第伍話
あの馬鹿みたいに強いやつに会ったのはいつのころだっただろう?
圧倒的な力で僕に襲い掛かってきた。
だが、僕は何とか……撃退できたんだと思う。
―――――――
「こっちに地下にいける道があるっさよ!」
声が聞こえてきてそちらのほうに急いで走る。途中、天井から生えていた氷柱が落ちてきて床に刺さったが難なくよけることができた。けどまぁ、あれ刺さったら痛いんだろうな。
緋奈さんは四つんばいになっており四角い穴を覗き込んでいた。一応階段があるようだが凍りついていて約四十五度の傾斜を作っているためもう完璧に滑り台みたいな扱いで滑っていくしかないようなものだ。
「で、どっちが先に下りる?」
ものすごくわくわくしたような顔をこちらに向けているのだが……先に行きたいのだろうか?
そう思って譲ってみたのだが首を振った。
「いやいや、ここは親指を立てて先に両手を抜けたら勝ちのあのゲームできめるっさ」
「……なんです、それ?」
「ほら、ちっちっちっちっぱぱらっち?っていうあれ」
「……ああ、それですか」
わかっていると思うがパパラッチではない。
―――――――
「ぐはっ!いてぇっ!!」
結果、勝った僕が先に滑っていく権利を得たわけだが壁にぶつかって止まり、しかも皇族となる緋奈さんが滑ってきて壁と緋奈さんに挟まれるという惨事が起きた。いろいろと勝手に想像していたのだが見事に靴跡が顔につけられてしまった。
「……龍輝君、いたっさ」
首をぐりぐり動かしていた僕がなんとか立ち上がる……そこには天井と床を一つにつなげる大きな氷の柱があった。それに巻きつく幻想的な龍……どこから降っているのかわからない雪が僕らの前に姿を現していた。
「ああっ!!」
「ど、どうしたんですか?」
「名前、確か氷月!」
「氷月……」
再び龍、氷月へと視線を戻すと身を震わす。それだけで天井にできた氷柱が僕らを襲う。
「くっ!!」
大きさ約一メートルの氷の剣が天井から落ちてきてはじける。
「大丈夫っさか、龍輝君!」
「ええ、何とか……」
緋奈さんは落ちてきた全ての氷柱を炎で溶かしていた。うらやましい…僕も龍に生まれたかった。
「くしゅん」
氷月がそんなくしゃみをすると氷月を中心にして今度は床から氷柱が生えてきてそのままこちらへとそれが続く。
それも一応よけるにはよけれたが氷月へと続く道全てに氷の剣山ができてしまったために僕一人では近づけなくなってしまった。そう、僕一人では。
「緋奈さん、あれを溶かしてください」
「わかったっさ」
緋奈さんが右手をかざすだけでそこから火が吹き出る。緋奈さんを前にして僕らはそのまま一気に突進していくと氷月は再びくしゃみをした。
「緋奈さん、今度は横から氷柱が!」
「わかったっさ!」
熱波が氷柱を襲い全てを水にかえてさらに蒸発させる。この緋奈というひとものすごく力を使うのがうまいことにいまさらながら気がついた。僕が知っている自然体はあたりを飲み込むことしか知らない。
何とか氷月まで近づけたのはよかった、しかし、これからが問題なのだ。
「あ〜僕の言葉がわかりますか?」
「……」
シカトされてしまった。ここで基本的には強制的に相手を鎮めなければならない。しかし、この龍もしかして……
「くしゅん」
そんなかわいい声を出しながら凶悪そうな顔から、性格には鼻や口から鼻水やつばが飛んできて僕にかかる。
「……」
それだけで僕の体の六十パーセントが固められて動けなくなってしまった。そして確信した……この龍、風邪引いてるだけだ。
「だ、大丈夫っさ!?」
「え、ええ何とか……」
すぐに緋奈さんに溶かしてもらえたが(服が一部焦げたが)これは困ったことになった。僕は正直言って医者じゃない。龍に人間の薬が効くかはわからないが一応風邪薬を与えたほうがいいのだろうか?




