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幸せな挙式

 神父様の問いかけに仲睦まじく誓いの言葉を述べると、フリオ・カンパーニュ伯爵とナターシャ・リスタ令嬢は教壇の前で向き合った。


 ステンドグラスを透過した太陽の光が2人を包み込む。


「ナターシャ、きれいだよ」


 純白の絹のような美しい肌、そよ風のように柔らかい金色の長い髪。そして、まるで女神のように整った顔立ち。

 フリオは改めて自分の妻となる女性の美しさを感じた。


「ふふふ。あなたもとっても素敵ですわ」


 フリオとナターシャは自分達の幸福を称えるかのように微笑みを交わした。


「では、誓いのキスを」


 神父の言葉に合わせてフリオとナターシャが互いに一歩前へ踏み出す。

 フリオがナターシャの両肩に手を乗せると彼女は柔らかく笑った。


「本当にこんな日が来るとは思っておりませんでしたわ」

「何を言ってるんだい、ナターシャ。僕は信じていたよ」

「あら、嬉しい」


 フリオとナターシャが出会ってから1年の歳月を経て2人の恋は愛になった。

 これからするキスは永遠にお互いを愛し合うことを誓うもの。


「緊張してるかい?」

「ええ、少しだけ」

「はは、僕もだ」

「何だか不思議ね」


 これまでに何度もキスを交わしてきたというのに、この教壇に立つと何故だか緊張感があった。

 多くの参加者を前にしているからだろうか。


「じゃあ、いくよ」

「はい」


 そっとフリオからナターシャへ唇を寄せる。

 合わせるようにナターシャは目を閉じる。


 そして、フリオも目を閉じようとしたそのときだった。


 ぴき、とフリオの右のこめかみに強烈な痛みと違和感が生じた。視界がぼやけ、頭がくらくらする。


「ーーっく……?」


 あまりの痛みに耐えかねてフリオがふらつくと、異変を察知したナターシャがフリオの腰に腕を回し、彼を支えた。


「どうしたの? 大丈夫?」

「ああ、すまない」


 フリオはナターシャを安心させるために彼女へ微笑もうとした。


 が、


 フリオを支える女性はナターシャその人ではなくなっていた。


「ーーっ!?」


 理解が追い付かない。

 これはどういうことだ?

 何故、この女がここにいる!?


「あなた……?」


 目の前の女が不安そうにフリオに問いかける。


 その声は紛れもなくナターシャだ。

 愛する者の声。

 それを聞き間違えることは決してない。


 だが、姿が違う。

 愛しのナターシャではない。


「な、なぜ……?」


 フリオから漏れるのは戸惑いの声。


「どうして、お前がここにいるっ!?」


 フリオはそう叫んだ。


「あなた、一体どうしたの!?」


 ナターシャの戸惑いも加速する。


 しかし、フリオにはナターシャがナターシャに見えていないのだ。彼に見えているのはナターシャとは別の女性……、ちょうど1年ほど前にフリオを慕っていた女性。


「シレリナ……?」


 ナターシャであるべき女性へフリオはポツリ、とその名を呟いた。


 こちらが不安になるほどに青白い肌。手入れを放棄した栗毛色の髪。そして、(うろ)のように光を忘れた瞳とかつての天真爛漫さなど見る影もない無表情がまるで捨てられた人形みたいで不気味だ。


 シレリナ・レム。

 現在フリオに見えている女性の名前。

 

「そうか、シレリナ。君か」


 ぼそぼそ、とフリオは言う。

 もはや式場のざわめきもナターシャの問いかけも耳には届いていなかった。


「まさか……、本当にこんなことをするとは。魔女め」


 フリオはシレリナと別れたあの日のことを思い出していた。

 シレリナが捨て台詞のように吐いた言葉が頭の中に響く。


『愛は呪いです』


 そういえば、あの日。

 シレリナは泣いていたか。


『このまま私をお捨てになるというのなら、いつか私はあなた様への呪いになります』

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― 新着の感想 ―
[良い点] 心情が書き表せていて、よかったと思います。 [気になる点] 「挙式」ならば「結婚」をイメージする事が多いので、婚約式を挙式とは余り言わないのでは… 「婚約呪い」ではなく「婚姻呪い」もしくは…
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