 金運上げたり縁を結んだりとかは無理だよ。」

「急に神社っぽい話になったな。」

「神社で出来る事の種類は、カミサマの神通力や神力の種類で変わるからね。

 それぞれの系統とかもあるけど、ボクの場合はそうなるの。」


そう言って、威張るように胸を張りながら笑ってみせる。


「話を戻すと、土地を守る約束したんだけどさ、

 さっき言った通りボクの神通力が弱くなっちゃってるんだよね。」

「うん、そう言ってたな。」


大狼像のトコまでそいつは歩いて行って、それに触れながらつぶやいた。


「このままだと今年の夏が終わる頃に、ボク、消えちゃうんだよね。」

「俺が見えててもか?」

「うん、それでも足りないんだ。土地を『厄』から守ってるから。」

「厄?」

「土地を守ってるって言ったよね。守るって、外からの影響を防いで、

 本来なら『なってた事』を『なかった事にする』って事なの。

 だから、本来ならこの場所はとっくの昔に、荒れたり、水の底に沈んだり、

 砂漠になったりしててもおかしくない場所なの、分かりやすく言うとね。」

「おまえが消えたら、すぐになるのか?」

「ううん、違う。何十年か掛けて、少しづつ変わってくよ。

 一旦は発展したり、良くなるかもしれない。

 けれど、今までの受けなかった『厄』が必ず舞い込んでくる。

 その時にはもう祓えるヒトもカミサマも居ないって事。

 どうにも出来なくなるから、『自然に任せる』しかなくなるの。」


寂しそうな、諦めたような顔をしながら俯いているのを見て、思わず駆け寄って抱きついた。


「えっ!?」


勢いで動いてしまった気がするが、気にしないでそのまま抱きつく。


「……思ったよりフサフサなんだな。」

「急に抱きついた感想がそれなの?」

「いや、何かとても守ってあげたくなったから。

 俺みたいな子供に何が出来るのか分かんないけど、

 大人にも聞いてみる。ココが残るのが一番良い気がするし。」

「うん、ありがと……。優しいね、血筋かな?」

「これは血筋とかじゃなく俺の意志のつもりだけど。」

「ごめんね、あのヒトみたいな事言うからさ。キミも十分に良い子なのにね。」


暫くそのまま抱きついてると、外から雨の音が聞こえてくる。


「雨降っちゃったか。あっ、今何時だ!?」


手元の携帯を見ると既に18時を過ぎていた。

急いで、親に嘘ついて行くと言った友人の家に電話を掛ける。


「おう、遅かったな。」

「その様子だと既に電話来たんだな?」

「ああ、来たぜ。何も聞いてなかったから適当に合わせといた。

 もう夜だから泊まる話でいいよな?」

「サンキュー。あとでジュース奢る。」

「2本な。それと、あとで話聞かせろよな。

 どうせ神社行ってんだろ?

 役所のヒトから早めに上がった話聞いてるぜ。」

「バレてんのかよ。わかった、明日な。」

「昨日のアレ、何だか分かんなかったが気をつけろよ。」

「あー、それな。もう大丈夫だわ。それも明日話す。」

「はぁ!? まぁいいや。明日な。」


電話を切ると、不思議そうにその様子を見られていた。


「面白いね、それ。」

「そうか、見たこと無いもんな。携帯電話っていう遠くのヒトと話せる機械。」

「へぇ……便利だねぇ。」

「どうすっかな、もう暗くて自転車も濡れちゃったし帰れねえ。」

「ココに泊まっていけばいいよ。誰も来ないし。」

「寒くないか?」

「それは……ほら。ボクが布団代わりをしてあげるから。」


改めて正面からそいつに抱きつくと、白い毛に包まれる。


「これなら、暖かいでしょ?」

「うん……。あったかい。」


家の布団よりフカフカで、暖かくて優しい温もり。

正服もいつの間に無くなっていて、白い毛に埋まっていた。


「あれ、服どこいった?」

「えぇ? あぁ、服ね、服。あれもボクの力で作ってるだけだから……。」

「便利なもんだな。」

「それにこの方が暖かいでしょ?」

「そうだけど……ま、いいか。おやすみ。」

「うん、おやすみ。朝になったら起こすね。

 親御さんや友達に心配されちゃってるだろうし?」

「あー、うん。そうだなぁ……。怒られんのやだなぁ。」

「仕方ないでしょ。」


そんな他愛もない話をしていたら、すぐに眠くなって寝てしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ