挿入1.千年帝国ルースカリエの興りとさまよえる賢者の誕生
挿入1から3は、ドナティエール王国の前身である、ルースカリエ帝国の興り、中期における戦姫の誕生、終末期のガリエル族の侵攻と帝国の崩壊について記述しています。
なぜフィエール辺境伯家が大きな役割を担っているか、ベニステラ公国はなぜ生き延びたか、ガリエル皇国はなぜ小国に過ぎずさらに大山脈越えの大作戦を立てなくてはならないドナティエールを征服しようとするのか、そのあたりに説得力を持たせるための通史です。
場面場面でそこで必要なだけの説明はしてあるので、読まなくて大丈夫です!
イメージは、興りのところはギリシャ都市国家連合。
世界史上の科学文明を、異世界の魔法に置き換えてみてください。
盛期は世界史とは全く関係ない、魔法使いの血筋と戦姫の誕生に焦点を置いています。エイプリルの祖先ですね。
ガリエルの侵攻と帝国の崩壊部分は、科学が文化になり結果として兵力に圧倒されるという面で、ペロポネソス戦争など。
中国史なら、チンギス・ハーンと清の成立などが思い起こされると思います。
もちろん、力で圧倒しても大国家運営には多数の文官が必要不可欠です。少なくとも計算して紙に書いて、提出してもらわないと統治に必要なことは何も把握できませんね。人口とか、税金とか、食料生産状況とか、流通はどうなっているのかとか。これがないと、皇王といえども騙され放題!
ガリエルは帝国語を十分に習得していなかったため、少なくとも初期は、旧帝都の文官をそのまま使いました。信用できる数値だったかな~、どうかな~
また、子どもを育てる役割を負う女性が子に少なからぬ文化的な影響を与えますので、被征服国の女性を妻あるいは愛妾、すなわち息子の母にした支配層は、次第に文化に逆征服されていく運命にあります。
帝国の北部は、地図に入り切れていませんが、更に北へと広がっています。
面積的には、地図に描かれているのと同じくらいですが、岩山、原始林、湿地、荒れ地が多く、都市国家ラウルスが通商の為に敷いた道沿いに村、宿場町、砦町が点々と存在しています
今はガリエル皇国となっている広大な地は、もとはルースカリエ帝国の領土だった。
東は大山脈、
南は南山脈と呼ばれる低い山々、その先は原生林、そして海、
西は大河アルジェンタムとそれに続く湿地、そのさらに西は海、
そして、北は遥かに大陸の中央まで領土を広げていた。
北部は人口過疎地域で、森林、疎林、荒れ地、岩山が続き、その中に村や、石畳の道で繋がれた砦町がぽつぽつとある。
文化と政治の中心は、帝国のおよそ中央に位置する皇都アッセンシオン。そこには皇帝家と元老院を形成する各都市からの代表が集まり、魔法の研鑽では並ぶもののない研究所とそれに付属する各種の学問所が花咲いていた。
東の大山脈からの水を集めて流れ出る大河は、帝都の東で南へと流れを変える。
大山脈を離れるときは、赤土や腐葉土を多く含んで水が赤っぽく見えているからルベル河(赤い川)と呼ばれ、平原の中半でルーレ湖(竪琴の形の湖)へと流れ込む。
そこで土壌成分は幾分か沈殿し、流れ出た後はフラヴェス河(黄色の河)と名を変える。
フラヴェス河は、南山脈に出会ったところで浅く広い湖となり、そこで西へと流れを変え大河アルジェンタムに合流、南の海へと流れ込む。
北から南へと流れ行くルベル河、ルーレ湖、フラヴェス河で東西に分かたれた平原の西の端には、浅く幅の広いアルジェンタム河(銀の河)が北から南に流れ、そのさらに西側には湿地帯と狭い平原、そして大陸を分かつ大海へ。
ルースカリエ帝国は、豊かな土地に自然発生的に生まれた都市国家が集まる形で形成され、1000年の平安を誇っていた。
その中心となったアッセンシオン、旧名ラウラス、の圧倒的な強みは、魔法使いの血筋を厚く保護したところにあった。
1000年前、魔法使いの数は少なく、便利に使われたり迫害されたりすることが多かった。
都市ラウラスは、都市国家群の比較的北側にある大きな城塞都市だった。はじめは農耕を中心としたごく平凡な町だったが、気象の厳しい北部から人が流れ込み、次第に大きな城塞都市となっていった。北部は、森林資源と放牧を生産の中心としており、ラウラス都市民は、北へと石畳の道を繋いで、遥か北部まで通商路を開拓していった。
城塞都市が大きくなり、都市民に水を供給するために、西の大瀑布から水道橋を引いたことによってラウラスは決定的に強くなったといえるだろう。長さ180キロに及ぶ水道橋の建設は、ほぼ魔法使いが仕切ったといっていい。ラウラス支配層に受け継がれていた土魔法、水魔法、風魔法があってこその大規模工事だった。
都市ラウラスの支配者であったルースカリエ家は、水道橋を完成させたことで城塞都市をさらに広げ、強大になった。やがて、中央部、南部に点在する城塞都市国家を集めた大会議を開催し、都市国家連合条約を取りまとめるまでになった。
さらに、都市連合を説得して魔法使いの血筋に繋がる者たちをラウラスに集め、保護し、研究に協力を求めることに成功した。
集められた学生はルースカリエ家が私財を投じて設立した魔法学園で教えを受けた。
卒業後は、男女の別を問わず郷士の一代称号と生涯年金、さらに王宮で兵士の訓練を積んだ従者兼護衛を授けられて、出身地に帰っていった。彼らは、出身地で魔法の資質を持って生まれた子弟を見出し、推薦状を付けてラウラスの魔法学園に送り出す役目をも担っていた。
やがて、エクスプロージョン(爆発)、フロート(浮遊)などを使う者が見いだされた。ルースカリエ家は、彼らを出身地に帰らせることなく、賢者の称号と他では得ることのできないほどの待遇を与えてもっぱら研究に従事させた。
都市国家連合は、大会議を経てルースカリエ家を頂点に対外的にひとつの帝国を形成することを決した。都市間の関税を撤廃し、戸籍票を作成して入都市税を免除するためだ。これによって、人の移動が盛んになり、都市はそれぞれ得意分野を専門に産業を分業化することができるようになった。つまり、Aという都市は宝石研磨の職人が多く、Bでは陶器製造が繫栄している。またCでは彫刻家がたくさんの工房を維持している、というように、いわば“特産物”を持つようになったのだ。
その流通に利益があるので商人が行き交い、都市間の交流と通商が盛んになった。
農耕から手工業へと、農耕文明から工業文明へと、歩を踏み出したのだ。
連合国家であったが、対外的には帝国と名乗ることになった。北との流通路を切り開いてきたルースカリエ家が仮に帝室を形成して、貿易を中心とした外交を引き受けた。各都市代表で構成される元老院がルースカリエ家と同じ権力を持ち都市は完全に自治権を保持する。このシステムはうまく機能していた。
時が経つにつれ、賢者の中から魔法陣を用いる錬金術師が出た。魔法学園でも錬金術は教えられたが、物質の性質についての深い理解が必要であるために(どちらかというと化学)、自然の法則の再現とその力の拡大を目指す(どちらかというと物理学)魔法使いとは別の系統の学問になっていった。
魔法使いと錬金術師を極める過程で、賢者の中から新しい魔法や合成を求めて王国外を旅する者が出るようになる。皇帝はこれを咎めなかった。魔法と魔法使いを篤く遇しているのはルースカリエ家だけであると確信していたのだろう。
さまよう賢者たちが、知られていなかった魔法系統を見出し、帝都となったラウラス改めアッセンシオンに連れ帰ることもあった。
100年、200年と経過するうちに複数の魔法使いで同時に魔法を放つことによる大規模集合魔法、たとえば、爆裂・集束・強化・保存を順次放って山を貫くトンネルを完成させるとか、風、加熱、水を互いにタイミングを合わせながら操って気象をコントロールするような凄まじい魔法を組み立てるようになった。
自分の生まれた村で迫害され、水を出せだの、畑を土魔法で耕せだの、便利に使われる奴隷のような扱いを受けていた魔法使いを探す「さまよう賢者」たちの噂が大陸中に広まっていく。
行く先々で救いを求める魔法使い、そして、魔法使いであることをひた隠しにして静かに生きて来た多くの血筋を保護し、手厚く遇して、賢者たちはさらに研究を深めていった。
この策は帝国にとってうまく作用した。
あえて言うなら、ルースカリエ家にとって圧倒的に有利に作用した。皇帝家は期せずして、いやむしろ、百年の計が実を結んで、魔法使いを手中にすることで元老院とのバランスを皇帝家に傾けることに成功した。
皇帝家は、上位貴族家を巻き込んで、魔法の血筋を持つ者どうしの婚姻を繰り返した。
皇子には複数の妃を迎え、皇女には特に希少な血筋から夫を迎えて、特殊魔法を皇帝家、元老院議員である上位貴族家から外に出さないように慎重に婚姻を組んでいった。
次第に魔力が濃くなり、魔力過多に苦しむ者が出るようになる。それをコントロールするための修業を積む必要性も高くなる。
魔力過多の制御のもっとも簡単な方法は、単に魔力を放出することだ。
しかし、王宮の窓から空に向かってエクスプロージョンを撃つわけにもいかないし、貴族家の庭でファイアーボールやアイスランスを撃たせることもできない。
賢者集団が中心となって知恵を集め、皇帝家と上位貴族家の子女は、幼いときから魔法結界を施された練習場で、剣を媒介にして魔法を放出する訓練を積むことになった。
単に魔法を使うよりも、何かを媒介にして開放するほうが、効率が悪い分だけ魔力を多く費やすことができるからだ。
魔力酔いに苦しみ始める予兆が出ると、男女を問わず訓練場に押し込まれる。そこで魔力伝導に優れたミスリルの短刀を持たされ、魔力を注ぐ訓練から始める。
短刀に魔力を込めることができるようになれば、次は剣に注ぎ、保持して魔剣とし、魔力の調整を習う。
次に、魔剣を武器とした戦闘訓練を積む。この時、身体強化の訓練を重ねることでさらに魔力を費やすことを習う。
これは、高すぎる魔力を効率的に体から抜き続けるために編み出された訓練方法だ。もちろん、単純にファイア、ウオーターなどに変換してもいいのだが、生の魔力を変換なしに武器に注ぎ、天与の資質に変換して戦う魔法剣士の訓練を積むことでほかの能力の使い方がわかるようになる。
本当の能力が何であるかを明らかにすることを禁じられている皇族にとって、もっとも有効な訓練方法であり、それをカモフラージュするためにすべての貴族にこれが課された。
ルースカリエ帝国の皇族と上位貴族における「ノブレス・オブリージュ」とは、すべての貴種が文字通り魔法戦士となることであり、それを拒否することは最終的には重篤な魔力酔いで死ぬことに他ならなかった。
ここに戦姫の伝統が生まれる下地が整った。
皇子にも皇女にも、公子にも公女にも、平等に魔力酔いは訪れ、女性の中からも実戦のみならず戦史・戦略に優れた個人が出るようになる。




