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どうやら僕の心臓は賢者の石らしい  作者: (や)
ルーフェン伯爵編
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傀儡

魔法の説明がちょっとくどいです。

 四人を眠りの粉魔法(スリープ・パウダー)で眠らせるのとほぼ同時にアルベルト達は部屋に入って来た。

 その際に"瑠璃"も一緒に部屋に戻ってきていたのだが、それは誰にも気付かれはしなかった。"瑠璃"はそのまま天井付近でソフィア達の行動を監視していた。


「申し訳ありません、どうやら一足遅かったようで。…我らの加勢は必要なかったようですね」


 部屋に入ってきたアルベルトは、床に倒れている四人を一瞥すると、ソフィアの前に(ひざまず)いた。


「アルベルト、謝る必要はありません。お前たちの力は今から必要なのです。まずは彼女達を拘束しておきなさい」


 ソフィアは、能力の向上の奇跡(ブースト)を使った反動で少し疲れた様子だった。アルベルト達にエミリー達の拘束を命じると、彼女は床に座り込んで休息をとった。


 アルベルト達は眠っているエミリー達を起こさない用にロープで縛り上げ拘束していった。


 しばらく休んで能力の向上の奇跡(ブースト)の反動による疲労が治ると、ソフィアは指先をナイフで裂き床に血で魔法陣を書き始めた。

 描かれた"不死の蛇"の神聖文字による魔法陣は、直径三メートルほどの禍々しいものであった。傷を回復の奇跡で治すと、ソフィアは"無限のバッグ"から魔力回復薬(マナポーション)をとり出し飲み干した。今から彼女が唱えようとする魔法には多大な魔力(マナ)を必要とするのだ。


「ソフィア様、その魔法陣は何のために?」


 アルベルト達はソフィアが描いた魔法陣の内容が判らず、彼女に尋ねる。彼等は戦士としての技量は高いが、"不死の蛇"の神官としての能力はソフィアに遠く及ばない。精々(せいぜい)倒した獲物の魂を"不死の蛇"に捧げる魔法陣を描ける程度である。


「この魔法陣で、彼女達に傀儡の魔法(マリオネッター)をかけて操るのです」


「なるほど。しかしそんな大層な事をせずとも、人質として我らが監視するだけで良いのではありませんか?」


「あの冒険者…サハシの力は尋常ではないのです。アルベルト、お前たちがサハシと正面切って戦えば10秒と経たずに全員叩き伏せられるでしょう。例え彼女達を人質に取ったとしてもその時間が伸びるだけと私は思っているのです」


「…いくらソフィア様の言うこととはいえ、信じられませぬな」


 アルベルトとその配下の神官戦士達はソフィアの言うことを信じられない、自分達を力を見くびるなと憤った顔であったが、彼女はケイの実力を知らない彼等を生暖かい目で見つめていた。


 アルベルト達も30階層を探索している。つまり上級クラスの冒険者と同等の力を持っているのだ。しかしそんな彼等でもソフィアが見た(・・)ケイの実力には遠く及ばない。太刀打ちどころか相手にすらならないと彼女は感じていた。


「彼女達を傀儡(マリオネット)にしてしまえば、戻ってきたサハシは彼女達が人質にされているとはしばらく気付かないでしょう。黒鋼鎧巨人(アイアン・ゴーレム)を倒すまで、サハシには全力を尽くしてもらう必要があります。さあアルベルト、早く魔法陣の上に彼女達を運びなさい」


 ソフィアはアルベルト達に命じてエミリー達を魔法陣の上に運ばせると、"不死の蛇"の暗黒魔法、傀儡の魔法(マリオネッター)を唱え始めた。


 暗黒魔法とは神聖魔法の邪神版であり、邪神の力を借りて奇跡を起こすものである。神聖魔法が神の力を借りるのと違いは無いのだが、邪神の力を借りるため神聖魔法には無い邪悪な奇跡が多い。もちろん神聖魔法と同じ回復の奇跡といった魔法も暗黒魔法にはあり、ソフィアが"天陽神"の神官として使っていたのは神聖魔法ではなく暗黒魔法の回復の奇跡であった。


 傀儡の魔法(マリオネッター)もその暗黒魔法の一つで、"不死の蛇"の高位神官でなければ使えない魔法である。

 傀儡の魔法(マリオネッター)は、魔法の対象を術者の意のままに操る魔法である。通常魔法に有る魅了の魔法(チャーム)も術にかかった対象を操る事ができるが、傀儡の魔法(マリオネッター)は対象を自殺させるといった魅了の魔法(チャーム)では不可能な行動までさせることができる。そして傀儡の魔法(マリオネッター)呪い(カース)の一種であり、解除するには神聖魔法の解呪の奇跡(リムーブカース)を使用するしか方法はない。


 ソフィアが、何故"天陽神"の教会関係者、神官長にこの魔法をかけなかったかというと、傀儡となった者を操るには、魔法をかけた術者が身近にいなければならないといった制約が有るためである。


 傀儡の魔法(マリオネッター)は、本来操る対象は一人である。しかしソフィアは魔法の効果を拡大し四人同時に操ろうとしている。四人を操る事にソフィアは意識を集中する必要があり、咄嗟の行動が出来ないといった問題が発生する。それをフォローするためにアーノルド達は呼ばれたのだった。



 30分に及ぶ呪文の詠唱が終わると、禍々しい魔力(マナ)が魔法陣に満ちてゆく。そして魔法陣が黒く()くと、エミリー達の首筋に黒く禍々しい印が現れた。この印が、傀儡の魔法(マリオネッター)にかかった証である。


「これで、彼女達は私の言うなりに動いてくれるでしょう。彼女達の拘束を解きなさい」


 魔力(マナ)を使いすぎたのか、ソフィアはガックリと膝を付く。慌ててアルベルトが魔力回復薬(マナポーション)を取り出してソフィアに飲ませた。


 魔力(マナ)を回復したソフィアは、アルベルトの手を借りて立ち上がり


「さあ、(不死の蛇)の降臨の準備を始めましよう」


 と呟くと、ケイ達に見せたことのない邪悪な笑みを浮かべた。





 32階層から31階層へと続く階段を登っている途中で違和感を感じる。


(31階層に入ったな。これで"瑠璃"と通信できるはず)


 階段を登りながら"瑠璃"に話しかけようとしたが、逆に"瑠璃"の方から僕にメッセージが届いた。どうやら僕と連絡が付くようになるのをずっと待っていたようだった。


『慶、無事だったのですね。今何処にいるのですか? こちらは大変な事になっているのです』


 "瑠璃"はいつもの落ち着いた感じではなく、興奮しているのかまくし立てるように話してくる。


『今31階層に戻る階段を上がっている所だけど…何が起きているんだ?』


 "瑠璃"の興奮した通信に驚きながら、彼女が見たソフィアとエミリー達の状況を教えてもらった。


 僕が転送陣の(トラップ)に引っかかった後、エミリー達は部屋で僕が戻るのを待っている事に決めたので、"瑠璃"は部屋の外で魔獣が来ないか見張っていた。しばらく見張っていると、ソフィアが呼びつけた神官戦士達がやって来たので、部屋に戻るとエミリー達が倒れていた。

 エミリー達を倒した(眠らせた)のは、ソフィアで、彼女が魔法(・・)でエミリー達を眠らせたらしい。その後彼女はソフィア達を傀儡の魔法(マリオネッター)という人を傀儡にする魔法をかけてしまった。


 "瑠璃"はエミリー達の現状を僕に報告してくれた。


(傀儡魔法とか、ゲームとかじゃ悪役が使う定番中の魔法だけど、この世界でもそんな魔法があったのか…)


 僕は魔法に関してはリリーとエミリーから聞いた範囲の魔法の知識しか持っていない。マリオンもあまり魔法に詳しくなく、"瑠璃"も僕といっしょでこちらの魔法について知っていない。この世界にはまだ知らない魔法が多数存在するのだ。


『しかし、ソフィアは何故今そんな事をしたんだ。"天陽神"の神官が僕達を襲う理由は無いだろう?』


『実は、ソフィアは"不死の蛇"の神官だったのです』


『そう…なのか。ソフィアが"不死の蛇"の神官だったのか』


 僕は元々ソフィアは何か怪しいと疑っていた。しかしそれは"天陽神"の教会としてであり、邪神の信者を操って"天陽神"の教会の権威を上げる事ではないかと思っていた。

 そしてソフィアが僕達に何か仕掛けてくるのは黒鋼鎧巨人(アイアン・ゴーレム)を倒した後だと考えていた。しかし僕が(トラップ)に引っかかったタイミングでエミリー達を襲って魔法で傀儡にして操ってしまったことや"不死の蛇"の神官であったのは、予想外のことであった。


『"瑠璃"、部屋の中の状況はどうだ、僕が突入して戦えばエミリー達を助け出せそうだろうか?』


『先程も言ったように、エミリー達はソフィアの魔法で操られています。もし慶がソフィアに戦いを挑んだとすると、おそらく慶の邪魔をしてくるでしょう。それに部屋には五人の神官戦士もいます』


 四人が単純に人質になっているとかであれば、不意を突いてソフィア達を倒してしまうことなら出来るかもしれない。しかしエミリー達がソフィアに操られている状態だと、エミリー達が僕に向かってきたり、ソフィアや神官戦士の盾となるような行動を取るだろう。さすがにそんな状況では僕も彼女達を全員無事に助けだすのは難しいだろう。


『向かって来たエミリー達は気絶させて、ソフィア達を倒せば…』


『…慶、ソフィアは、エミリー達に自分を護るように操るでしょう。おそらくこの状況ではエミリー達は命を投げ出してでもソフィアを護ると思います。何の策も無しに全員を助けだすのは難しいと思います』


『…やっぱり無理かな。ソフィアもエミリー達を単に人質にするだけじゃなくて傀儡にしてしまうとか、どれだけ僕を警戒しているんだろう…』


 実は、ソフィアがそこまで念入りに策を弄したのは、ケイが力を見せ過ぎた為である。ソフィアはケイの実力を必要以上…いやある意味正しく理解していたのだ。


『慶が31階層に戻って来たことはソフィア達には気づかれていないと思うのです。どうでしょう、しばらく隠れて隙を伺うというのは?』


 マリオンは僕に隠れて機会を伺ってはどうかと提案する。


(隙を見てか…ソフィア達が部屋から出てくれれば良いけど…きっと僕を待っているだろうな)


 まだ(トラップ)にかかってからそんなに時間が経ってはいない、僕はしばらく様子を伺うことにした。





 それから三十分ほど僕は階段で"瑠璃"やマリオンと部屋の映像を見ながらエミリー達を助け出す案を話し合っていた。気分は立て篭もり犯に突入する特殊部隊の気分だが、部屋の中でじっと僕を待つソフィア達を攻略する方法は思いつかなかった。


『あの部屋でソフィア達が待っている状況じゃ手がでないな。こうなったら一旦部屋に戻って探索を続けるフリをして隙を伺うしか無いか…』


『…』


 "瑠璃"もマリオンも不安そうな顔をしている。僕も本当にそんな機会が訪れるか判らないが、このままでは拉致があかないと感じていた。


『ソフィアは黒鋼鎧巨人(アイアン・ゴーレム)を倒す必要がある。つまり黒鋼鎧巨人(アイアン・ゴーレム)を倒すまでは、僕やエミリー達に手を出すことは無いだろう。そこまでに何とか助けだす方法を見つけるよ』


『そうですね、今はそうするしか無いかも知れません』


 エミリー達を確実に助け出す方法を思いつかなかった僕は、ソフィアが待つ部屋に向かうのだった。





「心配させて済まなかった。なんとか戻ってきたよ」


 とりあえず、僕は何も知ら無いフリをして部屋に入っていった。一応いきなり全員に襲われることを想定し、その時はソフィアを真っ先に倒すべく手には投げナイフを隠し持っていた。


「ケイ、戻ってきたのですね」


「良かった、無事で~」


「戻ってくるのを信じてました」


 しかし、エミリー達は僕を襲うわけでもなく、ホッとしたような笑顔で僕に駆け寄ってきた。


(本当にエミリー達は魔法にかかっているのか?)


 近づいてくるエミリー達は、傀儡になっているとは思えな程いつも通りの彼女達に見えた。"瑠璃"の報告がなければ僕は全く違和感を感じなかっただろう。しかし傀儡になっている事を知っている僕には、その行動の端々に少しずつ違和感を感じてしまう。何時もならこういう時にミシェルはもっとベタベタして小言をくるだろうし、エミリーはもっと嬉しそうにしているだろう。リリーは(トラップ)に引っかかったことについて注意促すだろうし、エステルは少し馬鹿にしてくるだろう。そう言ったところが今の彼女達に無かったのだ。


「サハシ様、あまり心配させないで下さい。貴方が(トラップ)で転送された時は、もう終わりかと思いました」


 ソフィアも普通に僕に話しかけてくる。どうやらソフィアはエミリー達を傀儡として人質に取っていることを黒鋼鎧巨人(アイアン・ゴーレム)を倒すまで隠しておくつもりらしい。

 ここで何時ものソフィアなら僕に近づいてくるのだが、今彼女の回りには僕から彼女を護るかのようにアーノルド達神官戦士が取り囲んでいた。


「この方達は?」


「サハシ様がいなくなり、私達だけでは不安だったのです。神官長にお願いして護衛として来ていただいた神官戦士の方々です」


「なるほど。(トラップ)にかかった僕の代わりに護衛をしてくださったのですか」


「サハシ様ですね。初めましてアーノルドと申します」


 金属鎧に身を包んだ神官戦士は、笑顔で僕に挨拶してきた。ソフィアの回りにいる残りの4人の神官戦士も次々と僕に挨拶をしてくる。

 アーノルドは三十代の筋肉モリモリのマッチョな体型の神官戦士で、上半身裸でグレートソードを振り回している方が似合っているんじゃないかという感じの神官戦士であった。他の四人は二十代半ばの金髪の細マッチョなイケメンで、ホストクラブでも働けそうな美男子揃いだった。


(○ーミネータ…○マンドー…いや○ナン・ザ・グレートに率いられたホスト軍団だな。一見しただけじゃ"不死の蛇"の信者とは思えないよな~)


 そんな事を思いながら、僕はアーノルド達と挨拶をしていく。その間も神官戦士たちは隙を見せず、エミリー達も必要以上に僕にまとわりついてきて、ソフィアとの間に入りこんで彼女との距離を詰めさせないようにしてくるのだった。


(やはり、このままじゃソフィアを倒せない)


 この状態で投げナイフで彼女を倒すことは出来るかもしれないが、その時は神官戦士がエミリー達を殺してしまうかもしれない。大太刀で一気に切り倒すとしても、エミリー達がさり気なく障害になりそうな位置取りをしてくるのだ。


 そんな状態で僕が隙を伺っているのを知ってか知らずか、ソフィアは


「サハシ様、戻られたばかりで申し訳ないのですが、お疲れでなければ31階層の探索、いえ目的の場所に急ぎたいのですが…」


 と言ってきた。


(体力的には問題は無いけど、どうするかな。この部屋でしばらく休んで隙を伺う…いや、この状況じゃ無理だな。一旦部屋を出て状況を変えるしか無いか…)


「僕の方は問題ありません。…ソフィアさん、アーノルドさん達も付いてこられるのですか?」


「ええ、万が一(・・・)の事が起きても大丈夫なように、彼等(アーノルド達)にも付いてきてもらおうと思っているのですが」


「ケイ、アーノルドさん達も入れば戦いも楽になるよ~」


「そうだね、あたいもそう思うよ」


 さり気なくアーノルド達とはここで別れ無いのかとソフィアに聞いたが、そんな事をするはずもなかった。そしてエステルやミシェルも(言わせているのはソフィアだろうが)それに賛同してくる。


「依頼主は貴方ですので…ソフィアさんが良いと言われるのなら…」


 そんな状況で彼等を遠ざけることは、僕が今の状況に気付いていることをバラすようなものである。仕方なく、アーノルド達と共に僕は部屋を出た。


 部屋を出て探索のために歩き始めるが、パーティの配置は元々依頼主のソフィアを護る形であり、それにアーノルド達が加わった形となる。そのためますますソフィアに近寄るのは難しくなってしまった。


(なんとかして黒鋼鎧巨人(アイアン・ゴーレム)を倒すまでにエミリー達を助ける機会を見つけないと…)


 僕はその機会が訪れることを祈りながら歩き出した。


すいません、体調不良とリアルの事情により、来週は更新をお休みするかもしれませんm(_ _)m


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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