6.皇都アッカイード
ガリエル皇国のオリジンは、大陸北西部、山岳地帯にある。七部族から成る氏族で、ガリエル山系に分散して住む高地民族だった。
160年ほど前、部族を束ねる強力な氏族長が出た。名をアッカイード。
暖かい冬が続いて雪が十分降らず、放牧が困難となった年に七部族会議が招集された。会議によって部族長の息子だったアッカイードが100年ぶりの氏族長に選出された。
アッカイードは、氏族の生き残りを掛けて平地に村を作って農業と牧畜を行い、再び来るかもしれない暖かい冬に備えようとしたが、平地の農耕民に受け入れられず、最終的に紛争になった。
最初はアッカイードが護る新しい村と、付近の村や領主との小規模な紛争だった。小競り合いで終わらず、本格的な戦闘になって、アッカイードたちは自分たちが非常に強いことに気が付いた。
じりじりと兵を増やし、15年ほどで城塞都市を制圧する兵力を育て、最後はルースカリエ帝国に攻め入った。大規模魔法による大量の死者を出しながらも帝都の二重城壁を破り、たったひとり末の皇女を残して、皇帝家のすべてのメンバーを殺戮した。
帝都の名をアッカイードと改め、七部族を上位貴族に据えて帝国の城塞都市を割り当てた。
ルースカリエ帝国を引き継いだ形にして旧帝国民を治めるために、それとは知らず、末の皇女の身代わりを皇妃に据え、ガリエル皇国建国が成立する。
身代わり皇妃の産んだ男子は弑され、皇国皇室にルースカリエの血筋は残っていない。
この時ガリエル皇国は四代目。若い皇帝は皇都の衰退を憂いていた。
「のう、皇都の民はずいぶん減ったのではないか」
公国と王国の15年に及ぶ移民作戦は、ガリエルのおざなりな対抗手段を楽にかいくぐり、有効に働いていた。
「はい、そのようにございます」
「どこに行っておる」
「は、真に申し上げにくいことにございますが」
「かまわぬ」
「ベニステラ公国とのことでございます」
「滝の城か」
「はい。
西の港から船でドナティエールへ移動しております様子」
「船」
「はい。滝の城に入った者は滝の奥の洞穴を抜け、運河を通って港に至ります。
アルジェンタム河を渡って滝の城へ至る者もおりますとか」
「あの大河を渡るのか」
「はい、公国の者が迎えに来るとやら。物見が伝えるところによりますと、河を船で渡るのではなく、河の上を低く飛ぶ乗り物が迎えに来るとのことにございます」
「魔法とやらか」
「魔法陣と魔晶石というものを使っておるようにございます」
「西の港からは船で南を大きく回り込み、中継の町を経て、ドナティエールのフィエール領、馬蹄湾に移動しております。
川船でアルジェンタム河を下り、河口付近で発見してもらい救助される者もおりますとか」
ガリエルは、侵略する国についての事前情報収集を怠り、その結果占領手法を誤り、統治が落ち着いてからも占領した国の文化を蔑み、帝国が育ててきた特殊な魔法についておざなりな調査しかしなかった。
市民も、中級以上の魔法を使う者たちは王都で教育を受けて故郷に帰るから、横暴なガリエル支配層に反発して積極的に移民していった。
物理に頼り切った力攻めの侵略は、その時はうまくいっても統治に入った時に失政しがちだ。被支配民の文化を劣等とすることで失うものが多すぎる。
南と西から徐々に民が減あり、原因を調べると大量の亡命者が出ていた。城塞都市を任された統治者たちは旧帝国民に対して横暴で、耐えかねて城塞都市から逃げ出す者は多かった。そこへアルジェンタム河を横断するために、魔法フロートを掛けた平底の船をごく低く水上に浮かべ、帆には風魔法ブローで風を送って操るという、思いもよらない方法による支援が出た。
残念ながら長時間はもたないものの、これを成功させたウイレムが満面の笑みで発進式を見守ったことは言うまでもない。
ガリエル貴族は、150年以上たっても魔法を十分理解していなかった。せいぜい竈に火を入れるとか、風呂に入る代わりに体を清める、簡単なケガを直す程度の、自分たちでも練習すれば使えるようになる生活魔法、便利以上のことはできないと思っていた。帝都攻略の時に大規模魔法で大量の死者を出したのに、その使い手は全部潰したことになっていた。
視線遮断、重力制御、睡眠などの中位の魔法についての理解が十分でないから、城塞都市から亡命していく市民を引きとどめることができなかった。
間諜を紛れ込ませ移民船の航路を辿ると、アルジェンタム河の河口沖合を横切ることがわかった。アルジェンタム河を下って河口沖で移民船を捕獲しようとしたが、そもそも船を操る経験が足らないところへ、移民船には風使いが必ず乗るからどうにも追いつけない。唯一の救いは、移民船から浴びせかけられる悪口雑言が逆風で届かないところだろうか。
河口から東に進み停泊地を襲って潰そうとしたが、ここにも風使いがいて、はるか沖まで追い払われた。さすがに何度か絶妙のタイミングで風が吹くのを見て、どうも妙な魔法があるらしい、と考える指揮官が出始めたが、帝都の焼き討ちで書籍の多くが失われ、手掛かりがなかった。
「最近まではこれほどではなかったように思う」
「さようにございます。調べによりますと、ドナティエールの第三王子がベニステラに行きましてより、移動が多くなりましてございます」
「なんと。ドナティエールの第三王子と言えば、父上から姉君の婿にと言うてやったに、厚かましくも断りおった、あの駄犬であるか」
「さようにございます」
「遠征軍を組織せよ。将軍を呼べ」
「御意」
ガリエル・ヒストリーは、挿入3に詳細




