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どうやら僕の心臓は賢者の石らしい  作者: (や)
ルーフェン伯爵編
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城への潜入

 エミリー達と合流し冒険者ギルドを出る頃には、日は暮れてしまっていた。持ち寄った情報を食事をしながら交換することもあり、夕食は宿で取ることにした。


「タウンゼンだけど、どうやらドヌエル男爵の屋敷に居るらしくて、最近姿を見かけないみたい。」


「いきつけの女の子の店にも顔を出していないみたいです。」


 女の子の店ってあれかな、パフパフより先をやっちゃう店なんだろう。リリーはちょっと顔を赤らめている。


「私達が大水晶陸亀(クリスタル・トータス)と闘った日、タウンゼンが街にいた事を知っている冒険者を見つけたのですが...それを証言して信じてもらえるかそこが問題ですね。」


 エミリーの言うとおり、証言する人を見つけてきてもドヌエル男爵が行う裁判では証拠が握りつぶされる危険性がある。


「でも、証拠のひとつとしてその人は確保しておきたいな。」


 僕のほうは、ジョンが本名はアーネストでルーフェン伯爵の息子であることと、彼の協力を取り付けたことを皆に伝える。


「ジョンが、伯爵の息子だったの~。」


「私何か失礼なこと彼に言ってませんでしたか?」


「……どうしましょ」


 エステルとリリーがジョンの正体を知って少しパニックになってしまった。ルーフェン伯爵の息子なのだ、失礼なことをすれば不敬罪などに問われるかもしれないのだが、日本生まれの僕はそういったことがよく理解ってない。


「大丈夫、彼はシフォンで釣ったから。」


 僕は三人にシフォンを彼に譲る約束にしたことを話した。シフォンと名前を付けて可愛がっていたエミリーは少し嫌がったが、もともと孵らなければ彼の物になっていたはずだし、僕達がこれから冒険者として旅に出たりすることを考えるとシフォンは飼えないことなどからシフォンを彼に預けることにしたのだと彼女を説得した。


「アーネストはシフォンを大事にしてくれるのでしょうか?」


「彼はグリフォン大好きだから、きっと大事にしてくれるよ。それにシフォンも彼に不思議となついていたからね。」


 あのマッサージが効いたのか、シフォンはアーネストになついているのは確かだ。


「後、イゼベルの裁判だけど、ルーフェン伯爵の城で三日後に開かれるらしい。それまでに何とか証拠を集めたいので、僕はしばらく夜は一人で行動するよ。」


「何をするんですか?」


「私達も手伝います。」


「もちろんあたしも手伝うよ。」


「いや、これは非合法活動(犯罪)なので僕一人でやるよ。僕一人ならなんとか見つからずにやれるからね。」


 僕ならサイボーグ体の力を使って無茶な事ができるが、盗賊でも何でもない彼女達に危険なことはさせられない。自分たちもやるとゴネる彼女達を説得するのかなり苦労したが、なんとか納得してもらった。



 夕食後、僕はルーフェン伯爵の城に向かった。目的はとある資料の閲覧だ。

 城の門番にルーフェン伯爵家の家紋入りのハンカチを見せると怪しみながらも僕を城に入れてくれた。

 しばらく待っていると、侍女らしき人が迎えに来て僕を城の裏手にある騎獣の厩舎に案内してくれた。


「本当に来たんだね。」


 騎獣の厩舎の前で声をかけられ、マントを被ってアーネストが待っていたことに気付く。


「約束を守ってくれてありがとう。ここは大丈夫なのかな?」


 僕は辺りを見回しアーネスト以外がいないことを確認する。


「この時間は此処は人気がないんだ。で、ケイは何をする気なんだ?」


「ルーフェン伯爵家の財務関係の資料を見たいんだ。できればドヌエル男爵が役職に就いてからの物を見せてくれると助かる。」


 アーネストはしばらく考え込んだ。


「君がそれを見て何が理解るんだ?」


「おそらくだが、ドヌエル男爵を始めとする領地経営を牛耳っている貴族たちは不正経理を行っているはずだ。普通の人がそれを見ても多分理解らないようになっているだろうが、僕なら資料からそれを洗い出せる。」


「イザベルさんの裁判とドヌエル男爵の不正はあまり関係が無い気がするんだけど? いやルーフェン伯爵家としては非常に助かるんだが...」


「イザベルの裁判は、その場に僕とあるものが有れば必ず嫌疑を晴らせると思う。ただ、ドヌエル男爵達の子飼いの裁判官だけだと、きっとどんな証拠を持ってきてももみ消されるだろう。そこで、ドヌエル男爵自身の不正の告発を僕がするということで君のお兄さんにその場に来てもらうんだ。」


「兄を動かすのか?……ドヌエル男爵の不正、イザベルさんの裁判まで三日だが、それまでに本当に洗い出せるのかい?」


「ああ、出来るさ。でなければイザベルさんは救えない。」


「理解った。ケイ、このマントを着て僕に付いて来てくれ。」


 アーネストがマントを脱いで僕に渡す。僕がそれをかぶるのを確認して、アーネストは僕を引き連れて城の中に入っていった。城の中をアーネストの後ろに付いていくが、誰も僕を認識できず無視していく。


(このマントが有れば泥棒し放題だな。こんなアイテムがゴロゴロしてるわけ無いだろうから。ルーフェン伯爵家の秘蔵のアイテムなんだろうな。)


 アーネストは城の地下に向かって歩いて行く。城の地下には資料を収めた倉庫や牢屋などがあるらしい。


「ん!」


「これはこれはアーネスト殿下。」


 地下へと続く階段付近でアーネストは頭のでっぷりと太った貴族と出会った。


「ドヌエル男爵、こんなところで何をしているのだ?」


(こいつがドヌエル男爵か。)


 僕はドヌエル男爵の顔を覚えておく。

 ドヌエル男爵はちょび髭を生やし頭が禿げており脂ぎった顔の小柄な男であった。身体も締りがなくぶよぶよと太っており、できればお近づき成りたくない類の人物であった。


「不正を働いた嫌疑で拘束している商人に話を聞いておりました。」


「そんなことはドヌエル男爵の仕事では無いだろうに?なにゆえそんな事をするのだ?」


「その商会は以前から脱税の嫌疑がありましので、その確認です。女だてらに商会の商会主をやっているだけあって、なかなかしぶとい奴でなかなか嫌疑を認めません。」


「仕事熱心なことだ。……ふむ、余もその女に会ってみたくなったな。案内せよ。」


「えっ、アーネスト殿下が?あのような下賎な者に会われる御必要はないでしょう。」


「ただの気まぐれだ。」


 アーネストの言葉にドヌエル男爵は渋々といった感じで僕達を地下牢に案内した。


 地下牢は土間で、ベッドも藁だけとかなり環境が悪いものだった。イザベルはたった一晩そこに居ただけなのにものすごく憔悴していた。顔色も悪く、精神的にかなり追い詰められているらしいことが見て取れる。


「アーネスト殿下、この女がそうです。」


「ふむ、見たところうら若き美しい女性ではないか、こんな地下牢では可哀想だろうに。せめてベッドぐらいは普通の物に変えてやれないのか?」


「いえいえ、犯罪者に慈悲など不要です。アーネスト殿下がお優しいのは分かりますが、これで十分です。」


 アーネストとドヌエル男爵がしゃべっている間に僕は牢屋にそっと近づく。そして気付かれないように牢屋の地面に"必ず助けるケイ"と小さく書いておいた。後は彼女がこれに気付いてくれれば良いのだが。


「しかし、いくら犯罪者とはいえ紳士としてこのような境遇は見過ごせない。せめてこれを使わせたいのだが..」


 そう言ってアーネストは牢屋に近づきさり気なくハンカチを渡そうとしてわざと落とす。落とした先は僕が地面に字を書いた場所だ。


(アーネストGJ)


 イザベルはハンカチを拾いそこに書かれている文字に気付いた。辺りを見回すが僕には気づかない。彼女は字を足で消してハンカチをアーネストに返した。


「私は何も悪いことはしてません。きっと仲間が助けてくれます。」


 アーネストはハンカチを受け取り頷く。


「まだそんなことを言っているのか。」


 ドヌエル男爵が怒りだしたのでアーネストはそれをなだめながら牢屋を後にした。当然僕もそれに着いて行く。


 ドヌエル男爵と別れたアーネストは小さな声で資料倉庫の場所と彼の部屋の位置を呟き、僕は了解したと頷いて彼と別れ資料倉庫に向かった。





 資料倉庫は真っ暗で、木箱に羊皮紙の束が積み込まれたものが雑多に置かれていた。


「こりゃ、目的のものを探すのは大変そうだな。」


 うんざりしながらも木箱をそっと持ち上げ中を確認していく。本当なら数人ががりで運ばなければならない木箱も僕の力なら余裕で動かせるし、真っ暗闇と言っても赤外線モードに切り替えれば問題なく見える。


 二時間ほどで目的の書類が入った木箱を見つけ僕はその中身を片っ端から記録していく。見るだけで済むのだから楽なもので、あっという間に仕事は片付いていくのだ。ドヌエル男爵が今の地位についてから十五年間の資料を僕は二時間ほとで記録した。


「この会計報告だけを見れば不正が無いように見えるけど、こっちの食料や飼葉、兵隊の給料などの資料と照らし合わせればかなりの金額がどこかに消えているのが理解るな。金の使い道とかが理解れば良いんだけどな。」

 資料倉庫で得られる限りの情報を記録して、僕は倉庫を出てアーネストの部屋に向かった。



 アーネストの部屋は城のかなり高層にあり、部屋の前には見張り番がいた。さすがに扉を開けると見張りに気づかれるため中に入る手段をどうするか考えていたら、侍女がお酒らしきものを部屋に運んで来た。僕はその後ろにピッタリと張り付いて部屋の中に入ることに成功した。


「アーネスト、僕だ、ケイだ。」


 侍女が出た後、小声でアーネストに声をかける。


「ケイか、見つからずにここまでやって来れたようだな。で、目的のものは見つかったのか?」


「うん、やはり毎年大量の金が消えているよ。ただ誰がそれを不正に得ていたかの証拠は見つからなかった。」


「この短時間でそこまで調べられるとは...しかし、兄上を動かすなら直接ドヌエル男爵が関わっているという証拠がほしいな。」


「僕もなんとか入手したいんだけどね。多分城の資料では見つからないと思うんだ。」


「まさか?」


「うん、ドヌエル男爵の屋敷に忍び込んでみようと思う。」


「危険だ。ドヌエル男爵の屋敷に今まで忍び込もうとした奴は多いが誰も成功したことが無いと聞くぞ。」


「...そうなのか。なら少し情報を集めてから行ってみるよ。」


 僕はマントを脱いでアーネストに返す。


「ケイ、それは君が持っていてくれ。このマントが有ればドヌエル男爵の屋敷に忍びこむのも楽になるはずだ。」


「そうだけど、さすがにこれを持って捕まったりしたらアーネストに迷惑がかかるだろ?大丈夫、別な手をちゃんと考えるよ。」


「そうか。気をつけてくれ。って、おい、何所から出て行くんだ?」


「いや、誰もいなかった部屋から僕が出てっちゃマズイだろ?ここ()から外を伝って出て行くさ。」


 僕は誰も上を見ていないことを確認してから、窓の外に身を乗り出す。


「明日昼過ぎにまた冒険者ギルドで会おう。」


 僕は明日アーネストと会う約束をして、壁の出っ張りを使って城の天辺まで登っていった。窓からはアーネストがそんな僕を驚きながら見ている。


 アーネストの視界から外れ、天辺まで登ると街の方に向けて僕は全力ジャンプした。城の屋根が抜けないように加減したが、城の敷地を飛び越し街の上空まで飛び出す。


「夜空の大ジャンプって気持ちいいな。癖になりそうだな。」


 落下が始まり、何所かの民家の屋根の上に着地しそうなことを確認する。このままだと屋根に大穴を開けてしまうので、僕はスラスターを吹かしてやんわりと静かに着陸した。そこから人目につかないように道路に降りた僕は冒険者ギルドを目指した。





 冒険者ギルドは基本二十四時間営業だが、さすがに夜中近くになると人は少なく、カウンターもガラガラである。そんなカウンターには向かわず、僕は昼間訪れたギルドの情報屋に再び訪れていた。


「サハシか、約束は明日の昼だったはずだが?」


 昼にあったばかりの情報屋の男が僕の顔をみてため息をつく。


「別の情報が欲しくてね。」


「何が必要なんだ?」


「ドヌエル男爵の屋敷について。」


 僕の言葉を聞いて情報屋の男の眉がぴくりと動く。


「潜るのか?」


 潜る=忍び込むという意味なのだろうと僕は判断する。


「それは言えない。できれば見取り図と今まで潜ったことのある奴を紹介して欲しい。」


「見取り図とか無いこともないが、犯罪に使われるおそれがある情報は冒険者ギルドとしては売れないんだ。」

 確かに情報屋といっても冒険者ギルドの物だ。犯罪を引き起こすような情報は売れないのだろう。

 しかし、何も情報なしでドヌエル男爵の屋敷に向かっても目的の情報を入手するのは難しいだろう。

 なら売ってくれる奴の情報ならどうだろう。


「じゃあ売ってくれそうな奴を教えて欲しいんだが?」


「そっちはかなり危険だぞ?」


「こっちで何とかするから教えてくれ。」


「情報量は金貨一枚だ。」


 僕が金貨一枚を支払うと、情報屋の男は街の外周付近にあるとある家を教えてくれた。


「そこに目的の情報を売ってくれる奴がいるはずだ。ただ、招かれざる客が行っても会ってくれるかは判らんぞ。」


 僕は理解ったと右手をあげて答えてギルドの情報屋を後にした。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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