表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/62

2.謀略の姿

絵の掛る廊下でフィリップスは、激しく落ち込んで膝を突きかねないほどだった。

それでも、叔父の後姿に声を掛けて、ポケットから取り出したペンダントを渡した。

「これは、アリエスが肌に着けていた物です。東の植民地にある鉱山から出たものだと言っていました。きれいなお守りでしょう、と」

「ほう? それできみは?」

「はい。魔晶石かもしれないと。それならば、東の開拓にさらに重点を置く方針がいいかもしれないと」

「そう」


カンデラ公は、ちょっと待っていなさいと太陽光の差すところまで行き、その半透明の玉を光にかざした。

「これはルチル・クオーツだよ。金の入り具合が絶妙だね。確かに、魔晶石と間違えるのも無理はないけどね、騙されたね。情事の相手がそんな物を持っていたら、疑いたまえ。我々の立場では、それがたとえ妻であろうとも、ベッドで何かを見せられたり噂話を聞かされたりしたら、裏付けが取れるまで虚偽と見做みなすのが当然だろう。アリエスと名乗る者は、きみがそれを興味深く眺め、貸してほしいといった時、“よし、掛かった”と密かに快哉を上げただろうねぇ」



この後にまだ、もっと厳しい現実が待っていた。


次の日、フィリップスは父王に呼び出された。執務室かと思ったが、何と、元老院議会室だった。そこは、王城の中でも特に警備が厳しく、防諜のための魔晶具が何種類か使われている。

入室したフィリップスの後ろで、扉が重い音を立てて閉じられた。


部屋にいたのは、王、王妃、カンデラ公夫妻、元老院議長サマビル前侯爵、現サマビル侯爵及び夫人、ひとり娘のエステル、侍女ロシュフェール男爵令嬢、マール候とフレデリック、ライフェルド侯とオーギュスト。

立ち合いとして元老院から数名の議員、壁際には王宮の高級官吏と竜騎士が立っている。


「さて、わかりやすくやろう」

王が口を開いた。

「マクニール子爵、準備はよいな」

「はい、陛下」

ジャルダンが脇扉を開け、初老の貴族と、10歳くらいの少女を部屋に入れた。

「陛下、ロシュフォール男爵と令嬢でございます」

エステルの後ろに立っていた侍女が、じりっと身動きした。しかし、いつの間にか背後左右に竜騎士が立っており、動く場所がなかった。


「陛下、ナサニエル・ロシュフォールにございます」

「うむ、よく来てくれた。遠い道のりを急がせた」

「陛下のお役に立ちますなら」

「いつ以来であるか」

「はい、結婚のご報告のために妻とともにまいりましてお言葉を賜りました。はやもう20年にもなりますでしょうか」

「領地をよく治めておるようだの。娘子むすめごの学園入学を待っておるぞ」

「はい、ありがたいことにございます」

「娘子の名は何という」

「は、アリエスにございます」

マール候父子とライフェルド候父子が青ざめる。


「そうか、子はひとりか」

「いえ、息子がふたりおりまして、コンスタンチン卿からお預かりしている領地のことはもう任せております」

「良い宝を持っておるの。どちらかの息子を王宮に仕えさせる気はないか」

「ありがたきお言葉、是非に」

「よかろう、そのことはマクニール子爵に任せておるゆえ、話し合うがよい。

子爵がすべて手配している、10日ほど王都の見物でもして、体を十分に休めてから帰れよ。

ご苦労であった」

「は、まことにありがたく存じます。陛下に平安がありますように」


ロシュフォール男爵は騎士の礼をとり、娘アリエスはこの時のために練習した礼をして、マクニール子爵に導かれて退出していった。


「その者を捕えよ」

アリエスの後ろに詰めていた竜騎士のひとりが右肩を固め、もうひとりが口に布を噛ませて後ろできつく縛った。

「そこで最後まで立たせておけ」


「さて、エステル、何か言うことは」

「まさか信じられません」

「そうか、おまえの仕える者は俺ではないと、そういうことだな」

「いえ、陛下、そういう意味では」

「おまえは王家の家訓より母の言葉を優先するのであろう、フィリップスの乳母娘よ。

乳母を務めたな、サマビル侯爵夫人。名はカレンであったな」

「は、はい、陛下」

「この者を知っておるな」

「はい、ロシュフォール男爵令嬢、名はアリエスと聞いておりました」

「見たであろう。ロシュフォール男爵の令嬢は確かにアリエスだ。だがまだ11歳だ」

「はい、いえ、まだ自分の見たものが信じられません」


「そうか。ではこれを聞くがよい」

王は、魔晶具に魔力を流した。



「殿下、あのエイプリルとかいう辺境の猿姫を本当に妻になさるの?」

「ああ、猿でも恩人だからな」

「ええー、恩人なんて、そんな古いわ」

「古いさ、わかっているさ」

「古いわよねー、なんだか家訓とかもすごく古くない?

婚約したのに何年も会えないとか、なんかそういうのあるでしょ?」

「ああ、俺も母から聞いたよ」

「そうそう、わたくしの母も言っていたわ。

王家は帝国を取り戻すと言っているけど、できるわけないって。このまま新しい国を東に広げれば済むでしょ、って

ね、アリエス、アリエスもそう思うでしょ?」

「姫さま、畏れ多いことにございます」

「アリエスは王都の人じゃないもの、東から来たでしょ?」

「はい、東は広うございます。魔晶石鉱脈も新しく見つかるかもしれません。

船を作るための大きな木もたくさんありますし、木を切り倒した後は広い農地になりますでしょう」

「なるほどね、そうかもしれないね」

「東はまだ人も少ないし土地も広い、海だってあるのでしょ?

古い場所にこだわらなくたって、新しい土地を新しい考えで切り開いていけばいいのじゃなくて?

古い土地は、古い考えの者たちに残してね」



「エステル、おまえとフィリップス、アリエスの声だな」

エステルとカレンの顔からは完全に血の気が引いている。

「何か言うことは?

おまえたち母娘は身元を親元に問い合わせることもしないで侍女を雇い、それに入れ知恵されて、王家の慣習を知っていながら王子妃の地位を狙ったのであろう。邪魔になる西の姫を、王子を使って追い払った。そういうことだな」


サマビル元老院議長が、苦々しいような弱々しいような、複雑な感情を乗せた声を出した。

「陛下、この場で娘と孫を斬って捨てる許可をいただきたく」

王の返事はそっけなく、同時に冷酷だった。

「やめておけ、汚れる。

この者たちの血では、掃除させる手間すら惜しいわ」


「この、アリエスと名乗る女は、ガリエル皇国から送り込まれた。2年前に、ベニステラ公国から移民船でホーシュビーに、その後コンスタンチン領への移民を希望して入植したと判明している。

第三王子の婿入りを断られ、フィエール家の姫をふたりまでも王家に入れると知って、皇国は考えたのだな。

我が国の目を、西でなく東に向けさせよう、そのために西の守りたるフィエールを王家から離そうとしたのだ。姫を侮辱されて、フィエールは王家から距離を置くだろう、そうすれば皇国に寝返らせることもできるかもしれないとな。

よいか、皇国は成功したのだぞ、おまえら母娘と愚かな第三王子の手柄だ。

皇国に逃げて、褒美をもらうか。のう、それがよかろう、カレンよ」



アリエスはそのまま刑場に引かれていき斬首。

カレンとエステルは身分を剥奪されて東の未開地へ追放、道中密かに殺害された。

サマビル元老院議長は娘と孫を恥じて隠棲、女婿サマビル侯は王家に進退伺を出し、自ら謹慎して沙汰を待つ身となった。


東へとさらに領土を広げるという案自体はいいものなのです

ただ、それはフィリップスの役目ではないのですね。役目ではないから、東について知らない。知らないことに手を出して、簡単に騙された、という次第です。東を担当する兄ジョージ殿下に魔晶石ではないかと思うものを見せて相談すればよかったのでしょうが、情事がからむとそのあたりが難しくなりますよね。アリエスから見れば、婚約者がいて、情事について内緒にしておきたい王子とか、絶好の狙い目です


彼は、今も多くの旧帝国民の子孫が、双子の火山の間を通る間道を密かに越え、あるいは、ベニステラ公国を経て海路でホーシュビーへ逃げ込んできていることを知らないか、忘れています、あるいは気にしたことがありません。


魔法使いの国家と、武力頼りの国家には、大差があるのですね。

現代風に言葉を選べば、科学的な考えを採用して人種差別しない国と、侵略国家でありながら、いや、そうであるからこそ、元からそこに住んでいた人を劣等人種として武力と強権で支配する国があるなら、“自由を求めて”侵略される前の国の再興を目指して逃げ出す人がたくさん出てくるのは当たり前、という風に考えればわかりやすいでしょうか。


ドナティエール王国もベニステラ公国も、未だ旧帝国の民の子孫を切り離せる状態ではないのです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ