第31話 戦闘開始
「くやしぃぃぃぃ!もう一回なのだぁぁ!」
「ダメよ、あなたはもう私に負けたんだからね。二度目は無いわ。」
「お願いなのだ!もう一回だけなのだ!」
なんかこれじゃあ私がこの子をいじめているみたいなんだけど…誤解されても困るしそろそろ…
「おい、そこの女。私の妹をいじめるな。」
うわぁぁ!言ったそばから誤解されたぁぁぁぁ、ん?妹だって?
私が振り返るとそこに立っていたのは紺色のロングヘアーで、背はそれほど高くなく私と同じくらいの女の子、まるで魔道士のような帽子とマントをつけていてゲームからそのまま飛び出てきたみたいだ。
そういえば紺色のロングヘアーって…林檎さんが言ってた蜜柑を切りつけた人?
咄嗟に私は席から立ち上がり、その女の子から距離を置く。
この子が蜜柑を傷つけた人である可能性は高い、ならば今度は私を…ということか。
すぐさま戦闘体勢にはいる、実際は戦闘なんてほとんどしないので見た目だけのハリボテだがしないよりはマシだろう。
「あなた、少し前に頭に林檎と蜜柑の髪飾りをつけた双子の姉妹を襲ったよね?」
一応聞いておいた。十中八九この人なんだろが万が一違う可能性もある。実際そっちの方が助かるのだが。
「あぁ、あの2人か。それがどうかしたのか?」
あぁ、やっぱりか…
「何故2人を襲ったの?」
「先に仕掛けてきたのはあいつらの方だ。」
「あの2人が何をしたって言うの?」
あいつら…つまり蜜柑と林檎がこの子に何かしたのだろうか。
「いいえ、あの2人ではなく付き添っていた男のヴァンパイアだ。」
あいつか…
林檎さんの元マスターであるヴァンパイアの男、名前は浦染豪太。林檎さんを無理やり従者にするくらいだから、この子にも何かしらしようとしたのだろう。
「2人はあなたに何もしていないでしょ?」
「あんな男をマスターにしている従者なんぞ信用できるか。」
「そんなの分からないでしょ?あの2人の内1人は無理やり従者にさせられていたし、もう1人にいたっては従者ですらないのよ?」
「そこまでその2人のことについて知っているということはお前も従者なのか?」
「いいえ、私はヴァンパイアよ。今はあの2人のマスターになっているわ。」
「ほう、お前もヴァンパイアか。それで同族である私の妹に手を出したということか…」
「それは違うわ、もともとその子が…」
「戯言はいい!そう言って今までも私の妹は狙われてきたんだ。お前も信用できん。」
この人、話が通じないタイプか…このまま逃げさせてくれる様子でもないしかくなる上は…
「とにかく、私はあなたを許さないわ。誤解とはいえ、私の従者達を傷つけたのだから。」
「こちらもだ。私の妹に手を出した罪、償ってもらう!」
「いくわ!」
これも2人の敵討ちだ。殺すつもりなんてさらさらないが、少しは蜜柑の痛みを分からせてあげよう。
「ちょっと待て。」
「…なっ何よ。」
「会計を済ませてからどこか広いところでやるぞ。ここでは迷惑だ。」
「………そうね。」
なんだろう、とても萎える。てっきり悪の組織みたいに周りのことなんて気にしない冷血な人だと思っていたのに…
まるで何事もなかったかのようにレジで精算を済まし、三人揃って近くの河原の土手まで移動する。もちろん私達は一言も喋ることなくただ無言で歩いていた。
土手に着く頃にはすでに日が真上にあり、時計を見るまでもなく今が正午だと分かる。
自分達の影が極限まで小さくなるのはとても不可思議なことだった。
辺りには人気どころか車の走る音すら聞こえない、ただ川の水がチョロチョロと流れているだけで異様に静かだ。
しばらくの沈黙の後、私の方から話し始めた。
「始める前に一つ聞きたいんだけど。」
「お前なんかに答える義理はない。」
あ、そうですか。
「はぁ…あなた、本当に人の話を聞かないのね。」
「うるさい!妹に与えた屈辱をはらしてやる!」
だーかーらー私がいつあいつに屈辱を与えたんだよ。
あくまで同意の元平等な対決をやってあの子が負けただけじゃない。
っと、あぶない。
「てぇやぁぁぁぁぁぁぁ!!」
不意を突かれたというわけでもないが、少し驚いた。あの位置から一瞬でここまでくるなんて。やはり従者の能力というのは恐ろしい…もはや人間ではないだろう。
私は冷静になって考える。彼女はどこから取り出したのか…自分の身長くらい大きな大鎌をまるで手足のごとく自由自在に操っている。あの大鎌に切られた蜜柑のやられようからして私も一発受けたらおそらく痛いではすまないだろう。ならばあの大鎌を一刻もどうにかしなければならない。
私はポケットからいつもお守りがわりに入れているヴァンパイアサポーターを取り出し、首につける。これは私の体の中の血を効率よく使えるようにできるサポーターであり、主にヴァンパイアアームの生成の能力が飛躍的に上がるのだ。
頭の中で銃のイメージを浮かべる。これはこの前徹夜でイメージトレーニングをしたからかなり自信があった。
ちなみに、銃といっても警官とか軍人が使っているような銃ではなく、SFとかでよくある光線銃のようなものでこちらの方が幾分イメージしやすいのだ。
軽く狙いを定め、いきなり生成された銃に動揺している相手に向けて引き金を引く。
雷のような爆音とともに放たれた光の光線はあっけなく女の体を貫いていた。
ぼちぼち3章も終わりへ近づいています。3章が終わり次第、一度ヴァンパラの更新を中断して別の作品の執筆に入る予定です。