割ったのは誰?
それから数日も経たないうちに、過去への移動が夢ではないと証明されることとなった。
クローディア達は、一年程前に過ごしていたように、マノン王立学園高等部へと通う日常を過ごしていた。
「おはよう。アビー、ベラ」
クローディアが、アビゲイル、ベラへと声をかける。
「おはようございますぅ。クローディア様。ベラも」
「おはようございます。クローディア様。アビゲイル様」
この三人で過ごす時間が多いことは変わらないが、彼女たちは身の振り方に気をつけ、人に親切にしたり、困りごとを率先して解決したりと、行動を変えていた。最初は、驚かれたり気味悪がられたりしたが、生徒たちの反応も少しずつ落ち着いて来たと感じられたある日。
朝の通学路は、日常の光景にあふれていた。馬車の軋みと馬の蹄の音、女生徒達の喧騒、キャッチボールに興じる男子生徒達の声。揺れる制服の群れ。
そんな平和な日常の中――。
学園の一年生の教室で、日常を壊すような大きな音が響いた。
女生徒の悲鳴や、男子生徒の声も聞こえてくる。
「クローディア様ぁ。例の件、今日だったのですねぇ」
「そのようですわ」
「これで、夢でないことが証明されましたね」
「そんな話もありましたわね」
左右からの声に、一言ごと応じる。
クローディアは颯爽と足を進めて、その一年生の教室を覗き込んだ。
教室の後方、飾ってあった花ごと花瓶が床へと落とされ、無残に割れて粉々の破片になっていた。
授業の開始までまだ時間があるため、教室の中には生徒は一人しかいない。その女生徒こそがエリカ=フランジパンだった。
教室の中央付近の席に座り、訳が分からないといった表情を浮かべながら、割られた花瓶を見ていた。
「なんだ、エリカ嬢が割ったのか?」
廊下から教室を覗き込んだ男子生徒が、そう声を上げた。
確かに、教室の中にいるのは彼女だけであり、そう判断してしまっても無理からぬ状況ではあるが――。
「ちっ、違うわ。私は何もやっていません」
「そんな事言ったって、教室にはお前しかいないだろ」
押し付けようと言うよりは、事実の確認と言った調子で、他の男子生徒からも声が上がった。
そこで。
クローディアは扇を広げ、顔の前へと掲げた。
「何やら騒がしいですわね――?」
凛と声を上げ、左右にアビゲイルとベラを従えて、クローディアは教室の中へと入った。
「ク、クローディア様?」
突然の闖入に、エリカが驚いて声を上げた。
やり直した今回も、エリカが同じ行動をとっているならば、彼女はニコラウスの周りに度々現れており、クローディア達とも面識があるのだった。
「げ、あれが三年の悪役令嬢……?」
思わず声を上げてしまった不躾な後輩には、冷ややかな視線を送って即刻黙ってもらう。
「申し訳ありません。クローディア様」
クラス長らしき女子生徒が慌てて教室に駆け込んできて、クローディア達へと頭を下げた。
「上級生の手を煩わせるような事ではありません。ここにいるエリカ嬢が、花瓶を落として割っただけなので」
クローディアは、その言葉を聞いて大きく頷いた。
「分かりました。それでは、エリカ嬢、きちんと責任を持って花瓶を片付けること。よろしくて?」
クローディアは、満足そうに音を立てて扇を畳んだ。
「これにて一件落着ですわね。おーほっほっほ」
くいくい、と。
クローディアの左袖を、ベラが引いた。
「クローディア様。それだと、一回目と全く同じです。完全に悪役令嬢が出ちゃってます」
「――と言いたいところですが」
と、若干顔を赤くしながら、クローディアは仕切り直した。
「まだ、エリカ嬢が花瓶を割ったと断言することはできません」
「えっ?」
驚いたようにエリカが声を上げた。
「その通りですわぁ。もう少し慎重に、状況を確認する必要がありますわぁ」
アビゲイルもフォローの言葉を発した。
そして、期待した視線をクローディアへと送ってくる。
「コホン。まずは現場の確認ですわ」