証人の確保
02/16 協会->教会
宿に戻るとエミリー達はすでに起きており、僕を待っていた。
「ただいまー」
「おかえりー。」「おかえりなさいです。」「おかえりなさい。」
朝帰りした僕を三人がジーっと見つめてくる。どうやら昨晩の出来事を話して欲しいらしい。
「話は朝ごはんを食べながらにしたいんだけど?」
さすがに宿の食堂で出来る話ではないので、宿の主人にお願いして、女性陣の部屋に朝食を持ち込んで食べながら昨晩の出来事をエミリー達に話した。
「おそらく僕が入手した資料でアーネストの兄、ルーフェン伯爵家の長男は動いてくれると思う。」
「そうですか。後はイザベルさんの無実を証明をするだけですね。」
「エミリーは見つけたタウゼンのアリバイを証明できる人を確保しておいて欲しいのだけど、できるかな?」
「はい、その人は大地の女神の教会にお願いして保護してもらおうかと思っています。」
「エステルとリリーはそっちを手伝ってもらえるかな?」
「理解った。」「はい」
「僕は、一眠りした後ギルドでアーネストに資料を渡しに行くよ。」
朝食後、エミリー達は教会に向かい、僕は部屋に戻って仮眠をとった。
《音響、赤外線、動態センサーに反応があります。人間が部屋に侵入してきます。》
「?」
二時間ほど寝たところで僕は警告により起こされてしまった。侵入者に一瞬身構えたが部屋に入ってきたのはミシェルだった。
「鍵はかけておいたはずだが...」
「盗賊相手にあんな鍵無いも同然だよ。」
「そうか、今後気を付けるよ。」
「あんたの持っている資料は大事な物だからね。用心しなよ。」
「ああ、まあいざとなればまた作るさ。それより眠りたいからできれば出て行って欲しいんだが?」
「...話が終わったら出て行くよ。ドヌエル男爵の屋敷の資料関係の線から見つかった裏切り者は全て処分しておいたよ。」
「いや、そちらの話だし、それだけ?」
「このことはケイのお陰だからお礼に来たのと、後あんた達の周りにうちの連中を何人か貼り付けるんでそのことを言いに来た。」
「...それは助かるよ。僕達の周りをうろついている男爵の犬は結構多いのか?」
「そんなに多くはない。念のためさ。」
「うん、了解したよ。あとボクはお昼まで寝るんで話はまた後でね。」
そう言って僕はベットに転がったがミシェルは部屋から出て行かなかった。
「...寝るんだけど?」
「気にしないで良いよ、ここであんたを見張っているだけだから。」
「気になるって!」
「さっきも言ったように何人か貼り付けるって言っただろ?あんたは特に重要だから"アルシュヌの鷲"でも一番の腕利きのあたいが付くことにしたのさ。」
「...できれば部屋の外で。」
「ここで見張るのが一番だろ?」
どうやらミシェルはこの部屋から出て行く気はないみたいだ。ものすごく居心地が悪いのだが睡魔には勝てず、僕は再び眠りについた。
《指定の時間になりました。覚醒プロセスを開始....終了。》
短時間で必要な睡眠をとり寝ぼけること無くすみやかに目覚めるというのは、宇宙飛行士にとって必要な機能ということで、僕の体には電磁気で睡眠の誘導、覚醒を行うシステムが搭載されている。アラームと連動することで目的の時間に正確に目覚めることも可能だ。
「ちょっと!」
目覚めて目を開けると何故かミシェルの顔が目の前にあった。
「チッ!いきなり眠ったと思ったら起きるのも早いね。本当にあんたは変わった奴だね。」
「...今何かしようとしてなかったか?」
「別に。ちょっとかわいい寝顔だったんで見てただけさ。」
顔を見ているだけであんなに顔を近づける必要があるのか僕には疑問だったが、深く追求するとまずそうな気がする。僕は起きると外部装甲を身につけ身支度する。
「あんた寝てる時も変わったものを着て寝てるんだね。どうやって脱ぐのさ?」
「秘密!僕の力については誰にも言ってほしくないんだけど?」
もしかして寝ている間に触られたんだろうか、ミシェルは僕の体を探るように見てくる。
「誰にも言ってないよ。第一あんなことできる人間がいるって言っても誰も信じちゃくれないさ。」
まあそうだろう。この世界の人間はマナを使って体を活性化させてものすごい力を出せるらしいが、さすがにジャンプで空を飛んだり、見た書類をそのまま偽造するなんて事はできない。言っても夢でも見ていたんじゃないかと言われるだけだろう。
「僕は今から冒険者ギルドに行くけど、ミシェルはどうするの?」
「あたいはアジトに戻って寝るよ。あんたには別のやつがこっそり張り付くからね。もしあたいに連絡を付けたかったらこれを手に持ってくれ。」
ミシェルは小さな手に巻くバンドのようなものを僕に渡す。僕はそれを左手にまいておくことにした。
◇
冒険者ギルドはごった返してた。大暴走の影響はだいぶ薄れてきたが、それでもあちこちで未だ魔獣が暴れており、退治系の依頼が大量に出ているためである。本当なら僕達も依頼をこなしたいところであるが、イザベルとギーゼン商会の件が終わるまではお預けだ。
最初に情報屋に向かい頼んでいた情報を受け取る。
「これがゴディア商会の詳細と街にある店の見取り図だ。お前さん冒険者を辞めて盗賊にでもなる気なのか?」
「いえ、別に盗賊なんかにはなりませんよ。ちょっと調べ事です。」
「事情はわかるが、冒険者が盗みを働いた場合の罰則は重いからな。」
ゴディア商会はドヌエル男爵と懇意にしている商会で、ギーゼン商会の代わりに大水晶陸亀を取り扱う予定の商会である。今晩はここに忍び込んでドヌエル男爵の不正の証拠を集める予定だ。
「ご忠告ありがとう。」
忠告をくれた情報屋の男にお礼を言って、僕はギルドの裏の騎獣の厩舎に向かった。
騎獣の厩舎には既にアーネストが来ており、シフォンをマッサージしていた。
「ほんとアーネストはシフォンが大好きなんだな。」
「ケイか、シフォンをマッサージしていたから気づかなかったよ。」
騎獣の厩舎には今日はシフォン以外の騎獣がおらず、ギルドの中というのに妙に人気が無かった。
(ギルドマスターのお陰かな?)
「これが昨日集めた資料だ。」
僕はそう言ってドヌエル男爵の屋敷で手に入れた資料(偽造)と城の資料室の資料を整理したものをアーネストに見せた。アーネストは資料をパラパラと見てその内容に驚いている。
「ぬ、これほどのものをたった一日で集めたのか...冒険者にしておくのは惜しい。ケイ、城で、兄上のもとで働かないか?」
「僕は冒険者が気にいってるんでね、遠慮しておくよ。それで、君の兄上は動いてくれそうかい?」
「この資料を見せれば動いてくれるだろう。」
「アーネストの兄上が動いてくれないと作戦は失敗だからな。その辺りは根回ししとておいて欲しいが、未だ男爵に気づかれたくないからそこは気を付けてほしいな。後もうちょっと集めたい証拠があるからそれとまとめて明日この資料を渡そう。」
「明後日の午前中にイザベルさんの裁判は始まる。あちこちへ手を回すことを考えると、明日の朝早くに証拠の資料をもらえないかな。」
「理解った。」
アーネストはシフォンの世話をするからと言って厩舎に残ったので、僕は冒険者ギルドを後にした。
◇
次に僕が向かったのは大地の女神の教会である。そこにエミリーがタウンゼンのアリバイを証言してくれる人を連れてきてくれているはずだ。
教会では相変わらず神聖魔法による回復のボランティアが行われており、エミリーも神官や神父と一緒に働いているのが見えた。
「ケイもこっちに来たんだ?」
声をかけられ振り返るとエステルとリリーがマリリン・モンローに似た金髪のナイスボティの美人と並んで立っていた。どうやら彼女が証人らしい。
「こちらはレオノーラさんです。タウンゼンとあの日の前日から一緒にお店にいたそうです。」
どうやらリリーが前に話していたパフパフ以上の事をしてくれるお店で働いている女性、つまり娼婦らしい。
「あの、私は何をすれば良いのでしょうか?」
「事情は話してないの?」
レオノーラはなぜ教会に連れて来られたか理解っていないみたいだ。
「まだ事情は話していないの。ケイが話してくれないかな?」
エステルが僕に彼女への説明をお願いしてくる。どうやらエステル達は何も説明せずに彼女をここに連れてきたのだろう。エミリーはシスターだし、神殿に来てほしいと言われ付いて来たのだろうが、結構不用心と思われる。緊張のためかレオノーラは顔色が悪い。
《人間(女):スキャン開始.....終了。肝機能の障害と性病の感染が検出されました。》
どうやら緊張のためじゃなくてレオノーラは体の具合が悪いようだ。
「それは良いのだけど、レオノーラさんはもしかして体調が悪くありませんか?」
「ええ、最近ちょっと体の調子が悪くて、二日ほど前から店を休んでいます。教会なら治療してもらえるかなって彼女達に付いて来たのですが...」
「それは、おそらく治せると思います。後でエミリー、あそこにいるシスターにお願いしておきます。」
「はぁ、良かった。私みたいな商売の女は体を壊したら後は野垂れ死ぬしか無いんですよ。助かります。」
僕の言葉に彼女の顔色が少し良くなった。
「それで、僕達がここに貴方を連れてきた理由ですが....貴方にタウンゼンのアリバイを証明して欲しいのです。」
「タウンゼン?」
「六日前に貴方と一緒に夜をを過ごした冒険者です。」
「ああ、あの金払いの悪い奴のことですね。うちの店じゃ初顔だったんですけど、貴族お抱えだとかで偉そうにしていて、そのくせ金を払う段階で色々難癖をつけてきたんで、うちの店じゃもう出入り禁止にしたはずです。彼奴が何かしたんでしょうか?」
「タウンゼンが六日前にあなたと一緒にいた事をとある裁判で証言してくれれば良いのです。」
裁判と聞いてレオノーラはビクリとして体を固くする。娼婦は違法ではないが、裁判と聞いて良い印象をいだかなかったのだろう。
「貴方にご迷惑をお掛けするつもりは無いのです。証言してくれればお礼も支払いますので...」
お礼の金額(金貨五枚)とエステルとリリーの説得でレオノーラは証言を了解してくれた。あと、教会には体を治すためにしばらくかかるということで滞在してもらうことにした。実際、エミリーに全回復の奇跡をかけてもらえば肝機能障害は治るのだが、病気の方は何日か病気回復の奇跡をかけ続けないと完治できないらしい。
神官長のリオネルさんに彼女を泊めてもらう事をお願いすると快く引き受けてくれた。
「エミリーさんのお陰で教会の評判も良くなってきています。これぐらいお安い御用です。」
教会は常に何人もの神父やシスターがいるし、"アルシュヌの鷲"のメンバーも見張ってくれているから問題ないだろう。
レオノーラの件がまとまったので、僕は教会を離れゴディア商会の店を見に行くことにした。今夜忍び込んで資料を集めなければならない場所の下見をしておくことに越したことはない。
教会を出ようとすると、エミリーが僕と一緒に街に出たいというので久しぶりに二人で街を歩くことにした。ゴディア商会の店を見に行くにもアベックで見に行ったほうが怪しまれないかもしれないし、久しぶりにエミリーと二人で歩いてもみたかったからだ。
二人で教会を出ようとすると、教会の前に豪華な馬車が止まった。中からは何所かのお金持ちらしいお嬢様というか少女が執事の男と一緒に降りてきた。執事の男は執事服をまとってはいるが漂わせている雰囲気はどちらかと言えば護衛のような感じをさせており、隙のない動きをしている。
「すいません、教会の方にお話をしたいのですが、どなたか呼んで来てもらえませんでしょうか。」
十歳ぐらいの少女がエミリーを教会の関係者だと思ったのか声をかけてきた。
「ええ、よろしいですよ。どのようなご用件で?」
「大地の女神様の教会に寄付をさせていただきたいのです。」
「それは大変嬉しいのですが...すいませんが、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「これは失礼しました。私はアレッシオ=ゴディアと申します。」
上品なドレスに身を包んだ少女は、上流階級にふさわしい礼儀作法で丁寧に挨拶をしてくる。
「今日は男の子の格好をしていないね。」
僕の言葉に少女、アレッシオ=ゴディアは固まってしまった。アレッシオは、昨日馬車に轢かれ教会でエミリーに治療してもらった男の子の格好した少女と同一人物であった。衣装や雰囲気が違いすぎてエミリーにはわからなかっただろうが、僕の目はごまかせない。昨日の少女とアレッシオの特徴は一致している。
「な、なんのことでしょうか?」
アレッシオは汗を掻きながらとぼけている。
「アレッシオさんを瀕死の傷から治療したのは彼女ですよ?お礼も言わずにそのまま逃げてしまったのは感心しませんね。」
アレッシオは唇を噛み締め考え込んでいたが
「ジョーバー、このお二人をお屋敷にご招待します。」
そう言ってアレッシオは僕達を無理やり馬車に押し込んだ。
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