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第一話:ごめんあそばせ、システムエラーですわ

きらびやかな大理石の床、天高くそびえる純金の柱、そして天井には、世界のことわりを示すかのような巨大な歯車が、美しく、しかしどこか不規則な音を立てて回っている。


そこは、全宇宙の魂を管理する最高至上にして最果ての地──『神々の世界(天界)』。


「お、おい……嘘だろ……。またあの魂が戻ってきたぞ……!」


「ヒエッ、これで何回目だ!? 待て、今回の転生先は『SSS級・滅亡寸前の魔界』だったはずだぞ! なぜもう死んでここへ来ている!?」

そんな、簡単に殺られる、器じゃないだろ。

以前にも一度、あそこを蹂躙したはず。


純白のローブをまとった下っ端の神々が、神殿の中央でアワアワと泡を食っている。


彼らの視線の先、空間にパチパチと青い火花が散り、一人の女性がゆったりと床に降り立った。


絹のように滑らかな銀髪に、吸い込まれそうな深い紫の瞳。


身にまとっているのは、先ほどまでいた魔界の返り血(すでに完全に浄化済み)で汚れる前の、最高級のシルクで仕立てられた、どこまでも美しい真紅のドレス。


彼女の名は、シオン・ド・ラ・ローザ。


シオンは、めまいがするような次元移動の残光を、優雅に扇子を広げてパタパタとあおぎ消した。そして、目の前で腰を抜かしている神々を冷徹に見下ろし、形の良い唇の端を吊り上げた。


「……あら、ごめんあそばせ」


なめらかで流れるような、あまりにも気品に満ちた声が神殿に響き渡る。

シオンは、ふわりとドレスの裾を持ち上げ、完璧な角度で淑女のカーテシーを決めてみせた。


「お初にお目にかかりますわ、自称・全知全能の神々様。……で?」


一拍置いて、シオンの紫の瞳から、絶対零度の冷気が放たれる。


「一体、何回転生させたら気が済むんですの? いい加減になさい。」

「ひ、ひえぇっ……!」


神々が悲鳴を上げて数歩後退りする。それもそのはずだ。彼女の背後には、過去99回の理不尽な転生で嫌々マスターさせられた【全属性魔法極大適性】【概念破壊の剣技】【全知の賢者コード】といった、世界のパワーバランスを一人で崩壊させるレベルのチートオーラが、オーロラのようにギラギラと渦巻いているのだから。


シオンは、空間にぽつんと浮かび上がった、バグだらけの『ステータス・ウィンドウ』を忌々しそうに睨みつけた。

そこには、チカチカと点滅する赤い文字で、こう表示されていた。


【エラー:魂の転送先が上限に達しました。一時的に管理者領域(天界)へ強制排出す……エラー……エラ……】


「1回目は中世のお嬢様。2回目は極寒の地でのサバイバル。ある時は南国のサトウキビ畑の奴隷労働者、またある時は戦場のドクター、挙句の果てには魔界の救世主……。私はただ、最初の人生で、静かにハーブティーを飲みながら老衰したかっただけですのよ?」


シオンは一歩、また一歩と、神々が座る最高議事堂の階段を登っていく。


「それなのに、あなた方の怠慢なシステムエラーのせいで、私の有給休暇が何百年分着服されたと思っておいでですか? 労基(天界法)に訴えますわよ?」


「ま、待て! シオン・ド・ラ・ローザ! これは不可抗力なのだ! 世界の人口が増えすぎて、運命の歯車のサーバーが……!」


言い訳をしようとした上級神の前に、シオンは音もなく移動(神の速度を超える縮地)し、空間に浮かぶ半透明のステータス画面を、その白く細い手でガシッと物理的に掴み取った。


「言い訳は結構ですわ。……フフッ」


シオンは、あの特徴的な笑い方で妖艶に笑うと、掴んだウィンドウのプログラムコードを、素手でバキバキと力任せに書き換え始めた。


「これだから素人は困りますの。──そこを退きなさい、神々様。このバグだらけの天界、私が直して(お仕置きして)差し上げますわ」


こうして、99回の転生を経て最強(物理&論理)となった元・お嬢様シオンによる、天界のシステム修正(神々の粛清)の火蓋が切って落とされたのである。


(つづく)

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