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神の試練  作者: しゅむ
第1章:迷宮
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1-14

勝利。大勝利!

 目が眩むような真っ白な世界で秀司は目を開ける。

「ん? ここは……」


 何処か見覚えのある世界。

 神の試練を受けると宣言した場所に似た世界。


 秀司が居る空間は神と話した真っ白な世界に酷似しているが、その時とは状況が決定的に違っている。


 秀司の頼れる相棒である小松の姿がそこにあり、自身の身体も見えている。

「小松!」


 小松は驚いたような表情で周囲を窺いながら右手だけ上げて秀司に答えるが、何かに気が付いて口を開く。


「……あっ」

「シュウジ!」

「ぐっほぉ」


 秀司の背中にタックルのようにしてリディアが抱き着いて来たのだ。秀司の近くに居れば真っ白で不可思議な世界でも何とかなるという信頼感と、黒革鎧たちとの戦いに勝利した興奮の余韻が激しいタックルに繋がった。


 平時なら抜群のプロポーションのリディアに抱き着かれるのはご褒美だが、秀司の身体は弓のように反り返る。


 秀司が踏ん張って体勢を立て直したタイミングで頭に声が響く。

『やぁ、久しぶりだね』


 驚いた秀司たちは周囲を窺うが、声の主が姿を現す事はない。

『いやー、池田秀司には笑わせて貰ったよ。小松陽平も大変な友人を持ったよね。くふふ』


 小松は落ち着きを取り戻して口を開く。

「神が何の用?」

『えぇー、冷たいなぁ。僕、泣いちゃうよ?』


 泣き真似のような『シクシク』といった声が辺りに響くが、小松は全く動じない。

「ねぇ、用が無いならさっきの場所に戻してよ」


 神に対する小松の冷たい態度にリディアが叫ぶ。

「小松! 神様に何てこと言うのよ!!」


 神に対する信仰心が皆無な小松と違って、リディアは神に対する信仰心が篤いようだ。


 聞こえてきた日本語に小松は驚いた表情でリディアに視線を向ける。

「……え? なんで日本語?」

「あれ? 私……小松の言葉がわかる……」


 どこか悪戯心を感じさせるような自信に満ちた声が響く。

『ふふん。魂の言葉は言語の違いなんて簡単に越えるのさ!』


 小松は自分の呟きのような問いをリディアが理解したと認識して、バッとリディアから視線を逸らすが、小松に自分の言葉が通じる事を察したリディアが止まらなかった。


 神への感謝と小松に伝えたかった自分の想いが爆発する。


 リディアは秀司の背中に抱き着いたまま口を開く。

「小松! 私は小松を尊敬するわ!!」

「……え、あ……あぁぁ……ありがと……」


 リディアは秀司から小松を信じるように言われ続けていたが、最後まで信じる事は出来なかった。

 小松と秀司の連携には驚かされたが、それは秀司が凄いのであって、小松はおまけ程度にしか考えていなかった。

 リディアは小松が自分も勝てない全身鎧に1人で勝てるとは思えなかった。


 しかし、小松は秀司の期待に応えて全身鎧を1人で撃破し、自分を助けに来てくれたのだ。

 小松への申し訳ないという気持ちよりも感謝や尊敬の念が上回った。


 秀司は背中に当たるリディアの豊満な胸の感触にグロッキー寸前だ。

 碌な恋愛経験が無いスポーツ馬鹿にリディアの身体は効果抜群で、リディアに話しかけられている小松を助ける事は出来ない。振り返ればリディアの髪から良い匂いが漂ってきて、確実に秀司から冷静な心を狩り取っていく。


 収拾が付かなくなった場に神の声が響く。

「あの……喋って良いかな……」


 グロッキーな秀司。頭の中はお花畑だ。

 リディアに話しかけられてグロッキーな小松。頭の中は真っ暗な洞窟の隅に小松が蹲っているようだが、リディアの声が響いている。

 言葉の壁を越えて興奮気味のリディア。秀司と小松への感謝や信頼などの感情が爆発している。


 神は3人の心の声が聞こえているだけに遠慮がちになってしまったのだ。


 小松は状況を打開できるチャンスに懸ける。

「神! 用があるなら話して! 今すぐ!」

『え……あぁ……ごめん。用は無いんだ……』


 小松は叫ぶように尋ねる。

「なんでここに呼んだんだよぉ!?」

『いやー、君たちは初めて迷宮をクリアしたでしょ? これからは迷宮みたいに甘い試練じゃないぞー的な話をね……』


 小松は脱力して俯いた状態で口を開く。

「じゃあ、次のボスを倒した後も……ここに呼ばれんの?」

『それ良いね!』


 呆れたような表情になった小松は秀司に視線を向けて口を開く。

「……秀司が暴走する前に戻してよ」

『え……ぶふっ! 池田秀司は面白いなぁ……』


 神は声を弾ませる。

『じゃあ、この先も頑張ってね。期待してるよ』


 小松はある事に気が付いて慌てて口を開く。

「あそこから歩いて帰るの面倒なんだけど、抜け道とかないの?」

『ふふっ、そりゃあテンプレを用意してるよ。小松陽平』


 神の楽しそうな声が聞こえた瞬間に真っ白な世界が光り輝いた。


 眩しさで目を閉じた3人が再び目を開けた時、辺りは先ほどのボス部屋に変わっていた。


 小松は冷静に黒革鎧の骸骨が身に着けている革鎧を脱がし始め、それを見たリディアが手伝いに入る。

 秀司は気味の悪い笑みを浮かべて放心状態だ。


 リディアは小松を手伝いながら話しかけるが、先ほどと違って小松との意思疎通は不自由なもので、いつも通り小松はまともに目も合わせない。


 革鎧を脱がし終えた小松は気味の悪い笑みを浮かべる秀司のお尻に蹴りを入れる。

「いつまで呆けてんだよ!」

「げふん」


 お尻を蹴られた秀司は片手を床に着いて、もう片方の手は蹴られたお尻を撫でる。


 そんな秀司の顔の横に黒革鎧を詰めたリュックが投げ落とされる。

「秀司が使う黒革なんだから秀司が持ってよね」

「……おぅ」


 秀司は不満そうな表情だが、頷いてリュックを手に取り立ち上がる。


 そんな秀司にリディアが歩み寄ってくる。

<シュウジ、ありがとね。これからもよろしくね>

「え……ぁ……う……Yes」


 少し前屈みで見上げるような姿勢のリディアは、秀司の落ち着きかけた心を大きく乱す。


 急に挙動不審になった秀司にリディアは小首を傾げる。

<どうしたの?>

「ぐっ……いや……なんでも……No……どんまい」


 リディアは秀司の言葉が理解できないが、離れていく小松が気になって指差す。

<小松が行っちゃうよ?>

「……行こう」


 笑顔で頷くリディアはまたしても秀司の心をかき乱す。


 秀司はぐちゃぐちゃの心を取り戻す為に小松に尋ねる。気を紛らわせるしかないのだ。

「どこ行くんだ?」

「ん? 椅子の後ろを調べるんだよ」

「椅子?」


 小松が黒革鎧の持っていた槍の先端を向けた先は、部屋に入った際に黒革鎧の骸骨が座っていた豪華な椅子だ。


 秀司は小首を傾げて尋ねる。

「後ろになんかあんのか?」

「うん。神がテンプレって言ってたし」


 ボスが座っていた豪華な椅子の後ろがあやしいのは古今東西、あらゆるゲームで使い古された仕掛けだ。


 秀司たちは豪華な椅子の後ろに来たが、周囲には何も見当たらない。


 しかし、小松は持っている槍の石突でコンコン床を叩く。

「まぁ、下だよね」


 豪華な椅子の後ろの周辺だけは他の石畳と違って簡単に凹んだ。


 小松はニヤリと笑って槍を高く掲げる。

「そーれ!」


 槍の石突は勢いよく石畳にぶつかり、盛大に穴を開ける。そして、その穴は周囲の石畳を連鎖的に破壊して巨大な穴を作り上げる。


 当然、小松は床を叩いてすぐに落下。

「何がテンプレだよぉぉおお!!」


 近くに居た秀司とリディアも小松が破壊した穴が広がって、後を追うように穴の中に落ちていくが、穴の先はすぐに傾斜が付いた滑り台で、自由落下で死ぬような心配はない。


 しかし、巨大なトンネル状になっている高速の滑り台は止まる事も不可能で、秀司の叫び声が虚しく響く。

「金属鎧の素材があぁぁぁああ!!」

「キャァァァア!」


 秀司の叫びを聞いて先頭の小松も叫び声をあげる。

「そうだ! 素材! ぅわぁぁあ! 神の馬鹿野郎ぉぉおお!!」


 体感で数分間、滑り台を滑り続けた先から光りが漏れ始める。

 やがて大きくなった光の先は空中だが、高さはそれ程でもなく、小松は草の生い茂る地面に向かって投げ出された。


 小松は2本の槍を持っている影響で碌な受け身も取れずに、草が生い茂る柔らかい地面に全身を打ち付けるようにして着地した。


 後から来た秀司は空中で体勢を整えて、見事な着地を決める。

「へへん」


 ドヤ顔の秀司が小松を見つめれば、小松は倒れながらも秀司の後ろを顎で示す。

「キャァァァア!!」

「おぉ!」


 小松と指示と悲鳴を聞いて慌てて振り返った秀司は、空中に投げ出されたリディアに向かって両手を広げる。


 リディアは秀司が受け止めてくれると瞬時に判断。最早この男の反射神経を微塵も疑っていない。

 その結果、リディアは秀司に抱き着くような形でしがみ付いた。


 しかし、抱き着いた場所が悪かった。


 リディアの豊かな双丘の片方に顔面を打ち付け、そのまま滑るように秀司の顔面が谷間を降って挟まれる。

「お゛っ……ばぃ」


 呻くような声を漏らした秀司はリディアを支え切れずに後ろに倒れ、リディアもそのまま秀司の上に覆い被さる。


 リディアは両手を草地に着いて身体を起こす。

<シュウジ、ごめんね>


 しかし、秀司は惚けたような表情で仰向けに倒れたままだ。その表情はどこか嬉しそうでもある。


 小松は溜息を吐き出してから周辺の様子を窺う。


 倒れたままの秀司を心配してリディアが声を掛ける。

<シュウジ? 大丈夫?>

「……OK。あれが……幸せパンチ……」

<え? パンチ? 何言ってるの?>


 小松は大きく巨大な岩にポッカリ空いた穴を見つめている。穴の先を登っていけば迷宮に戻れるだろうが、ツルツルだった滑り台を登れるとは思えない。

 そもそも神が許さないだろう。


 小松は巨大な岩をグルっと回る為に歩き始めるが、森のように樹々が立ち並ぶ場所で単独行動は危険だと思い至る。


 小松は振り返って気味の悪い笑みを浮かべて倒れている秀司に告げる。

「秀司! 行くよ!」

「ぐへへ」

<コマツ! シュウジが変! 頭を強く打ったのかも!?>


 小松は叫ぶように告げる。

「リディアが心配してるよ!」

「……はっ!!」


 ガバっと起き上がった秀司は心配そうに見つめてくるリディアに視線を合わせる。

<ごめん。もう大丈夫>

<本当?>


 しかし、本気で秀司の身を案じていたリディアの目は潤んでいる。

「ぇ……あ……ぅん……Yes」


 小松は再び落ち着きを失った秀司に告げる。

「ほら、行くよ! こんな森の中で僕を単独行動させるつもり!?」


 秀司は両頬をバシバシ叩いて気合を入れる。

「よっしゃ! どこ行くんだ!?」

「とりあえずこの岩の裏を見に行く」


 3人が岩の裏に回り込むとちょうど岩の反対側がすりガラスのように歪んでいた。


 小松は少しだけ岩の歪んだ部分を見つめてから口を開く。

「秀司、ゴー」

「え、あ……あぁ」


 秀司は恐る恐る岩のすりガラスのように歪んでいる部分に左手を突っ込む。確かな確信は無いが、噴水広場に戻れるような気がしている。


 秀司は引っこ抜いた左手の無事を確認してから顔を突っ込む。

「おぉ! 噴水広場だ!」


 秀司は振り返って告げる。

「噴水広場だ! 帰れるぞ!」


 小松は予想通りだという表情で小さく頷き、リディアは秀司から英語での言い直しの後に安堵の息を吐いた。


 小松は秀司の肩を軽く叩いて口を開く。

「とりあえず帰ろ」

「そうだな。飯にしようぜ」

「その前に黒革鎧で秀司の防具を発注しようよ」


 秀司はリュックの重さを確かめるよう上下に身体を動かす。

「おぉ! それ良いなぁ!」

「今日は3日目だし、明日には出来るでしょ」

「よし! 帰ろうぜ!」


 小松にはもう1つの思惑があった。

 黒革鎧が使っていた質の良い槍を自分好みにカスタマイズする事だ。


 ニヤニヤした笑顔を浮かべる男子2人を見るリディアの表情も明るい。

 2人とは年齢が近い事もあって親近感を覚えている。そんな2人は戦闘面では非常に頼りになり、こんな恵まれた相手と仲間になれた幸運を神に感謝している。


 神の試練はまだまだ続くが、厳しい試練にもこの2人となら乗り越えられると信じられる。


 秀司は振り返ってリディアに告げる。

<おーい、帰ろー>

<うん! 私、お腹空いちゃった!>

<俺も俺も>


 次に待ち受ける試練に挑む準備と英気を養う為に笑顔の3人は拠点に帰還する。


 秀司たちが準備を終えた時。

 厳しい試練が秀司たちを待ち受ける。


幸せパンチは1発10万です。物理が伴えば少々の値上がりはあるかもしれません。


ここで第1章は終わりです。

次回から第2章に入りますが、次回の更新日は未定です。


書きたい話があるので、そっちを書きます。



何でも無い事を含めて、追記や修正をツイッターでお知らせしております。

https://twitter.com/shum3469


次回もよろしくお願い致します。




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