じゃあ、作ってもいい?
セルトで石鹸を作り始めてから、数日が経った。
最初に作った分は、ちゃんと固まった。
使ってみても問題はない。
ただ、一つだけ気になるところがあった。
「……大きさ、バラバラだね」
「やっぱ気になる?」
俺とカイルは、完成した石鹸を机の上に並べていた。
極端に違うわけじゃない。
でも、並べてみれば少し大きい物もあれば、小さい物もある。
リーネでは一個ずつ同じくらいの大きさになるよう、仕切りのある型を使っている。
今回俺たちが作った物もそれを真似したつもりだった。
ただ、急ごしらえだから仕切りの幅が微妙に違う。
「売れなくはないと思うけどな」
「同じ5リルなら、大きい方選ばない?」
「……選ぶな」
俺だって選ぶ。
わざわざ小さい方を取る理由がない。
だからといって、きっちり同じ幅の仕切りを作り直すのも面倒だ。
俺が型を眺めていると、カイルが石鹸を一つ持ち上げた。
「これ、一個ずつ作らなくてもよくない?」
「どういうこと?」
「もっと大きく作って、あとから切れば?」
「……あ」
大きな塊で固める。
それを同じくらいの大きさに切り分ける。
確かに、それなら型の中を細かく仕切る必要がない。
「少し大きめに切れば、小さくなりすぎることもないか」
「多少ずれても、今よりは揃えやすいと思う」
「それいいな」
俺たちはさっそく型を作り直した。
といっても難しいことはしていない。
中の仕切りをなくして、まとめて流し込める大きな箱にしただけだ。
固まった後で取り出して、目安をつけて切り分ける。
最初から一個ずつ作るより、こっちの方が型自体も単純だった。
「カイル、こういうの思いつくようになったな」
「毎回隣で見てるからね」
「そのうち俺いらなくなるんじゃない?」
「石鹸の作り方知らないから、それは困る」
「じゃあまだ大丈夫か」
何が大丈夫なのかは自分でも分からない。
ともかく、次からはその方法で作ってみることにした。
それから数日。
大きな型で作って、固まった物を切り分ける。
多少の差は出るけど、最初よりはずっと揃えやすくなった。
何より、一度にまとめて作れるのがいい。
問題があるとすれば――。
「次、代わって」
「もう?」
「腕疲れた」
「さっき俺も同じくらいやったんだけど」
「だから交代なんでしょ」
もっともである。
俺はカイルから棒を受け取って、容器の中を混ぜ始めた。
型の方は楽になった。
でも、その前の作業は何も変わっていない。
材料を合わせて、ひたすら混ぜる。
量を増やせば、その分だけ大変になる。
俺は最初から分かっていた。
だから混ぜる道具を作ろうと言ったのだ。
ただ、あの時はまだセルトの材料で石鹸を一個も作っていなかった。
まず普通に作れ。
カイルにそう言われて、俺も納得した。
だから作った。
一回だけじゃない。
何度も作った。
そのたびに二人で交代しながら混ぜた。
「はい、交代」
「早くない?」
「腕疲れた」
「俺も疲れてるんだけど」
「じゃあ休む?」
「休んだら終わらないだろ」
今度は俺が無言になった。
しばらくして、またカイルと交代する。
今度はカイルが黙々と混ぜ始めた。
少し経ってから、その手が止まる。
「……レイン」
「ん?」
「前に言ってたやつ」
「前?」
「混ぜるのを楽にする道具」
俺はカイルを見る。
「何?」
「作った方がいいかも」
「ほら!」
「うるさい」
思わず声が出た。
ようやく分かってくれたらしい。
「だから言っただろ。これ毎回やるの面倒なんだって」
「でも、あの時はまだ石鹸一個も作ってなかったでしょ」
「まあ、それはそうだけど」
「今は何回か作って、ちゃんと作れるって分かったから」
そこはカイルらしい。
必要かどうかも分からないうちから道具を作るのは止める。
でも、必要だと分かれば反対する理由もない。
「それで、どんな道具なの?」
「手で回すと、中の棒も回るようにする」
「今と何が違うの?」
「ずっと棒を握ってかき回すより楽になる。前に白いソースを作る時に使ったんだよ」
あの時作った物はミラに売った。
だから、ここにはない。
でも構造は覚えている。
しかも、あの頃より回す仕組みについては知っていることが増えた。
ノルンで散々考えたからな。
「じゃあ、それ作る?」
「いいの?」
「俺もこれ毎回やりたくない」
よし。
ついに許可が出た。
「じゃあ、作ってもいい?」
「高い物買う前には相談して」
「分かってるって」
「本当に?」
「……相談します」
そこだけは念を押された。
でも今回は、欲しいから作るわけじゃない。
実際に何度も石鹸を作って、必要だと分かった。
だったら堂々と作れる。
俺は混ぜている容器を見ながら、前に作った道具の形を思い出す。
せっかくもう一度作るなら、前とまったく同じじゃなくてもいい。
今なら、もう少し使いやすくできる気がする。
……もちろん。
まずはカイルに相談してからだけど。




