第壱話
視界にうつるものは雑草と砂利。
鼻からなのか、口なのかはわからないが血が出ている。
苦しいが、まだここじゃ終われない苦行。
―――――――
「お前にこの家を継いでほしいとは言わないが、わが家の使命だけは守ってほしい」
和室で、しかも親族すべてに囲まれてそんなことを言われても困る。
もしもここで『そんなのいやだよ〜ん、エロ親父(笑)』とか言ってみたらどうなるんだろうか?やってみたいがやったら間違いなくこの場の全員、五歳児からよぼよぼの八十過ぎの爺どもにぼこぼこにやられたあとお外に放り出されるに違いない。僕の父さん、どうみてもこの浜家をついでほしいって言っているようなものじゃないのか?
ここで僕の一族、浜家について説明を入れておきたいと思う。覚えたい人はメモの準備をしておいてね♪
浜、実際は破魔。日本では比較的龍の事を神聖視する見方が強いんだけど荒ぶる龍となったら話は別だ。天変地異と同じ災害を発し、農地や村を壊滅状態に陥らせた挙句に人の命まで奪っていく。下手したらその怒りは数週間におよび村が消えてしまうということも あったらしい。
そこで登場するのが僕たちの一族だ。元は自縛霊などの人外全般的なものを扱っていたそうだが専門的になり浜家は龍専門となったらしい。
龍が荒ぶる理由はさまざまでありまぁ、虫の居所か悪いとかいやなことがあったとか人間にだってありそうなこと以外にも人が敬意を表さなかったなどちゃんとしたものまで本当にさまざまだ。それを説得とか、時には実力行使で鎮めなければならないのである。人が龍に勝てるのか?そんな疑問を抱くかもしれないのだが基本的に浜家は普通の人間と同じにしてはいけないのだ。人外を鎮めるために生まれてきた人類。まぁ、まれに沈めてしまう龍鎮めもいたそうだが。
こんなものだろう、ぼーっとしているのも限界のようで痺れを切らした父さんが面倒くさそうに口を開いた。普段は酒飲んでごろごろしているだけの(ついでに言うなら母さんに一切頭が上がらない)そこらの親父となんら変わりないが一応ここで会うときだけ威厳がある……気がする。
「で、お前の答えはどうなんだ?もう高校も卒業したし決めてもいい頃合だろう?」
「あ〜う〜っ」
さて、どうしたものだろうか?最近は龍自体もあまり見かけない(この前UMAとしてテレビに出ていたのは覚えている)のだがその存在はどうやら結構認識されているようでこの前だって白河邸というところで龍が確認されたそうだ。当主になっても正直言って面倒なことにしか(父親が見事に当主になってしまったため一緒に遊んだ記憶がない。どうせなら昔からの夢だったらしい投手になってほしかった)ならないのだから却下したい。
僕が暗に拒否しているのは目に見えてわかるのだろう。親父はここで条件を出してきた。
「もちろん、お前のことだからただでならないことはわかってる。そうだな、日常的生活を普通にしていてかまわない」
「はぁ?」
よくわからない、このおっさんが言っていることは本当にわからないな。なので首をかしげるとおせっかいなおばさん(侮ることなかれ、彼女の実力はあの有名な八岐大蛇と同格らしい)が話を続ける。
「だから、 龍輝ちゃんは普通に生活していていいのよ?また一人暮らしをしていてかまわないし、一族誰かからの要請があったら一度こっちに戻って話をすればいいの」
なるほど、それなら意外と簡単そうだなぁとおもって考えているとここで怒声があがった。
「お前はなぜ、当主を継がない!?ここまで譲歩しているのに!」
どすどすどすとこっちに歩いてきて僕の胸倉をつかんだのは分家のおっさんではなく、僕より一つ年下の女の子だ。よくはわからんがなりたい人はなりたいのだろう、賄賂などが横行していると聞いてこの前は数人が一族追放の刑になったのを覚えている。
「いや、継ぎたいならお前が継げばいいじゃんか?」
「っ!?貴様今何といった!」
おいおい、この人はいつの時代に生まれた人だろうか?もはや浜家はごく一般的な家計とそん色ない代物である……いまだに鉄バットで殴っても打撲すら負わない身体だったとしてもだ。
企業の社長になっている人だってごく一部だし、大体、その能力(身体の頑丈さではない)だって劣ってきている。
龍を殺して実力的に鎮める、否、沈めることは確かに人間の中にだってできる人だっているかもしれないが龍の心を平穏にして文字通り鎮め、再び眠ってもらうことができる人はそうそう、というか一般人には殆どいない。
まぁ、そりゃそうだな、だから僕たちがいるわけだが……この龍を鎮める能力のほか、もうひとつ、地味な能力だが変身能力を持っている龍を見極めるというのも浜家の人は持っていた。しかし、今では血が薄くなったとかでどちらかしか基本的に持っていないのだ。だが、僕の胸倉をつかんでいるやつは両方所有しており戦闘能力も一般的な浜家より上であり、一族最強の名を手に入れている。
「じゃ、こいつが当主ってことにしておいてくれよ父さん、じゃなかった当主様」
「ふぅむ、確かに能力が高いことは認めるが・・・・」
重苦しい沈黙が流れていたのだが一人の爺さんが発言したことによって解散することとなる。
「まぁ、今回はここで終わらせよう。次、いつぞや龍様が機嫌を損ねるかわからんからなぁ、二人とも考えておくように」
結局前回と同じようなまとまりかたで今回の会議も終わってしまった。まぁ、どうせこんなことだろうとは思ったんだけどね。
僕はいまだに胸倉をつかんでいる相手からさっさと離れてこんな家を後にする。好きで戻ってきたわけじゃないし、一族がどうとかそういった話は嫌いだ。集まるときはこういった召集のときだけで正月とかには絶対に集まらない一匹狼の気質が高いのだろうか?
まぁ、まだまだ僕にはやらなければ、というかそんなことより大切なことがあるのだ。




