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扉は開かれましたわ~!

 黒縁眼鏡の生徒会長が降りてくる。


「ん? どうしたのかね? 乗らないのか金持君」

「え、ええと、生徒会長様もエレベーターに乗られるのですわね」

「君は私をなんだと思っているのかね。それより……」


 黒森の視線が神岡に移った。


「……?」

「君はたしか一年生の中間テストで金持君を下した神岡琥珀君だな」


「……肯定……あなたは?」

「入学式の時に在校生代表で挨拶をしたのだが……まあいい。生徒会長の黒森玲央だ」


 青年はスッと右手を差し出した。握手を求めたが神岡はぼんやりと立ち尽くしたままだ。


 黒森はため息交じりに腕を下ろす。


「ふむ。こういうのは嫌いかね」

「……すみません」


「謝ることはない。ところで、つかぬ事を訊くが美術部で何か問題はなかっただろうか?」

 それならたった今、起こしてきたところである。

「さ、さあ? 存じ上げませんわね。おほほほ」


「そうか。知らせがあったのだが……ひとまず様子を見に行くとしよう。金持君は引き続き、学園の噂の調査を頼む」

「ええ、お任せあれですわ」


「犯人を……噂の根源を探り当ててほしい。では、またな」


 カツカツと革靴をならして青年は颯爽と廊下を行く。


 花音は神岡をエレベーターに引っ張り込んで扉を閉めた。


「これはあとで呼び出しモノかもしれませんわね」

「……花音さん」


 黒目がちな大きな瞳が密室の中でじっと少女に迫った。顔が近づき吐息を感じる距離だ。


 逃げ場が無い。


「な、ななな、なんだか近すぎではありませんこと?」

「……大きな声では……言いづらいから」


 神岡は花音の耳元でささやいた。


 先ほどの黒森のオーラについて。


 ずっと白が続いていたのに、最後に一瞬――


 黒森玲央の発するオーラが黒く濁ったというのだ。


「か、隠し事くらい誰にでもありますわよね」

「……肯定。だけど、気になるから……もう一度、生徒会長のことを視る?」


 少女にとっては禁断の果実だった。


 何か一つでも、黒森の秘密を知ることができればそれを楯に外部協力員を辞めることだってできるかもしれない。


 問題は――


 少女自身が噂調査をする日常を、好きになりつつあるところにある。


「やめておきますわ」


 小中にも神岡にも、こうして出会うことはなかっただろう。もしかすれば、中間テストで一位を取った神岡が気になって花音が凸していたかもしれない。


 噂を調査していたからこそ、神岡の話を訊こうという姿勢になれた。と、花音は思う。


 気構えなく神岡と接触していたら、彼の力でよこしまなるお嬢様のダークサイドを見抜かれて、恥ずかしいことになっていたかもしれない。


「……ピンク?」

「な、なんでもありませんわよ!」

「……うん」


 エレベーターを降りる。学食に向かう手前で二人は背の高い茶髪にピアスの青年に呼び止められた。


「よーし。行くぞ二人とも」

「こんなところでなにをしていますの大福先輩?」


「なにをとは失礼な後輩だな。これ以上、俺を待たせるんじゃねぇよ。もはや猶予はないぜ」

「はいぃ?」


「今日から琥珀も我が『食べ歩き同好会』の一員だ。結成記念に三人で飯に行くぞ! どうだったかゆっくり聞きたいところだし、高校生らしくファミレス行くぞオラッ!!」


 神岡が「……オレンジ……」と呟く。小中が楽しげなのは見たまんまだ。


 花音もずっと待たせていたので「今回ばかりは、わたくしも年貢の納め時ですわね」と、小中の誘いを受けることにした。


 ふと、思い出したように少女は青年の顔を見上げる。


「ところで大福先輩は、アザミというお花が何と呼ばれてるかご存じかしら?」

「ああ、山牛蒡な?」


「んもー! クイズを出す前に答えを言うなんて、デリカシーがお留守にしていらっしゃいまして?」

「おっ……ああ、わりぃわりぃ」


 神岡が小中をみてぽつりと呟く。


「……白……」


 小中が神岡の肩を組んで首に腕を回して言う。


「白でも黒でもオレンジでもいいだろ! それより何系の気分だ?」

「……何系?」

「無いなら今日は俺が中華の気分だから中華系ファミレスで飲茶だな!」


 花音も「あら、飲茶が楽しめますの?」と目を丸くした。


 今日こそは本当に、学友と親交を深めるのであとで迎えに来てほしい……と、少女は執事にショートメールを送る。


 ふと小中の動きが止まった。神岡を解放して辺りを見回す。


「どうかなさいまして?」

「なんかまた妙な視線を感じたんだが……」


 先日は美術部長の視線に気づいた小中だが、花音が周囲を確認しても江藤の姿はなかった。


 もちろん不審者の姿もない。


「そろそろ大福先輩には本物の幽霊に化けて出てもらった方がいいかもしれませんわね」

「や、やめろって! よーし! いざ出陣だぞ!」


 昇降口を出ると用務員の奏でる芝刈り機の爆音に送り出されて、三人は駅方面へと向かうのだった。


 結局、学園内で開かずの扉は見つからなかった。


 神岡が新たな一歩を踏み出すために、自分の中の扉を開いたと考えれば、今回の調査は完了かなと、お嬢様は自分の中で結論づけたのだった。

次のレポートがまとまるまでしばらくお待ちくださいまし~!

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