29 魔王なの? 乙女なの?
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王子を追いかけて転移したエーデル侯爵だったが、しばらく帰って来なかった。
「殿下は私達医師団にもなかなか近寄らせてもらえませんから。」
苦笑いでルンバール医師がこぼす。
「健診など診察の際はどうされるのですか?」
「とにかく離れてます。近付き過ぎると結界に触れて腹痛を起こしてしまいますから。」
それでは診察になってないのでは?
「目視と魔力測定器が頼りです。」
ルンバール医師が体に手を這わせたので、それであの金属探知機様機器だと思った。
「あれは何が分かるのですか?」
「体内の魔力値はその人の何処で測定しても決まっています。でも体内に損傷や病があると高値になったり低値になったり数値が動きます。それで各箇所に問題が無いかを確認します。」
「すごいですね。あの機械を当てて異常が分かるだなんて!」
思わず興奮してしまう。
本当すごい検査機器だった。CTみたいに映像で見えないけど数値でそこの臓器の異常が分かるだなんて。
「殿下に使う機械は持ち手が異常に長くなっています。特注で作らせたのです。」
ルンバール医師が得意げに言う。
おお〜近付かず検査できる!
機器を作った人頑張ったね!
「今度その機器を見せても……わっ。」
「うわっ!」
話の途中で急に、風圧で押されて倒れそうになり床に手をついてしまった。
ルンバール医師の白衣が揺れ、私のドレスの裾もふわっと靡いた。
そして移動した机等の間に、人の姿がある。
見ると、もっさり王子が後ろ手をエーデル侯爵に抑えられて立っていた。
えっと、捕まえ方が罪人。エーデル侯爵その触れ方は不敬ではないの?
しかもエーデル侯爵笑ってるけど、こめかみに凄く青筋が見える。怒ってる、怖。
一体移動先で何があったの?
ルンバール医師は驚きすぎて、言葉を失っているし、私はなんか怖くて声が出なかった。
そんな私達にお構いなしに、エーデル侯爵が目を細めて笑う。
「ほら、殿下が抵抗なさるから転移位置が少しずれて、ルキアーナ様達が怪我をする所でしたよ。無事で良かったですね。」
もっさり王子は凄く抵抗して動いている。もっさり髪が行ったり来たり、わさわさ動いてる。
「く………僕…は、しない………。」
そんな抵抗をもろともせず、より微笑む。
「なりませんよ。殿下、私の講義はしっかり受講終了するよう陛下から命が降りてますから。いかなる内容においても拒否はできません。」
ギリっと音がしそうなくらい更に腕を捻る。
「う………。」
い、痛そう。王子唸ってるよ。大丈夫かな?
そう思って近付こうとしたら、ルンバール医師に手を引っ張られた。
「ダメです。近寄っては!魔王のようだ……。」
鬼気迫る表情にびっくりする。
どっちが魔王? どっちも魔王?
「すごい魔力のエネルギーが蠢いてます、危険です。」
エネルギーが蠢いてるの全く見えないから、ただの王子がエーデル侯爵に捻られてるだけにしか見えない。
危険って言われても、王子の腕が。
「も、もうその辺りで、手が痛そうですよ?」
私が恐る恐る言うと、王子はビクッとなって固まるし、エーデル侯爵は瞳を光らせてこっちを見た。
ヒッ………怖っ。
「ルキアーナ様、殿下の暴走は本当に凄いのです。私が手を離した途端にこの部屋は吹き飛びますよ。先程暴れたので、そのエネルギーがまだ暴走しております。」
え、それは困る。
一体あっちで何をしてたの?
王子もそんなに抵抗しなくても。触れられるのは、そんなに死活問題だったの?
「あ、それは、抑えてもらったままで、でも優しめでお願いします。」
我が身大事、しっかりエーデル侯爵に抑えてもらおう。
「殿下、そろそろ力を抜いていただきたいのですが?」
王子の耳元でエーデル侯爵が囁く。
途端にもっさり王子が下から震え上がった。
そしてがっくり頭を下ろして、王子は力が抜けたようだった。
エーデル侯爵の声って艶っぽいよね、ゾッとするよね。分かる。
思わずうんうん頷いてしまった。
そしてゆっくり手を離していき、手が離れた途端にもっさり王子は猫背で手を胸で祈る様に組んで小刻みに震えだした。
怯えて可哀想に。
エーデル侯爵と並ぶと随分細く感じる。それともエーデル侯爵がガッチリしているのか。
魔力多くてもエーデル侯爵にはそりゃ勝てないよね。
「では殿下、魔力を感じる検証をいたしましょう。ルンバール先生と手を繋いで下さい。ルンバール先生、お手数ですが、こちらへお願いします。」
「は、はい。」
それまで呆けていたルンバール先生が慌てて寄っていく。
エーデル侯爵がルンバール医師と向かい合う様に王子の肩を掴んで移動させる。
ビクビクと反り気味になり、手がお化けの様に震えている。
その姿に、なんか可哀想になる。
これ今しないといけないかね?
そう思っていたら、王子の手から黒い靄が見え始め、グネグネ一本のロープみたいにうねり始めた。
「殿下。」
非難する声をエーデル侯爵が出す。
「む、………むり、………勝手に出る。」
ルンバール医師も顔を引き攣らせ顔色が悪い。
お互い手が繋げそうな位置で止まっている。
ウゴウゴと徐々にルンバール医師の手に黒いロープが伸びていく。
真っ青な顔でルンバール医師がエーデル侯爵を見る。
「あ、あの、これは大丈夫でしょうか?」
エーデル侯爵はニッコリ笑ってその黒いロープをツンツン付く。
「大丈夫ですよ。見た目があれですが、これは魔法の形になっていないので触れても何も起こりません。」
だいぶ見た目、呪いっぽいし気持ち悪い。
ルンバール医師はゴクリと喉を鳴らして、
「では、殿下、お手を失礼致します。」
王子は首を横にブンブン振って髪を揺らしている。
こっちが緊張する、もうどういう状況。
襲ってるの、襲われてるの………。
そっと手が握られた瞬間、黒いロープがルンバール医師の手にぐるぐる巻き付く。
「ヒッ‼︎」
そう言ったのはどっちだったか、王子が気を失って倒れ、ルンバール医師が王子の腰を抱いて片膝付いて支えた。
まるで王子と姫の構図…………。
無言が部屋を制する。
いや、やっぱり無理だったよね。
もう王子が乙女のように倒れちゃったじゃん。
当たり前だけど、今日の王子は魔力暴走するは、気を失うわで、全く授業にならなかったのだった。
閲覧していただき、ありがとうございます。
王子は手を握られるのが苦手。
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