一週間で、いくら儲かった?
セルトに来て、一週間が経った。
最初の数日は市場を見るだけでも新鮮だったけど、さすがに毎日同じ場所に立っていると少し慣れてくる。
石鹸を説明するのも、最初よりずっと楽になった。
カバンの一個は旅人に貸し出し中。
ノルンの道具は――まだ一件も注文がない。
そして今日。
俺とカイルは市場から部屋へ戻ると、この一週間の商売を振り返ることにした。
「結局、どれくらい儲かったんだ?」
「そんなに計算する物もないけどね」
それはそう。
売れたのは、ほとんど石鹸だけだ。
セルトへ持ってきた石鹸は十個。
そのうち、この一週間で七個売れた。
残りは三個だ。
「カバンはゼロ」
「一個は貸してるけどね」
「ノルンの道具もゼロ」
「そっちは本当に何もないね」
悲しいことを言わないでほしい。
石鹸は一個5リル。
七個売れたから、売上は35リルだ。
今回セルトへ持ってきた石鹸は、セラさんから一個2リルで仕入れている。
売れた七個分なら、仕入れにかかったのは14リル。
「35から14を引いて……21リル」
「石鹸だけならね」
一個売れば3リル。
七個で21リル。
ここだけ見れば悪くない。
問題は場所代だ。
俺たちが借りているのは、市場の端にある小さな場所。
それでも一日4リルかかる。
七日間借りたから、合計28リル。
「……あれ?」
「21から28を引いたら?」
「分かってる。ちょっと待って」
待っても数字は変わらない。
「7リルの赤字じゃん」
「うん」
売れた。
七個も売れた。
なのに赤字。
「おかしくない?」
「おかしくないよ。毎日4リル払ってたんだから」
「いや、そうなんだけどさ」
数字はものすごく単純だ。
売上35リル。
売れた石鹸の仕入れが14リル。
場所代が28リル。
差し引き、マイナス7リル。
しかも、カバンはまだ一個も売れていない。
売り物の一個は手元に残っているし、もう一個も旅人に貸しているだけだから、なくなったわけじゃない。
それでも、仕入れに使った金が戻ってきていないのは確かだ。
「毎日客は来てたんだけどな」
「客が来ても、買ってくれなきゃお金にはならないから」
「石鹸は買ってくれたぞ」
「七個ね」
「……七個じゃ足りないのか」
一週間で七個。
最初に持ってきた数を考えれば、むしろ思っていたより売れた。
それでも毎日市場を借りるには足りない。
「これ、石鹸だけ売るなら毎日店を出す必要ないよな」
「俺もそう思う」
調べる日。
人に話を聞く日。
町を見る日。
そういう日まで4リル払って場所を確保する必要はない。
「売る日を減らす?」
「うん。その方がいいと思う」
一週間やってみたから分かったことだ。
市場で売ること自体はできる。
でも、今の商品の数と売れ方で毎日場所を借りるのは割に合わない。
そして、問題はもう一つある。
俺は机の上に残っている石鹸を見る。
三個。
「……こっちはどうする?」
「あと三個だね」
「十個あれば、もう少し持つと思ってた」
「売れたんだからいいことでしょ」
「売る物なくなるけど」
そこなんだよな。
赤字なのに、売れている商品はなくなりそう。
なんとも微妙な状況だ。
セラさんはリーネにいる。
俺たちはセルトにいる。
今までは必要になればセラさんのところへ行けばよかったけど、ここではそうはいかない。
「リーネから送ってもらうか」
「送るのにもお金かかるよ」
「……さらに金かかるのか」
「当たり前でしょ」
分かってます。
石鹸一個で3リル残る。
でも、セルトまで運ぶために金を払えば、その分だけ利益は減る。
十個送るのか。
もっとまとめるのか。
他の商品と一緒に運ぶのか。
セルトへ来る商人に頼むのか。
そもそも、どれくらいの頻度で必要になるのか。
「補充の方法も考えないとな」
「その前に、運ぶのにいくらかかるか聞いた方がいいね」
「そうだな」
俺は紙に一週間の結果を書いていく。
石鹸、七個販売。
残り三個。
売上35リル。
仕入れ14リル。
場所代28リル。
差し引き――7リルの赤字。
「……赤字って書くと嫌だな」
「書かなくても赤字だよ」
「分かってるって」
ただ、何も得られなかったわけじゃない。
石鹸はセルトでも売れる。
市場は毎日借りなくていい。
補充するなら、運ぶ金まで考えなきゃいけない。
一週間で7リルの赤字。
「……次の一週間で取り返すか」
そう言った俺に、カイルが机の上を指した。
「何を売って?」
「え?」
「石鹸、あと三個だよ」
俺も三個の石鹸を見る。
全部売っても、それだけで大きく稼げるわけじゃない。
カバンはまだ売れていない。
ノルンの道具も注文はゼロ。
「……先に、売る物をどうにかしないと駄目か」
「そういうこと」
赤字を取り返したい。
でも、そのための商品がない。
セルトに来て一週間。
どうやら俺たちは、ようやく最初の問題にぶつかったらしい。




