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トラブル・トラベラーズ!  作者: 安楽樹
6章 山羊獅子の洞窟編
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3.良くぞ来て下さった、旅の方々よ

「ここがバドリー村か」

「名前はちょっとカッコいいけど、中身は普通の村ですね」

「……まあそりゃそうだろうな。でも、なんか懐かしいよな~。こういう風景」

「そうなんですか?」


ということで、一行は早々にバドリー村へ着いた所だった。

元々、特に忙しかったわけではない。依頼に訪れた農夫に一晩休んでもらった後、次の日には馬に乗って出発し、街道を進んだその一日後には村へと到着していた。

バドリー村は、特筆して記述する事も無い、どこにでもあるような田舎地方の農村だった。


所々に偏在する家と、その周囲に広がる畑。

これから暑くなる季節を前に、新緑の季節に採れる菜花や葉物、一部の豆類などの片付け作業が行われていた。

その次には猛暑の季節に収穫できる、カラフルな果菜類の苗が植わっている。もう二~三ヶ月もしたら収穫できる事だろう。

そんな事を考えながら、一行は村の中心へと歩みを進めていた。珍しい客に興味津々なのか、作業中の農夫たちも手を止めて彼らの方を見物していた。


イセルはそんな彼らを懐かしそうに眺める。

……彼はこのような農村出身だったのだろうか?グラムルが記憶する限りでは、彼や彼女が育ってきた王国は割と都会であり、そこそこの広さまで発展していたはずだ。

それに加えて、あの辺りは渓谷が多く、この村のようにだだっ広い草原のような地形はあまり無かったはずだが……?


気になるといえば気になる話だったが、昔の話になると考えたくない兄の話をまた考えてしまいそうだったので、この話を追求する事は止めておいた。

今はこの新しい仕事に集中する事で気が紛れているのだから、そっちへ全力を傾ける事にしよう。

グラムルはそう気分を切り替えるのだった。


「良くぞ来て下さった、旅の方々よ」

「こちらが村長です」


村の集会所です、と紹介された少し広めの建物に案内され、そこで待っていた老人を紹介されると、早速仕事の話になった。

建物の中の長椅子を勧められ、全員でそこに座ると同時に、温かい紅茶が配られる。

それに手を付けながら、一行は村長の話に耳を傾けた。


「話は既にお聞きになっとると思いますが、最近妙な怪物が出て、家畜が襲われて困っとるんです。皆さん方、退治して頂けんじゃろうか?」

「被害にあってるのは家畜だけなのか?」

「今の所、離れたところで飼っている牛や豚、鳥だけなんじゃが、もちろん今後の事を考えると村人にも被害が出んとも限らん。今のうちに何とかせんとと思っとります」


彼らが思ったよりも若いからなのか、彼らに対してそれほど丁寧ではない口調で語りかける村長。……もしくはこういった状況に慣れているのかもしれない。

彼らも特にその辺りにこだわっているわけでもなく、逆に丁寧すぎると場違いになってしまう雰囲気もあるので、このような扱いはむしろありがたかった。

おかげで村長に対して、別段礼儀などを意識せずに話しかけることができた。


「なるほど。……この辺りに怪物のねぐらになりそうな場所はありますか?」

「いや、それが心当たりが無いんじゃ。少し離れた所に遺跡があるぐらいなんじゃが、そこはもうほとんど屋根も無い廃墟となっておりますので……」

「遺跡?」

「ええ、三日月の丘というんですが。ここにはちょっとした歴史がありまして、まだポルトヴァの町があんなに栄えていなかった頃、ここにはまだ小さい集落しかありませんでした。その時にこの丘にある遺跡に≪腐銀犬鬼コボルド≫が大量に住み着いてしまった事があったのです」


尋ねたスプの表情に、少し驚きの感情が混じる。

……これと言って特に事件の無い、平凡な村かと思っていたら、余所者に聞かせられるほどの過去の事件があった所だったとは。……正直、この村の事を見くびっていた自分に気付いた。何とも失礼な話だが。

そして、その事件の続きに耳を傾ける。


「そのすぐ後に大勢のコボルドたちが村に攻めてきた事件があって、我々が全滅しそうだったその時、ラカーサ家のノルディック様一行がやってきて、コボルドたちを退治してくれたんじゃよ。そのおかげで、今までこうやってこの村も平和に暮らして来れたんです」

「へぇ~……そうだったんだ~……」

「確か、カシューナさんもいたんだよね?」

「ええ、確かにいらっしゃったのぉ。あの時のノルディック様たちと言ったら、そりゃあ絵になるような素晴らしい出で立ちでしたなぁ……。そういえば、ちょうどあなた方と同じような面子じゃったよ」

「……俺たちと?」


思わず間の抜けた声を出してしまったイセルだったが、考えてみれば当然の事だった。

確かにこの地域に偏在する遺跡を探索して回っていたのであれば、パーティーを組んでいたとしても意外ではない。……と言うより、そっちの方が自然だ。

なるほど、カシューナが身に付けている様々な技術は、その辺りの経験が元になっているのかもしれない。

彼の謎のヴェールに包まれた過去も、少しだけその正体が分かったような気がした。


「他にも、コボルドに両親を殺されて孤児になってしまった子達を、その時一緒にいた司祭様が連れて帰って育ててくれたり……。本当に素晴らしい方たちでしたな」


その言葉に、イセルの耳が一瞬ピクリと反応する。

……だが、その僅かすぎる反応に気付いた者は、そこには誰もいなかった。


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