平良 その5
配達を終えた平良は店には戻らず、寂れたアパートの前にいた。鉄製の階段を一気に駆け上がると、1つのドアを躊躇い無く叩き始める
「すいませ~ん。先日伺った平良ですけど~いらっしゃいますか~」
ドアノブを何度も回しながらワザとらしく大きな声を発して近隣の住人に目立つようにアピールをする。その状況に観念したようにドアが開かれる
「もう止めて下さいよ…何なんですかいったい…」
弱々しい声を絞り出し年老いた男が顔を現した
「いや~どうもすいませんね騒々しくて。でも、ほら、大きな声を出すと田中さん家から出て来てくれるから」
平良のにこやかな表情に田中の背筋は一瞬で凍りつく
「ど、どうしたんですか…話す事ならもう無いって…この間も言ったはずですが」
「お隣さんについてはですよね。今日は田中さんの事を聞きに来たんですよ~」
平良の意味深な物言いに、田中の視線は落ち着きなく動き始める
「俺ね、このあいだ田中さんに会った時から、どっかで田中さんを見た事ある気がしてたんですよ。それでやっと思い出したんですけどね」
「……。」
「あ~実はうち店をやってまして、まぁ~店って言ってもそんな大きな物じゃなくて、リサイクルショップなんですけどね。知ってます?リサイクルショップって?勿論、田中さんは知ってますよね~」
平良は手にしていた買い取り台帳のあるページを田中の顔の前に突き付ける。そこには田中の、氏名・住所・電話番号の他に、田中が平良の店へ持ち込んだ物の明細が細かく記されていた
「す、すいませんでした…ほんの出来心なんです…どうか警察にだけは…」
台帳を見せられた途端これは誤魔化せないと諦めたのか、田中は縋りついて懇願する
「あれ?田中さん警察に言われたら困る事とかしちゃったんですか?それじゃあ、ちゃんと説明してもらいましゃうかね」
俯いたまま肩を落とす田中の姿は一層小さく感じた




