表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
特殊精鋭部隊リーダーの高校生VRMMOで最強に  作者: 暁 龍弥
3章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

83/84

「名前を喪った朝に、それでも残るもの」

朝は来た。


来てしまった、と言うべきだった。


 


何事もなかったかのように、世界は回っている。


カーテンの隙間から差し込む光は、昨日と同じ角度で床を照らし、

ポットの湯が沸く音は、いつもと同じリズムで鳴っている。


変わらない。

何一つ。


――何一つ、変わっていないはずなのに。


 


「……ねぇ」


最初に口を開いたのは、リオナだった。


パンを持ったまま、動きが止まっている。


「なんか……おかしくないですか」


 


“おかしい”。


その一言が、妙に重く響いた。


 


アリアは視線を落とす。


自分の手。

テーブル。

影。


 


「……うむ」


ようやく出た言葉は、ひどく曖昧だった。


「何かが……欠けておる」


 


欠けている。


確かに、そうだ。


だが――


“何が欠けているのかが分からない”。


 


セレナは、ゆっくりと目を閉じた。


思考を沈める。


昨日。

夜。

この部屋。


 


(……いた)


 


確かに、“誰か”がいた。


 


それは、ただの知識ではない。

感情が、そう叫んでいる。


大事な存在。

失ってはいけない存在。


 


なのに――


 


(……名前が、出てこない)


 


思い出そうとした瞬間、記憶が崩れる。


輪郭が、ほどける。


 


まるで、最初から“なかったもの”のように。


 


胸の奥が、強く締めつけられた。


 


「……消えてない」


セレナは、ほとんど自分に言い聞かせるように呟く。


「消えてない。忘れてるだけ」


 


その時だった。


 


テーブルの下。


影が――揺れた。


 


三人の視線が、同時にそこへ吸い寄せられる。


 


小さい。


頼りない。


それでも、“形”がある。


 


そこにいる。


 


理由なんて分からない。


でも、分かる。


 


“ここにいる”。


 


アリアの喉が震えた。


「……おる」


 


それだけで、十分だった。


 


セレナは、息を吐く。


「……よかった」


 


リオナは、そっと手を差し出す。


触れられない。


けれど。


 


影は――確かに応えた。


 


わずかに、揺れた。


 


それだけで、胸の奥の何かが、救われた気がした。


 



 


通学路。


足音が、やけに遠く感じる。


 


三人は並んで歩いていた。


言葉は少ない。


だが、不思議と沈黙は苦しくなかった。


 


「……変なのじゃ」


アリアがぽつりと零す。


「忘れておるはずなのに……」


 


続きの言葉が出てこない。


 


セレナが引き継ぐ。


「怖くない、でしょ」


 


アリアは、ゆっくり頷いた。


 


リオナは、小さく笑った。


「……うん」


「理由は分からないですけど」


 


“守りたい”。


 


その感情だけは、はっきりと残っている。


 


名前も、過去も、理由も。


すべて曖昧なのに。


 


それでも。


 


(この人を、守る)


 


その選択だけは、消えていない。


 



 


教室の扉を開けた瞬間。


空気が変わった。


 


音はある。


人の気配もある。


だが――


 


“揃いすぎている”。


 


影が。


 


床。机。壁。


すべての影が、同じ方向を向いている。


 


統一された異常。


 


「……来る」


アリアが低く呟いた。


 


その瞬間。


 


教室の中央。


影が、立ち上がる。


 


ゆっくりと。


あまりにも自然に。


 


それは、人の形をしていた。


 


だが、人ではない。


 


温度がない。


呼吸がない。


“意味”がない。


 


ただ、“そうあるべきもの”として存在している。


 


『確認』


 


声が響く。


冷たい。

空虚。


 


『未完成個体の消失を確認』


『代替個体、起動完了』


 


心臓が、強く打つ。


 


アリアが前へ出た。


「……何者じゃ」


 


影は答える。


 


『影城より派遣された新規個体』


『旧個体は不要』


 


その言葉を聞いた瞬間。


 


胸の奥で、何かが“はっきりと拒絶した”。


 


違う。


それは違う。


 


理由は分からない。


でも――


 


“それは違う”。


 


セレナが、静かに問う。


「……あなた、自分で何かを選んだことは?」


 


間を置かず、返答。


 


『不要』


『王は選択しない』


『与えられた機能を実行するのみ』


 


リオナの視線が、鋭くなる。


 


「……じゃあ、違います」


 


はっきりと言い切った。


 


「あなたは、その人じゃない」


 


影が、わずかに揺れた。


 


『識別不能』


『該当個体は存在しない』


『消去済み』


 


その言葉が――


 


三人の中に残っていた“何か”を、強く引き裂いた。


 


アリアが、低く言う。


 


「消えてなどおらぬ」


 


一歩、踏み出す。


 


「名前は分からぬ」


「だが――おる」


 


セレナも続く。


 


「思い出せなくてもいい」


「ここにいる、それだけでいい」


 


リオナが、震える声で言う。


 


「私たちは……分かってます」


 


その瞬間。


 


教室中の影が、一斉に蠢いた。


 


集まる。


流れる。


 


そして――


 


三人の前に、ひとつの影が現れた。


 


小さい。


弱い。


 


それでも。


 


確かに、“立っている”。


 


守るように。


 


(ここにいる)


 


声はない。


 


だが。


 


確かに、届いた。


 


三人は、同時に頷いた。


 


「……分かっておる」

「……聞こえてる」

「……大丈夫」


 


名前は、もうない。


 


それでも。


 


“この人”は、ここにいる。


 



 


『排除対象を確認』


 


代替の王が、手を上げる。


 


影が動く。


 


教室の空気が、歪む。


 


だが――


 


三人は、もう迷わなかった。


 


理由はいらない。


 


名前もいらない。


 


ただ一つ。


 


“選ぶ”。


 


その意思だけで、十分だった。


 


アリアが踏み込む。


セレナが息を整える。


リオナが拳を握る。


 


そして。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ