リサイクルショップ その4
「大丈夫ですか?少し落ち着きましょう。さぁ、お茶でも飲んで」
肩に手を添えた瀬尾は優しい口調で語り掛ける
「確かに平良は立派な大人とは言い難いかもしれませんが、それは決してお母様のせいではありませんよ。それは平良個人の問題ですから、どうか気に病まないで下さい」
「瀬尾のお坊ちゃま、そんなお優しい言葉をありがとうございます…」
「そんな他人行儀な、私の事はどうぞ"章"と名前で呼んで下さい」
「よろしいんですか?…それじゃあ…あ、章さん」
「はい。それでは私も、お母様の事は"俊枝さん"とお呼びしても宜しいですか?」
「も、もちろんです!章さんにそう呼んで貰えるだなんて光栄ですわ」
すっかり舞い上がっている母親の姿を横目に、平良は抱えたドーナツを無理やり口へと詰め込む
「ちょっと慎二!独り占めしてないで章さんにもドーナツを差し上げなさい」
「はぁ?そもそもこのドーナツを貰ったのは俺だし。コイツはあの人が依頼に来たときに冷たく追い返したんだぞ、食べる権利なんて無いんだからな」
「アンタは何でそんなに意地の悪い事を言うの!」
息子の台詞に俊枝は顔を真っ赤にさせて小刻みに震えている
「あの人って誰のこと?」
数日前の出来事なのに思い当たらないのか、瀬尾は顎を擦りながら考え込んだまま動かない
「何日か前に飼ってる猫がいなくなったから探してくれって言われたのを、お前が断って追い返した子だよ」
「あぁ~、あの髪の毛が茶色くて派手な化粧をしていた女性か」
「それそれ。あん時に俺が言ったアドバイスをやってみたら猫が帰って来たからって、そのお礼にドーナツをくれたんだよ」
「へぇ~…それは良かったね」
と言葉は返すが、その態度はとても興味なさげだった
「それで慎二、ちゃんと凌子ちゃんを家まで送ってったんだろうね」
思い出したように俊枝が口を挟む
「ちゃんと家まで送ったよ。てか、その家ってのがさ~3丁目のコンビニの近くにあるアパートだったんだけどさ、それがまた古くてボロボロで女が住むにはあり得ない感じだったわ」
「そんなボロボロなの?大丈夫なのかしら…」
「家賃3万でも住みたくねぇな。なんか薄くて不気味だし」
「もしかして、そのアパートって茶色のトタン屋根だった?」
「そんな色だったな。錆びも酷かったから屋根に穴とか開いてそうだったぞ」
「やっぱり…それなら、そのアパートはうちが管理しているアパートだよ」
その言葉に平良は驚いた様子で笑いだす
「マジで?お前アレはマズイよ。さすがに建て替えるなりリフォームするならしろよ。オバケでも出そうなボロさだったぞ」
「父さん達もそうしたいらしいんだけど、住んでいる人もいるから簡単には出来ないんだよ」
溜め息まじりに呟くと、ふとある事に気が付いた
「でも、あのアパートに女性は住んでいないはずだよ?」




