(2)「古い神社」
資料を見つけた次の日。
「おはようございまーす。」
「あ、君たち。おはよう。」
役場の人に挨拶を済ませると、一緒に郷土資料室に行くことになった。
「あれ、今日は朝からここの整理ですか?」
「いや。ちょっと探してほしいものが出来たんだ。」
そういって部屋の鍵を開けて、広いテーブルの上に資料を置く。
「それ、昨日の奴ですよね?」
「なんだっけ、なんとかオオカミ伝記?」
「違うよ、【大狼神伝記】とか言うやつ。」
喋ってる間に、資料のあるページを開いて指し示す。
「ここ。君たちも知ってる、山の上の寂れた神社。
どうやら資料に書かれているのは、この神社の話のようなんだよね。
今はもう誰も行かない場所だから、明るいうちにちょっと見てきてほしいんだ。
もし何か見つけたものがあったら教えて欲しい。
近くの道路に街灯もないから、暗くなる前に戻ってきてね。」
「分かりました。」
「これって探検っぽいな。」
「遊びなのか調査なのか……。」
「軽く見てきた感じだと、少し老朽化も進んでる。
今日は、一緒に行ける大人も居ないから、あまり無茶しないように。
早めに帰ってきていいから。水分補給もしっかりとね。」
役場を出て、俺達は言われた場所へ向かう。
「昔からこの辺にはあんまり来なかったよな。」
「何も遊べる場所がねーからな。」
「周りが田んぼなくらいじゃね?」
木陰に入りながら山道を上っていくと、鳥居と階段が見えてくる。
「この上かな。」
「長ぇ階段だなぁ……。」
「上にも鳥居が見えるからココっぽいな。
にしても、登るのも面倒な階段だな……。」
各々に愚痴りながら、階段を上る。暫く無言で上っていると、ようやく一番上に辿り着く。
鳥居の傍の木陰に座り込んで、一旦休憩しながら周りを見回してみる。
今いる場所が大鳥居、左の方には手水舎。右には石碑。大鳥居から奥に続いていく参道。
参道の先には門が見え、その先には拝殿も見える。
「じゃ、どこから見る?」
「疲れたー。」
「流石に水はもう通ってないよな?」
言いながら俺は手水舎まで行ってみるが、やはり枯れていた。手桶も見当たらない。
水が出てきたと思われる場所には、口を大きく開けた狼の石像がある。
両脇にも狼の石像があり、神社だったというのがイヤでもわかる。
手水舎から背を向けて、目の前の石碑を見てみたが難しい字が多く、
一部は読めない字で書かれていて何の石碑なのかはわからなかった。
「何見てんだ?」
「ほら、この石碑。せっかく一応調査に来てるんだから、読めないかなって。」
「……ダメだな。欠けてるのもあるし読めない漢字多すぎだな。
それと何だこれ? オオカミのマーク? こっちだけ違う字で書いてないか?」
「え?どれどれ?」
「ん?書いてないじゃん。何か見間違えたか?」
俺はその文章のとこを指さす。
「石碑の隅のとこ。ココに何か書いてる。」
「何もねーぞ。」
「何て書いてあるんだ?」
「えーと……。
『陽落ち 闇満ちるなら 我は主と共にあろう
闇紛れ 主襲うなら 我が主の盾になろう
朽ち果て 主が我を忘るるなら 我は主から身を引こう
我は主と共にあり 主の幸を守るもの
主の命にて 我は此処を守ろう
地を 空を 先を守ろう
主の先 未来永劫 我は共にあろう』
って書いてある。」
読み上げ終わると二人からは不思議な顔をされる。
やはり二人には見えてないらしい。
「嘘ついてねえ?」
「一人だけ見えるってのも嘘くさい。」
「いや、ほんとに書いてあるんだって!」
「まぁいいや、とりあえず奥も見てみようぜ。」
拝殿の前まで行くと、奥に本殿らしき建物があるのも見えた。
賽銭箱は老朽化していて、朽ちかけている状態だ。
鈴も綱も、もうボロボロになっている。触ると崩れて落ちてきそうだ。
そこから見える範囲で様子を見るが、中は暗くなっていてよく見えない。
「これじゃ何もわからねーな。」
「中に入ってみる?」
「いや危ないだろ。大人が来てからの方が良くないか?」
俺達が喋ってるとき、奥から大きな物音がした。
「今の音……なんだ?」
「聞こえたよな?」
「聞こえた。何かよくわかんないけど。」
その物音は、板の軋む音がして足音のようにも聞こえる。
「確か大人の話だと、誰も居ないって話じゃ……。」
「居たとしてもおかしいよな。何で居るんだ?」
「帰ろう。危ない気がする。」
音が近づいてくるのが分かると、徐々に怖くなってきて、
さっさと役場に帰ることにした。
「やばいってあれ!」
「一瞬デカくて白い足が見えた気がするぞ!」
「いいから走れ!帰るぞ!」
急いで階段を下りて上を見たが、何かが追いかけてくるような様子は無かった。
役場に帰り、大人にその事を伝える。
「え?白い大きなバケモノ? そんなのあそこには居ないよ。
伝記にも、そんな事書いてなかったし。」
「でも見たんですよ!」
「うーん。そこまで言うなら、業者も呼んでおいたほうがいいかなぁ……。
明日以降、大人たちで見てくるから、今日は帰っていいよ。」
「はーい……。」
ちょっと気に食わなかったが、俺達は素直に帰ることにした。
「絶対何か居たよな、あそこ。」
「居たいた。何なんだろうな。」
「分けわかんねぇ場所だな、あそこ。」
今日見たもの、感じたものをお互いに話しながら家路についた。
何なのかは分からないが、面白い遊びでも手に入れた気分だった。




