真っ白な未来に
桜の舞う春、僕は大学の入学式に来ていた。
父が死んだ後、僕自身のやりたいことを考えた時、僕は人を救う人間になりたい、そう思った。漠然とした目標と初めて向き合った僕自身のやりたいこと。僕の唯一の友人翠にふと聞いてみた。人を救うって何だろうと。
「お前の口から他人のことを考える言葉が出るとは思わなかった。でも、他者に踏み込み過ぎないお前だからできることもあるんじゃないか。俺の思う人を救うことと、碧が思う人を救うって違うと思うんだ。」
若干初めて名前を呼ばれたことに恥ずかしさを感じながら答えだけを教えるのではなく、一緒に考えようとしてくれる友人にありがたみを感じた。
そして僕は今、医学部心理学科のある大学の門を叩く。どんな人にも悩みや不安がある、そう思った僕は悩みや不安を分かち合い、解決に導ける存在を目指そうと思った。あまり僕には馴染みがなかったのだが、ふとみていた学校の掲示板に心理カウンセラーの来校日が書かれた張り紙を見つけた。その時はっとしたのだ。まずは、形からやってみよう。そう思ってからは早かった。
医学部や心理学部のある大学を探したり、翠や兄弟である歩橙に相談したり毎日が目まぐるしく、充実していた。唯一、勉強だけは頑張っていたのが功をなし、第一志望の大学に推薦枠で入学することができた。
初めは、翠や歩橙、担任までもが驚きはしたが、僕が人間らしく目標に向かっていく姿が応援したくなると言ってもらえるまでになった。心理カウンセラーだけでなく、精神科医という視点をくれた担任には感謝しかない。
入学式を終え、校門をくぐると変わった二人が待っていた。
「『碧、遅いぞ』」
歩橙と、真白だ。
真白、こいつは僕の家の居候だ。僕と歩橙にだけ見える不思議な存在。僕が、父に名前に意味を聞いた日に真白にも名前を聞いてみた。ずっと一緒に過ごしていたのに名前すら知らなかったのかと歩橙には笑われたが、いつの間にいたのだから仕方がない。
『名前なぞない、ただここにいるだけだ』
と言われてしまったので、僕が名前をつけてみた。どの色にも染まれて、どの色にも干渉できる、いろんな色が集まってできる光のような真っ白さ。そこに、確かにあるのに誰もが気づけない。でもとても大切なものであり、大切なものになると意味を込めた。当の本人は、『生まれて初めて名前をもらった』と嬉しいような驚いたような顔をしていた。
『碧、一緒に帰るぞ』
ちょんと、僕のスーツを掴む。名前をつけたあの日から真白は僕の家に本格的に住み着いた。何をするにも一緒。風呂も寝るのも。こいつから人の温もり、暖かさを知った。そんなことを本人に言ったらドヤ顔されるから黙っておくが。
いつもは服の端なんて掴まないのに、外に出ないのに今日は歩橙と一緒になぜ大学まで来たのかさっぱりわからないがそっと真白の手を握り、「あぁ」と微笑み返す。
「真白、碧が遠くにいっちゃうと思って俺に連絡してきたんだ」
歩橙がニヤッと笑いながら僕を見る。僕に顔がそっくりな歩橙は僕にはない表情をする。真白の顔は真っ赤に染まっている。
「一緒に帰るか、みんなで」
歩橙と僕で、真白の手を握りながら、これから通う大学を後にした。
これからの未来どうなるか、誰にも見当がつかない。ただ希望がほんの少し見えただけ。それでもまっさらなキャンバスを描いていくのは僕自身なのだ。
海のように碧い空だけがどこまでも続いていく。




