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どうやら僕の心臓は賢者の石らしい  作者: (や)
ルーフェン伯爵編
22/192

屋敷への潜入

急いで書いたので誤字脱字多いかもです。

 アルシュヌの街の外壁近くはスラム街となっている場所が多く、僕が向かっている場所もその一つだった。

 廃屋となった家々の中にその小屋は隠れるように存在した。僕は辺りを再度見回し尾行者がいないことを確認して小屋の扉を叩いた。

 この小屋は街の義賊集団「アルシュヌの鷲」のアジトの一つである。何度も男爵の屋敷に忍び込もうとして失敗はしているが、屋敷の情報は一番持っているはずの連中だ。


「誰だ?」


 中から男のものとも、女のものともつかない声が聞こえる。


「ここに来れば情報を売ってくれると聞いたが。」


「…入れ」


 中にはフード付きのマントをかぶった小柄な男(?)が小さなテーブルに座っていた。


「こんなところに一人でのこのこやってくるとは不用心な男だな、サハシ。」


 どうやら僕のことをすでに知っているらしい。


《人間(女):スキャン開始……終了。 ナイフを所持。脅威度0.2%》


 男ではなく女らしい。赤外線モードで見たところ二十代半ばの女性らしいシルエットが見える。


「済まないな、急いでいたんだ」


「あんたを付けていた男爵の犬はこちらで始末しておいた」


 尾行がないことを確認していたが、どうやら僕が気付かない尾行者がいたようだ。


「さて、あんたとイザベルとギーゼン商会の件は知ってるが、サハシ、あんたは俺達にどんな情報を売って欲しいんだい?」


「僕はイザベルを、そしてギーゼン商会を救いたい。それにはドヌエル男爵を失脚させる必要があると思っているが、そのために男爵の屋敷に忍び込んで不正の証拠を集める必要がある。そこで男爵の屋敷に忍び込むための情報を売って欲しい」


「情報は売らないでもないが、お前があの屋敷に忍び込めるのか?」


「やってみないとわからないでしょ?」


「俺達が何人あの屋敷に忍び込んでしくじっていると思っているんだ」


「その失敗から得られた情報がほしいな。それと男爵の屋敷の情報があれば僕なら忍び込める」


 フードの中から彼女は僕を睨んでいる。今の会話から考えると、彼女は僕が忍び込むのに反対らしい。

 しばらくすると彼女は息を吐き緊張を解いた。


「ドヌエル男爵の屋敷の情報はただでやろう。ただし条件がある」


「条件?」


「私も男爵の屋敷に一緒に付いていく」


 彼女はそう言ってフードを脱ぎ素顔を晒した。

 赤外線モードで見ていた時に気付いてはいたが、彼女はかなりの美人であった。くすんだ金髪に切れ長の目、細い顎と紅い唇。とても義賊集団のリーダーをやっているとは思えない容姿である。身体つきもボンキュッボンなメリハリのあるものであり、十人が十人とも彼女を美人と言うだろう。


「なんだい、女だと判って驚いてるのか?」


 僕が黙ってしまったので、彼女は女であることに驚いたと思ったのだろう、馬鹿にしたような目で僕を見てくる。


「女性なのは気付いていたけど、予想以上に美人だったんで驚いたんですよ」


「嘘をつくんじゃないよ。どうしてあたいが女なんてわかったんだよ」


 美人と言われて照れたのか彼女は少し顔を赤らめて抗議する。


「なぜ女性と判ったのかは秘密です。それよりどうして貴方が男爵の屋敷に忍び込みに付いて来るの?」


「あたしらも今回の件がドヌエル男爵を潰す絶好の機会ってことはわかってるんだ。ただ今まであの屋敷に忍び込んでまともに帰って来た奴がいなくてね、流石にあたいも手下に忍び込みに行けってもう言えないのさ。そうしたらもうリーダーのあたいが自分で忍び込むしかないのさ。そこにあんたが現れたってことさ」


 彼女の話によると今まで十人以上の腕利きの盗賊がドヌエル男爵の屋敷に忍び込んだらしいが、帰ってきたのは二人だけだったが、それもかなりの重傷で、すぐに死んでしまったそうだ。


「みんな男爵の屋敷の情報は持っていたんでしょ?それで帰ってこないなら情報が間違っていると思うのですが?」


「馬鹿なことを言わないで。屋敷の見取り図も屋敷を建てた大工の家から持ってきたものだし、それ以外の情報も仲間が命がけで集めてきたものなんだ、間違っちゃいないはずさ」


「仲間を信頼するのもいいけど、それだけ失敗しているなら情報を疑ったほうがいいと思うんだけどね。まあ、情報が役に立たなさそうなのは分かりました」


 僕がそう言って立ち去ろうとすると、彼女はテーブルを乗り越え僕に飛びかかってきた。


「馬鹿にしないでおくれ」


 彼女はナイフを僕の首筋に突き出してきたが、僕はそれを手で受け止め、指先でつまんでへし折ってしまった。彼女は腕利きのナイフ使いなのだろうが、ナイフを手で受け止められるなんて思っても見なかっただろう。


「なっ、馬鹿な!」


 素手でナイフをへし折られた事に動揺した彼女を僕は簡単に組み伏せてしまった。


「ナイフを素手で受け止めるなんて……あんた本当に人間かい?」


「僕の体は特別なので」


 柔道で言う袈裟固めの体勢で彼女を組み伏せているため顔が近いし、彼女の肉体が密着しているため脇の感触が男としてはたまらない状態になっている。しばらくして僕は顔を赤くして彼女を開放した。


 何故僕が彼女を挑発するようなことを言ったかというと、義賊集団"アルシュヌの鷲"はドヌエル男爵以下の悪どい貴族を倒すことを目標に掲げている割にその成果が今ひとつ上がっていないことを知り、実はドヌエル男爵達と癒着しているのではないかと疑ったからである。

 しかし"アルシュヌの鷲"のリーダーである彼女の今の反応を見るとどうやらそれは取り越し苦労だったらしい。


「怒らせるようなことを言ってすみませんでした。僕は貴方達をドヌエル男爵と通じているんじゃないかと疑っていたのです」


「………はぁ、そう疑われてもしょうがないくらい"アルシュヌの鷲"は活躍出来ないからね」


 彼女は大きくため息をついた。


「疑って申し訳なかった。ところで先ほどの男爵の屋敷に忍び込むことに付いてくるという話はまだ有効かな。僕としてはプロの盗賊が付いてきてくれると助かるんだけど」


「……あんたさえ良ければ付いて行くよ。そういえばまだ名前を言ってなかったね、あたいはミシェルだ」


「僕はケイ=サハシ、ケイと呼んでね」


 こうして僕は彼女と一緒にドヌエル男爵の屋敷に忍びこむことになった。



◇



 時刻は深夜二時を回ったところ。新月の今夜は、あたりは真っ暗だった。僕とミシェルはドヌエル男爵の屋敷の近くの植え込みに身を潜めていた。


「準備も何もできてないんだ、忍びこむなら明日にしたほうが……」


 ミシェルがそう言ってくるが、僕は今日忍び込んでしまうつもりだ。なるべく早く証拠を押さえアーネストの兄、ルーフェン伯爵家の長男を動かしたいのと、おそらくいるであろう義賊集団"アルシュヌの鷲"の裏切り者がドヌエル男爵に情報を漏らす前に行動したかったからだ。


「今まで屋敷に忍び込んだ人はどこから侵入したの?」


「確か裏口と地下の抜け道を逆に辿って行ったはずだよ。庭には定期的に見張りが巡回しているけど、間隙をついて屋敷まで辿り着くのは簡単だよ」


「屋敷に侵入するのは簡単ということは、屋敷の中に何か仕掛けがあるんでしょうね」


「……そうかもしれないね」


「屋敷の上から侵入した人はいないの?」


「周りには男爵の屋敷より高い建物はないんだよ。魔法使いでもなけりゃ無理だわね」


「なら上は警戒はされていない可能性が高いね。それなら屋根から侵入しましょう」


「え、どうやってさ?」


 屋根から侵入すると言う僕に驚くミシェルを僕はお姫様抱っこして彼女の重さを測った。


《人間(女):スキャン開始……終了。55kgです》


「結構軽いね。これならあんまり音を立てずに行けそうだ」


 僕に突然抱っこされたミシェルは恥ずかしさのあまり固まっていた。


「な、何をするんだい」


「今から屋根に飛び乗るから、声を立てずしっかり掴まっててね」


 僕は大地を蹴って空に舞い上がった。ミシェルは飛び上がった瞬間悲鳴をあげかけたがなんとかこらえ、そして空を飛んでいると知ると僕にしがみついた。ミシェルが少し暴れたのでバランスを崩しかけたが、スラスターを音がしないように吹かしてなんとか男爵の屋敷の屋根に着地することに成功した。

 新月だったこともあり、地上の見張りは誰も僕達に気付いていない。


「危ないから暴れないでよ」


「な、なんで空を……あれ?」


「もう屋根の上だから静かにして」


 僕は彼女の唇にそっと指を当てて黙らせる。彼女を屋根におろして気づかれていないか耳の感度を上げて屋敷の中の音を拾うが、見つかったような騒ぎは起きておらずうまく侵入できたようだ。


「あそこから入れそうだね」


 ミシェルが屋根の上に出ている窓を指さす。僕は赤外線モードに切り替え動体センサーと合わせて窓の中を調べ誰もいないことを確認する。ミシェルが簡単な鍵を外し窓から屋敷の中に入った。


「僕が欲しいのは男爵の不正の証拠だけど、何処にあると思う?」


「多分書斎だろう。屋敷の三階にあるはずだからこの部屋からかなり近いよ」


 部屋の鍵は内錠なので、通路の様子を窺って誰もいないことを確認してから部屋を出た。さすがに深夜二時を回っているので屋敷は寝静まっているが、いくつかの部屋は明かりが灯っており、何か声が聞こえてきた。


「しかし、いつまでこの屋敷にいればいいんだよリーダー」


「裁判が終わるまではここに居ろという男爵の命令だ、我慢しろ」


「飯も酒もうまいから構わないが、女がいないのがな~」


「裁判が終わればいっぱい報酬をもらえるはずだからそれまで我慢だな」


 喋っているのはタウンゼンのパーティだった。情報通りこの屋敷にいたようだ。

 目的の男爵の書斎は彼らの部屋の隣にあった。書斎には鍵がかかっていたがミシェルが数分で開け、僕達は中に滑り込んだ。


 書斎には机と本棚などあの男爵に似合わないほど綺麗に整えられていた。机の引き出しや本棚を調べたが証拠となりそうなもの見つからなかった。


「金庫とかないね」


「隠し金庫がどこかにあるんだろ」


 お約束なパターンとして絵の後ろとかを見てみたが、そんなところには金庫はなかった。

 僕は金属センサーを稼働させて壁を順繰りに調べていくと本棚の後ろに大きな金属反応を見つけた。本棚をよく見ると時々動かした後がわずかに残っており、本棚をずらせば隠し金庫が出てくることが分かった。


「本棚を動かす必要があるね」


「二人で動かすのは大変そうだけどどうすんのさ?」


「………ちょっと黙ってて」


 僕はミシェルを抱きかかえると天井に忍者のごとく張り付いた。じっとしていると書斎の扉が空き男が顔を覗かせる。


「物音がした気がするんだけど誰もいないな」


「タウンゼン、勝手に書斎を覗いて男爵に怒られるぞ?」


「いやなんか音がしたんだよ」


「馬鹿言うな、一階はこの時間帯だと、トラップだらけで誰も入れないんだぞ。二階に誰がくるんだ?」


「それもそうか」


 顔をのぞかせていた男、タウンゼンは扉を閉め部屋に戻っていった。それを確認して僕はそっと下に降りる。書斎の天井が高くて助かったが、抱きかかえたミシェルは緊張のあまり心臓がドキドキしていてそれが僕の手に感じられた。


「ケイには抱きかかえられてばかりだね」


 ミシェルがボソリと呟くが僕は聞かないふりをして本棚を動かす。おそらく大の大人五人が力を合わせないと動かないであろう本棚を僕が一人で動かしていくのを見てミシェルが目を丸くして驚いていた。

 本棚の後ろには予想通り隠し金庫があった。隠してあることで安心したのか簡単な組み合わせ錠の金庫であり、ミシェルは簡単に開けてしまった。


「こんな金庫にしまっておくなんて、ちょろいね」


「それだけ一階のトラップに信頼をおいているんだろうね」


 金庫の中には、僕が欲しかった男爵の不正を示す帳簿や他の貴族との念書など大量の書類がぎっしりと詰まっており、僕はそれを正確に記録していった。


「ケイ、これは盗んでいかないのかい?」


「これを盗んでしまったら男爵は警戒してしまうだろう。これはこのままにしておくよ」


「だけど、これが無いと証拠にならないよ?」


「大丈夫、僕が覚えておけばなんとかなるって事を後で教えてあげるよ」


 僕達は書斎を元の状態に戻し、来たのと逆の道順で屋根に戻る。そこから再びジャンプして屋敷の外に脱出した。



◇



 アジトの小屋に戻ってくる頃には空はうっすらと明るくなり始めていた。


「ミシェル、羊皮紙と書くものを持ってきてくれないかな」


 僕はミシェルにお願いして羊皮紙とペンを持ってきてもらう。


「ケイ、まさかさっき見た書類を偽造する気かい?あんな暗いところで見ただけの書類を偽造なんて無理だよ」


「普通はそうだろうけど、僕には記憶とこの腕があるから」


 何回かペンの書き心地を確かめた後、僕は記録した書類の画像を元に寸分違わない書類をつくり上げた。サイボーグである僕の手は百分の一ミリ単位で細かく動かすこともできるので筆跡などもそのままトレースして描き上げることも朝飯前である。僕は次々と記録した書類を書き上げていった。


「あんた、それだけ(偽造の腕)で食っていけるよ」


「犯罪者になる気はないよ」


「既に犯罪者だと思うけどね」


 呆れた顔でミシェルは僕が作成した偽造書類を見ている。


「これで裁判で男爵を失脚させることが出来るよ」


「本当にあんただけは敵に回したくないね」


 そう言ってミシェルは男爵を失脚させることができる喜びで笑っていた。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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