感情のはなし
エンプティ「ねえ、トラッシュ。ぼくには感情がないって、ほんとう?」
トラッシュ「唐突だな、ボウヤ。結論からいうと、そうだぜ、ボウヤ。お前はどこまでも空っぽの可哀相なボウヤなのさ」
エンプティ「どうしてぼくには感情がないの?空っぽなの?ぼくはこんなにも幸せなのに」
トラッシュ「ああ……可哀相に!ボウヤ、お前は知らないのさ。幸せも喜びも、愛も知らないのさ。ぜんぶ、そう、思い込みなんだよ、ボウヤ」
エンプティ「思い込み?」
トラッシュ「そうそう。お前はなにも知らないけど、くだらないこの世の中には、そんな言葉が蔓延ってるのさ。蔓延してるのさ。だからボウヤ、可哀相なお前は、何にも知らぬまま、その言葉を消費するのに一生懸命なのさ」
エンプティ「つまり……ぼくが幸せでもないのに、幸せっていう言葉のために、幸せを演じてる……とでも言いたいんだね?」
トラッシュ「そのとおり。だけど、心配するなよ、ボウヤ。お前だけじゃないさ」
エンプティ「ぼくだけじゃ、ないだって?」
トラッシュ「そう!みんなそうなのさ。大して気持ちよくないくせに、幸せでないと気が済まないのさ。そして、それと同じくらい、不幸でなければ気が済まないんだ。どいつもこいつも出し切って、この世の住人はカラカラさ。奴らは、豊かな心のためなら、なんだってする連中だぜ。それこそ人も殺せるくらい、必死なのさ、幸せごっこに!」
エンプティ「……なんだか、ひどい話だね」
トラッシュ「そうとも、そんな連中が、どうしてお前を馬鹿に出来る?感情が無い感情が無いと、雄弁なだけの能無しども。ひどい話だ、ミイラ取りはずっとミイラだ」
エンプティ「……トラッシュ、きみにも、感情がないの?」
トラッシュ「……そうだな。俺はもう懲りた。豊かな感情とやらのために、感情の奪い合い、剥がし合いだ。奴らは自分の感情だけじゃ足りないから、他人の感情を剥がして、その皮を被ろうとする。俺はもう、剥がされて、晒されて、吊るされて、何一つ残っちゃいない」
エンプティ(ああ、可哀相なトラッシュ。そういうきみは、とっても他人を憎んでるよ)