第71話 『終焉の時計塔』
「シオン様ーっ……!」
ジュンとレオン、双子のピクシーとリップは、渦巻く時空のドームへと吸い込まれていた。
ピクシーのライトとレフトは、その中にいてもパタパタと飛び回り、大はしゃぎしている。
それを見たレオンは口元を押さえながら、
「ぐぐっ……目が、目が回る……!」
と苦しそうに呻いた。
一方のジュンは目を輝かせながらシオン様の後を飛びつつ、不思議そうに首を傾げる。
「レオン? なんでそんな時に自分の剣を頼らないんだ?」
「まったくですわ」
シオン様も呆れたように頷いた。
まだまだ修行が足りないレオンは、剣聖でありながら己の『剣』を忘れ、時空の渦に身を任せてしまっている。そのせいで回転に振り回され、完全にバランスを崩していたのだ。
「おーい! レオン! なんでその剣の柄を握らないんだ?」
「握っても目が回るぞ……」
「それは、目が回ってから掴むからだよ!」
最初から剣を支えにして身構えていれば起こらないはずの現象だった。落ちると感じた時も、剣の柄を固く握れば大抵のことはどうにかなるというのに。ジュンは「レオンは逆に、わざと回転を楽しんでいるのではないか」とすら思ってしまうのだった。
しばらく時空の流れに身を任せていると、周囲はキラキラと輝くカラフルな世界へと変化していく。
やがて渦の速度が緩やかになると、色鮮やかな光の帯は薄れ、代わりにどこか見覚えのある巨大空間が姿を現した。しかしそれは同時に、言いようのない不気味さも漂わせている。
出口から飛び出した瞬間、レオンは地面へうつ伏せに倒れ込み、
「おおぇぇぇぇぇ……! リップ! 水をくれぇ……!」
と盛大にえずいていた。
その中心に鎮座していたのは、かつてこの地に足を踏み入れた際に目の当たりにした──『終焉の時計塔』だった。
世界を崩壊へと導く刻を刻むはずの、無骨で巨大な時計塔。
……しかし、今の一行の目に飛び込んできたのは、あまりにも締まらない光景だった。
時計塔の文字盤の長針に足を引っ掛け、ブランコのようにぶらぶら揺れながら優雅に紅茶をすすっている一人の男。
──エルフの神である。
「やあやあ、おかえり! 一ヶ月ぶりの砂漠の世界はどうだい?」
神は文字盤からひらりと飛び降りると、時空の回廊に浮かんだまま親しげに手を振った。
「……何をしておられますの、あんなところで」
シオン様が冷ややかな視線を向ける。
「いやあ、君たちが人間界で『マヨネーズ』なんて悪魔の調味料を生み出して三界を大混乱に陥れていたからね! 視聴率が……あ、いや、世界の歪みがこの『終焉の時計塔』の針を狂わせちゃってさ!」
エルフの神はニヤニヤしながらジュンへ顔を向けた。
「ジュン、僕が授けた加護の調子はどうだい? 実はあの加護、君が新しく成長し何かを生み出すたびに、この時計塔の針を『世界の終焉』から『平和なランチタイム』へ巻き戻す隠し機能が付いていてね」
「えっ!? 僕の加護にそんな仕様があったんですか!?」
ジュンは目を丸くする。
「……まさか、マヨネーズ作りで?」
すると、まだフラフラしているレオンが剣の柄にしがみつきながら叫んだ。
「な、なんということだ……! ジュン殿のマヨネーズ作りが、結果として世界の滅亡を先送りしていたのか……!?」
「まあ、そういうことにしておこうか!」
エルフの神はパチンと自分の耳元で指を鳴らした。すると終焉の時計塔の針がカチリと音を立て、大きく逆回転を始める。
「さあ、この砂漠の地には、まだまだ誰も知らない『未知の魔具』と、『不法占拠されたダンジョン』が眠っているよ」
エルフの神は楽しそうに笑った。
「僕の加護を使いこなして、また神々を退屈させない最高のショーを見せておくれ!」
ここでシオン様が、ふと気になっていた疑問を投げかけた。
「ところで……神とおっしゃるあなた様方の上に立つようなお立場の方が、なぜ自ら旅をなさっているのですの?」
「おっと、そこを聞いちゃうかい? ……あ、そうそうジュン! 君自身の詳細や加護の仕様が知りたければ、頭の中で『ステータス』と念じるんだよ! では、またどこかで会おう!」
都合が悪くなったのか、エルフの神は煙に巻くように言い捨てると、いたずらっぽい笑い声と共に消え去った。
直後、終焉の時計塔が光の粒子となって弾け──一行の足元には、再び果てしなく続く砂漠の大地が広がっていくのだった。
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これまで『何回、転生させたら気が済むんですの!?』を最後までお読みいただき、誠にありがとうございました!
主人公たちの二転三転する波乱万丈な旅路を、ここまで温かく見守ってくださった読者の皆様には、感謝の念に耐えません。皆様からのPVや星、ハートを頂き執筆を続ける大きな原動力となっておりました。
物語はここで一度、大きな区切り(第一部完)となります。
ですが、彼らの旅がこれで完全に終わったわけではありません。時期が来ましたら、またさらなる物語の転回、そして新たな冒険を描きたいと考えております。
その時には、ぜひまた彼らの物語に付き合っていただければ幸いです。
ありがとうございました。




