第7話 一等星
人時計の針が零を指し示した。
ボーン、ボーン__
と音を立てて、静かに動くのをやめた。
その日の夜は空気が澄んでいて、星が綺麗に瞬いていた。
「きっと今年一番の星空だな」
この星空のもと、一つの“死”を目の前にしたあの少年は何を思っているだろう。
人はきっと、一人きりでは生きられない。
誰かと手を取り合い、同じ時を共有しなければ生きていけない。
それを弱者と見るか、はたまたそういう種族と捉えるか。
人とは短い一生で誰かに愛され、その愛を誰かに与える。そしてまた愛され、愛す。
憎み、憎まれ、傷つき、傷つけ合う。与えられたものを返し、与えればまた返される。良くも悪くもこの世界はその繰り返しの上で成り立っている。
与えたものが必ずしも自分の望んだカタチで返ってくるかなんてわからないのに、人は誰かを愛し続ける。絶えず与え続ける。裏切られても懲りることなく。
その姿が馬鹿馬鹿しく思う反面、時に俺の目を引く。
だから懲りずに人の子と関わりを持ってしまうのかもしれない。
俺には到底理解できないその執念の中の生き様を、より近くでこの瞳に映すために。
だからこそ思う。俺たちと相容れない存在である人は、異色に映るけれどきっと尊い存在なのだと。生まれるべくして生まれた存在であると。
この世界は残酷で時に冷酷である。
だからこそ人の子のような存在が生まれたのかもしれない。
長い一生を弄ぶ我らではなく、短い一生を色濃く生きる人間が必要だったのかもしれない。
なんて、無駄に長くこの世に生きている分、なんとも可笑しなことを考えてしまうのだけれど。
俺は誰もいない部屋で小さく笑いを溢した。
あの少年はどうだろう。双子の片割れに寄り添う冬馬はどうだろうか。
冬馬はどれだけ理不尽な現実を突きつけられようとも、後ろを振り返ることはなかった。立ち止まって動けなくなることはあっても、決して過去に縋ることはなかった。
思い出とは美しいもので、時間が経てば経つほどそれは美化されていく。
きっと冬馬の中にも片割れと生きた過去の思い出があったはずなのに、それに足を取られることはなかった。
いつ、どんな時も冬馬はまっすぐと前だけを見つめていた。その手足が震えようとも、その喉を締め付けられようとも。少年は自分の足で立ち上がり、自分の声で叫び続けた。
”生きたい”と。
他の誰でもない、自身の弟と”生きていきたい”と。
それが愛情か親愛か、もしくは同情からくるものか。
それは考えるまでもなく、愛なのだろう。
人が容易く口にする“愛”。
「家族……か」
その言葉を声に出して言ってみれば、なんとも不思議な感覚がした。
その存在が少しだけ、羨ましかった。
一人でこの世に生まれ、生きていく我らには与えられない存在。
「ふっ……。馬鹿らしい」
無いモノに憧れても仕方がない。
我らは人の子とは別の存在として、別の種族としてこの世に生まれた身。
使命を全うするまでは生まれ変わることはない。
それがあと百年後か、千年後か。
でももしその未来がきたなら、次は人に生まれるのもいいかもしれない。
そんなことを思った自分にまた笑って、輝き続ける星たちを瞼の裏に焼き付けるように、そっと目を閉じた。
様々な思いが交差し混じり合うこの世界はさぞかし生きづらいことだろう。
それでもその中でもがき苦しむ人の生き様は尊く、色濃く、感慨深いものがある。
人の輝きは弱く頼りないけれど、人生の中で一番光り輝くその瞬間は思わず目を細めてしまうほど眩しい。
それはまるで雨上がりの雲から差し込む眩い光のように、夜空に輝く一等星のように。




