剣舞祭~その1~
「すみません!剣舞祭の受付はここですか!?」
「え、あ、はい。ここですが」
サリアナ通りを走破したシンは、現在剣舞祭の受付会場に居た。
受付会場では、馬鹿にしたようにこちらを見るものや、大声で嘲る者、不思議そうにこちらを見つめる者が居たが、直接関わってくることは無かった。
「剣舞祭に参加したいのですが…」
「…本当にですか?危険なのですよ?男の子ならまだしも、まだ年端もいかない貴女のような可愛い女の子が出るだなんて、親からはちゃんと了承を得てきたの?」
「両親…は居ません。…既に死んでいます」
シンの言葉を聞いた受付嬢は、途端に申し訳なさそうな表情を浮かべた。
両親のことを聞いてしまったことを気にしているのだろうか?
「…分かったわ。でも、無理はしないでね。怪我しそうになったらすぐに棄権するのよ?」
「っ…はい!」
参加を認めてもらう事が出来た。
嬉しさの余り、少し声が弾んでしまったが、致し方のないことだ。
「ええと、貴女は剣術学校や魔剣術学校に通っているのかしら?」
「…いいえ。通っていません」
「そう。本当に無理はしないでね?剣術学校に通っていないのならば、貴女は一般参加になるわ。剣術学校に通っている生徒は、教師の推薦や成績上位者が自動的に出場枠に入れるのだけれど、一般参加の場合はトーナメント形式の予選を行うことになるの」
なるほど。剣術学校生への優遇が凄いな…。
「予選で決勝まで残った二人が、本戦に参加することが出来るの。貴女は一般参加だから、予選で決勝まで残らないと本戦には出場出来ないわ」
ふむふむ。予選で決勝まで残れば、剣舞祭本戦に出場出来るのか。頑張るぞ。
「これで、剣舞祭についての説明は終わりよ。…それでも、出場するの…?」
受付嬢の言葉からは、出来るならば出場しないでほしい、という気持ちが滲み出ていた。
だが、俺もここで引くわけにはいかないのだ。
手数料の確保のために、俺は剣舞祭に出なければならないのだ!
「はい。出場します」
シンの返事を聞いて、受付嬢は諦めたように一つ溜め息を吐き、手続きを始める。
「そう…。じゃあ、登録をするから、まずは名前を聞かせてもらってもいいかしら」
「はい。シ――」
言いかけて、シンは口を閉ざす。
受付嬢が不思議そうに首を傾げている。
そうだな…ここで本名を出してしまうのは駄目かもしれない。
組織に俺の身元がバレれば面倒くさいことになりそうだし…となると、偽名を使うのが得策か。
「あ、えと、あの……」
――偽名…偽名…偽名……思い付かない…どうすれば…そうだ!レイさんの名前を借りよう。あの人は名前をほとんど名乗らなかったそうだし、気付く者もいないはずだ
「レ、レイ、レイです…」
「"レイレイ"さんっていうの。可愛らしい名前ね。剣舞祭、頑張るのよ」
しまったあああ!"レイ"って言おうとしたら二発連続で出てしまった!
だから人見知りに初見の人との会話はキツいんだよ!……まぁ、レイレイでもいいか。偽名だし。
「それでは、最後に流派を教えて貰えるかしら?」
「…流派…ですか?」
聞き慣れない言葉に、レイレイは首を傾げる。
「あなた…もしかして流派に所属していないの?困ったわね…」
「え…流派に所属していないと駄目…なのですか…」
「いえ、そう言うわけではないの…でも、出場者の人は皆流派に所属しているの。剣士達の間では、流派に所属していない者は脆弱な愚か者という風に言われているから…あなた、相当キツイわよ」
何だ。そんなことか。それならば問題ない。精神攻撃なんて、精神を凍結させてしまえば通用しないし、そもそも俺には通じない。
もっと酷い経験をしてきたという自負がある。
「…大丈夫です」
「本当に…本当に気を付けるのよ?…これで受付は完了したけど、最後にちょっと、いいかしら?」
受付嬢が、何だか落ち着かない様子で手招きをしてくる。
疑うことなく、レイレイは受付嬢に歩み寄る。
そして――
「あぁ~!可愛い!貴女は何て可愛い子なの!良い匂いがすりゅ~!ほら、もっとなでなでしてあげますからね~!」
受付嬢は、ガバッ、とレイレイに抱き着き、まるでペットをあやしているかのように、レイレイの体を撫でる。
受付嬢が抱き着いた拍子に、その豊満な胸がレイレイの顔に押し当てられる。
「ちょ、ちょっと、何をやっているんですか…!苦しいです…あ、ちょっと…!どこ触って…」
「……はっ!私としたことが、少し理性が吹き飛んでいたわ。ごめんなさいね?」
「…い、いえ…!お気になさらず…では…」
「あっ!予選は明日から始まるから、ちゃんとここに来るのよ!そして明日も――うふふふ」
その言葉に、レイレイは表情を強張らせ、足早にその場を立ち去った。
この日、レイレイは学習したのだ。
怖いのは――
――本当に怖いのは、男性ではなく女性であると……
歩いている途中、受付嬢の手の感覚が甦り、思わずゾクッとしてしまったことは言うまでもない。




