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【五山送り火】ともだち、なんかじゃ



 その思いを、灯火(ともしび)に乗せて。






 ねー、まだ点かないのかな?

 え? あっそう? そんなに遅いんだ。私、てっきり一斉に点火するもんだと思ってたよ。

 そういえばさ、昔、悪ふざけで「(だい)」じゃなくって「(いぬ)」にしたことがあるって聞いたことあるけど、ホントなの?

 あ、そうなんだ。まだ生まれる前のことかぁ。でも悪ふざけにもほどがあるよねぇ。


 そういえば、火を点けるところって見られるの?

 あ、やっぱり駄目? 檀家(だんか)さんとかだけなんだ。

 ……え? 大文字だけは、翌日OKなんだ。

 「消し炭」拾い? なにそれ?

 ああ、燃え残りかぁ。縁起物? へぇ~面白いねぇ。

 やっぱり古都はいいねぇ。来てよかった!


 あはは、ごめんってば。

 でも『そうだ、京都、行こう』って思った時にさ。

 『……そういえば、大八木(おおやぎ)君は京都出身だったな~』って思い出してさ。

 やっぱりPHS(ピッチ)っていいよね~帰省中でも気軽にかけられるし、すぐに連絡つくんだもんね。私に番号教えてあったのが、運の尽きだって。


 でも私だって大変だったんだよ!

 座るために、新幹線、二本も見送ったんだから!

 え? お盆の時期に指定席なんてとれるはずないじゃん。時間はあってもお金はない大学生は、ホームで並んで自由席! 当然でしょ?

 私は和泉(いずみ)みたいに、新幹線回数券買うような理由もお金もないからねえ。

 和泉?

 当然、真咲(まさき)と一緒に実家でしょ? 彼ら、同じ町内の幼馴染なんだし。

 私?

 ……もう、大八木君ってば意地悪だよね。

 そういうの『いけず』っていうんだっけ?


 ……ごめんごめん、冗談だってば。

 でも、察してよ。

 「女ひとりの京都旅行」よ? あ! せっかくだから、明日「大原(おおはら)」に行ってみたい! え? 渋いって? いいじゃん、演歌の世界。


 ……一応ね。柄にもなく、一晩中泣いてみたんだよ?

 自分でもビックリしちゃった。

 だってさ。

 高校の時に、()が真咲のことを好きだったことも知ってたし。第一、そのことで親しくなったようなもんだったんだし。

 彼のことは「友達の友達」で、「男女関係ない仲間で、親友同士」だと、お互い思ってたしさ。

 まさか、今更ショック受けるなんてね。


 …………うん、ほんと、今更。

 バカみたいでしょ?

 なんで『彼があっち(・・・)で「彼女」作った』、って聞いてさ。こんなにショック受けるんだろうって。



 一晩中泣いてさ。

 やっと気づいたんだ。

 『あ、友達なんかじゃ、なかった』って。



 高校の時はさ。いつも傍にいたから、現状に甘えてたんだよね。

 気づかないふり(・・)してた。

 もう真咲のことは振り切ってたのは分かってたけど、だから余計に「彼の一番近くにいるのは、私たちだけ」って思いあがってたんだよね。

 実際、そうだったし。彼、理想が高いから、安心してたし。


 うん、和泉を見てたらわかるでしょ?

 あんな彼らの近くにいたらさ。「彼氏・彼女」に求める関係って、無茶苦茶ハードル高くなっちゃうよ。

 安宿(あすか)はさぁ、意外と妥協してほどほどに遊んでるみたいだけど――


 あ、そっか。大八木君は、安宿にはまだ会ったことないね。

 安宿(あすか)も、高校の親友組の一人。

 そう、私と一緒の名前。でも、あっちは苗字(みょうじ)なんだけどね。



 私たちはさ。

 最終的には高校で固まった5人グループなんだけど。

 そうそう。

 和泉と真咲は幼馴染で、私は中学から彼らと一緒。

 ()と安宿は別の中学出身だけど、やっぱり友達同士で。

 で、5人そろったのは高校の時。

 周囲からは『シャッフル組』って呼ばれてたの。


 わかるでしょ?

 見事に「氏名」が重なるんだもん。


 真咲(まさき)苗字(みょうじ)は『伊豆見(いずみ)』で。

 和泉(いずみ)の苗字は『正木(まさき)』で。

 私の苗字は『和泉(いずみ)』で。


 ……今思うと、学校の先生たち、困っただろうね。

 考えたら、三人そろって同じクラスだったことなかったし。

 これにさ。彼と安宿が加わったわけよ?


 安宿(あすか)って、変わった苗字だよね。

 それで、私の名前が『明日香(あすか)』でさ。

 またしても“被っちゃった”のね?


 じゃあ、“名前”呼びしようとしたら、よりによって名前が『玉樹(たまき)』でさ。

 ……うん、そう。「彼」と一緒だったんだ。


 彼は、苗字が『玉木(たまき)』で、名前が『将生(まさき)』だったからさ。

 どうしようもないじゃん? なんの冗談かと思うよね、ホント。


 で、ワリを食ったのが私ってことなのかな。

 私たちはさ、「イズミ」が三人もいて、中学の時から私は「あだ名」呼びだったし。

 安宿と彼は、お互い「タマキ」「アスカ」呼びしてたから、なかなか変わらなかったしね。


 だから、私は『わいずみ(・・・・)』って呼ばれてたの。

 高校の後輩とか、それが本当だって思ってた人もいたくらい。


 だから今、サークルで『和泉(いずみ)さん』とか『明日香さん』って呼ばれるの、結構新鮮。

 あ、そうそう! 勝手に変な呼び方、後輩に教えないでよ!

 なによ『ダブル和泉(いずみ)』って!!


 おかげで、変な誤解されちゃったじゃない。うち、女子大なんだから、みんな容赦ないんだからね?

 一年生なんか、ホントに私と和泉が付き合ってるって誤解してる子がいるんだからね!


 そういえば、大八木(おおやぎ)君は、和泉とは?

 へえ、入学式で一緒だった仲?

 でも、確かに同じ沿線の大学だったけど、まさか他大の和泉とサークルで一緒になるとは思わなかった。真咲には感謝されてるけどね。

 ふふ……真咲って意外と寂しがりやなんだよ。和泉のこと、知らせてあげるとホント喜ぶもの。


 「お目付け役」?

 それは必要ないよ。和泉と真咲の間には、そんな心配はないんだ。わかるでしょ?

 ……うん。いいよね、ホント。羨ましくて仕方ない。


 だから「油断」してたんだ。

 きっと彼も――「玉木(たまき)」も、私と一緒で理想が高いから、簡単には「彼女」なんて作らないって。



 ……確かめるなんて、できないよ。

 怖いに決まってるじゃん!

 確かめて、本当だったら――



 うん、そう。

 もう、戻れない。

 私、気づいちゃった。



 ねえ。

 なんで「友だち」だとか「恋人」だとか、決めちゃうんだろうね。

 決めなきゃ、ずっと一緒にいられるのに。

 こんなに気持ちがこじれたりしないのに。


 俺に言うなって?

 そうだね、ごめん。

 でもいいじゃん、今日くらい、愚痴らせてよ。

 和泉には内緒だよ! 大八木君だから、話すんだからね。



 あ! 点いた!

 すごい! 本当に、鳥居の形してる!!

 暑い中、待ってた甲斐があったね。

 池の側なのに、なんでこんなに暑いの!って感じだったし、人も無茶苦茶多いし、蚊にも刺されるしさ。

 でも、ホントきれい。

 これ、灯篭(とうろう)流しなんだよね? こんなに幻想的だと思わなかった。

 ……うん、言葉無くしちゃう。



 …………泣いてなんか、ないよ。

 もう、涙は出尽くしたもん。


 うん、ごめん。

 ちょっとだけ、背中、貸して。

 見ないでよ……大八木君には、見られたくないんだ。



 ありがとう。


 明日、大原に連れて行ってくれる?

 大覚寺(だいかくじ)は昼に連れて行ってもらったから、あと、高山寺(こうざんじ)も。

 ……だって、地理関係なんて知らないもん。

 そんなに離れてるの?

 じゃあ、今度また、連れてって。

 今度は、「いつもの私」で来るからさ。



 え……?

 なに? 聞こえなかった。

 もう一回言って?

 何を決めてくれって?



 え……??



 『俺は、ともだち(・・・・)か?』って、それ、どういう……?






(ひと)()れず

(おも)へば(くる)

(くれない)

末摘花(すえつむはな)

(いろ)にいでなむ


『古今和歌集』四九六番(詠み人知らず)



-----


 明日香ちゃんは、天然小悪魔系。

 がんばれ、大八木くん。作者は応援しているぞ!(謎)


-----

【注1】『犬文字焼き』事件は、70年代に実際にあったのだとか……?

【注2】広沢池から鳥居形を眺めるのは最高らしいです……作者は見たことありませんが。

【注3】ということで、ようやく五人出揃いました。ありがとうございました。



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