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第10話:アナログな街の繋がり

休日の買い出しに出た私とクロエは、石畳の通りをのんびりと歩いていた。


「やっぱり結界の中は、歩きやすくていいなぁ」


私は重力と自分の体重をしっかり足の裏に感じながら、幸せな気分に浸る。


結界の外ではすべてが「1ミリ手前」で弾かれてしまうため、自分の足で地面を蹴っている感覚すら希薄になってしまうのだ。

でも、ここでは普通の女の子として、紙袋のガサガサした感触も、石畳の硬さも直接味わうことができる。


スッ……。


「……うわっ!?」


不意に、背後から誰かが無言で抱きついてきた。

私の背中にピタッと張り付く、小柄で柔らかな感触。


「……ん。セレンの匂い」


振り返ると、プラチナブロンドの髪を持つ少女が、お人形のように整った無表情な顔を私の首筋にすりすりしていた。


「アリアちゃん! びっくりしたぁ……」


「こらこらアリア。セレンが歩きにくいだろう?」


苦笑いしながら近づいてきたのは、大量の買い物袋を抱えた長身の青年だった。

仕立ての良い服を着た、穏やかな微笑みを浮かべる紳士。


「あ、フェリクさん。お疲れ様です」


私とクロエは、シーカーズの先輩である彼に丁寧にお辞儀をした。


彼らは『境界探査局シーカーズ』の同僚である、フェリク・ルーメンさんと、妹のアリア・ルーメンちゃんだ。

私のポンコツな素顔を知る、数少ない身内でもある。


「アリア、ほら離れなさい。セレンが困ってるでしょ」


クロエが呆れながら注意すると、アリアちゃんは無言のままスルリと私から離れ、今度はクロエの腰にギュッと抱きついた。


「……クロエも、いい匂い。あったかい」


「もー、しょうがないわねぇ」


クロエは文句を言いながらも、まんざらでもない様子でアリアちゃんの頭を撫でている。

アリアちゃんは、私とクロエのことが大好きなのだ。


◇ ◇ ◇


私たちは水路沿いにあるオープンカフェのテラス席へ移動し、4人でお茶をすることになった。


アリアちゃんは当然のように私の隣にちょこんと座り、自分の頼んだイチゴのケーキをフォークで切り分けると、無言で私の口元へ運んできた。


「あーん」


「えっ、あ、ありがとう。……ま、いっか。あむっ」


私は少し戸惑いながらも、素直にケーキを口に入れる。

結界の中だからこそできる、直接の触れ合いだ。甘くて美味しい。


「本当に、外での顔からは想像もつかないくらい甘えん坊なんだから」


クロエが紅茶を飲みながらクスクスと笑う。


ルーメン兄妹は、結界の外では泣く子も黙る実力者だ。


フェリクさんは『凶星の崩蝕(エクリプス・ベイン)』で相手の弱点を致命的に脆くし、アリアちゃんは『極星の穿光(ポラリス・スナイプ)』で遥か彼方から一撃で撃ち抜く。


一切の隙がない「無慈悲な殲滅兄妹」として、外の世界では恐れられている。


「フェリクさんたちは、エリート騎士団とか戦闘系の組織からもたくさんお誘いがあったんですよね?」


私が尋ねると、フェリクさんは優雅にカップを置き、ふっと微笑んだ。


「ええ。でも、私たちはシーカーズを選んだんです。結界の外にある、力やスキルを見せびらかすような傲慢な社会は、どうにも性に合わなくてね。誰も魔法を使えないこの平和でアナログな街で、こうしてのんびりお茶を飲む方が好きなんですよ」


その言葉は、同じくシーカーズに所属するオスヴァルドさんの言葉とも重なっていた。


やっぱり、この街にいる人たちは温かい。


◇ ◇ ◇


カフェを出た私たちは、街の広場でやっている縁日へと足を運んだ。

そこで見つけたのは、コルクの弾を撃ち出す「アナログな射的ゲーム」だ。


「あっ、アリアちゃん、あれやりたいの?」


景品の特大のクマのぬいぐるみを見つめるアリアちゃんに、クロエが声をかける。

アリアちゃんは無言でこくりと頷き、店主のおじさんに硬貨を渡してコルク銃を受け取った。


結界内では、すべてのチートスキルが強制的に「オフ」になる。

だから、アリアちゃんの『極星の穿光』という百発百中の狙撃スキルも使えない。


でも。


パンッ! パンッ! パンッ!


「おおっ! 嬢ちゃん、すげぇな!」


無表情のまま銃を構えたアリアちゃんは、純粋な身体のブレをなくす技術と視力だけで、次々と的のど真ん中を撃ち抜いていく。

スキルがない状態でも、基礎を極めているからこその見事な腕前だった。


見事に特大のぬいぐるみをゲットしたアリアちゃんは、それを両手で抱えると、トコトコと私の前に歩いてきた。


そして、そのぬいぐるみをドサッと私とクロエの腕の中に押し付けた。


「えっ、これ、私たちに?」


アリアちゃんは小さく頷き、そしてまた、無言で私とクロエの二人に抱きついてきた。


「……外の世界に出たら、私はセレンに絶対にさわれない。1ミリ手前で、弾かれちゃうから」


アリアちゃんの小さな声が、私の胸元で響く。


「だから、結界の中にいる間だけは。……こうして、いっぱい、くっついていたい」


その不器用で真っ直ぐな言葉に、私は胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。


「……うん。そうだね。私も、結界の中にいる時は、みんなと触れ合えるのがすっごく嬉しいよ」


私は両腕にぬいぐるみを抱えながら、アリアちゃんの背中に優しく腕を回した。

クロエも微笑みながら、そっと私たちを包み込むように抱きしめてくれる。


「さて、それじゃあ荷物持ちのお兄ちゃんは、美味しい夕食の材料でも買おうかな」


フェリクさんが楽しそうに笑い、私たちは並んで歩き出した。

純粋な技術が尊ばれるこの街の空気は、今日も最高に心地よかった。

まずは第10話までお読みいただきありがとうございます。

この物語の序盤パートの区切りとなります。


無敵はいいけど、ずいぶんと厄介そうな能力ですねえ、あれもこれもできないわけで……

この後その辺に悩む展開になるのかな?と、思われている方もいらっしゃるかもしれません。


まさにそこがこの能力の厄介なところなんです(笑)。 しばらくは「お弁当優先」で斜め上に乗り越えていきますが、後々その『1ミリの壁』にしっかり向き合って悩む展開も待っています!ぜひ今後の展開も楽しみにしていてください!



もし「面白かった!」「この後も気になる!」と思っていただけましたら、

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