28.護衛依頼
短めです
冒険者ギルドに向かったのはいつもよりも2時間ほど遅い時間だった。
「おはようございます、サーヤさん」
「おはようございます。ブレイドさん。今日はいつもより遅かったですね。心配しましたよ」
ガラガラの受付であえてサーヤさんを選んで話しかける。
「そうでしたか、すみません。今日はこの町を出る挨拶をしに来ました」
俺の言葉で少なからず驚いてくれるだろうと思っていたのだが、サーヤさんは平然とした顔で「そうですか」とうなずいただけだった。
俺のうぬぼれだったのかもしれない。
「お二人が町を出ることは昨日、リナリアさんからお聞きしました。本当は引き留めたいところですが、冒険者は自由です。私たちの都合で引き留めるわけにはいきません」
リナさん、昨日のうちってことは会食の後一度冒険者ギルドに寄ったのか。
「昨日の依頼の達成を確認しましたので少々強引ではありますが、お二人は晴れてDランクへの昇格が決まりました。ギルドカードを預からせていただいてもよろしいでしょうか」
俺たちは言われるままギルドカードをサーヤさんに提出する。
「これで私たちもDランク。討伐依頼がはかどるわね」
「なんでシズネは戦闘一辺倒なんだよ」
俺の後ろでワクワクし始めるシズネをなだめる。
「だってせっかくゲームの世界なんだし、やりたいことをやりたいじゃない!」
いいのか。華の女子高生のやりたいことがより強い魔獣との戦いだなんてそれでいいのか。
そうこうしているうちにサーヤさんの作業が終わり、ギルドカードが返される。
「はい終わりました。これでお二人はDランクです」
カードの表面のランクを示すところにはきちんとDの文字がある。
それを見てシズネはにやにやしている。
「それで、Dランクになったお二人にお願い…というか受けてほしい依頼があるのですが」
珍しくサーヤさんンが口ごもる。
「あの、こちらの護衛依頼なのですが…」
すっと差し出されたのは依頼ボードに貼られる紙だ。
俺が受け取り、シズネと頭を突き合わせて中身を見る。
えっと、『サズの街までの護衛』?
報酬は…結構高いな。それでDランク?
「これ、かなり割のいい仕事じゃない。私たちに出さなくても引く手あまたじゃないの?」
シズネの疑問はもっともだ。というわけで、二人でサーヤさんを見つめる。
「えと、その護衛対象…私なんです」
少々気恥ずかし気にサーヤさんは続ける。
「どうやらギルド本部が大々的に動くような事件があったらしく、近隣のギルド間の結びつきの強化と情報共有のため人が派遣されることになったんです」
あ、それ完全に俺たちのせいだ。
「それで、うちの支部からも私がサズの街の支部まで行くことになりまして、お恥ずかしながら知らない人に護衛してもらうのも少々不安で、お二人であれば信頼も信用も置けますし…いかかでしょうか」
まあ俺として種をまいた本人なのだからそれくらいはお安い御用だけど。
シズネのほうを見ればあからさまに眉根を寄せている。
「お二人がラゴイミ洞窟を目指すことは聞いています。ラゴイミ洞窟でしたらサズの街を通ってフォスの街に行くのが早いと思います。街道を使わないという手もありますが、あまり現実的ではないと思います」
お二人の邪魔はしませんので、ダメでしょうか…と琥珀色の瞳を潤ませて頼まれてしまえば俺としては弱い。
「分かりました、お受け…」
俺の言葉の途中で襟を思い切り引っ張られた。シズネに。
グエっとなったのだがシズネはお構いなしだ。少し受付から離れ背を向けて小さな声で俺に話しかけてくる。
「本当に彼女と一緒に行くの?」
「だってそっちの方が分かりやすくていいじゃないか。マップがあって街道歩くだけよりもこの世界の人と歩いたほうがいろいろ話が聞けて面白いぞ」
そうこれは実体験に基づく合理的な判断だ。
別にサーヤさんがかわいいからとかではない。
と心で言い訳したところでさらにシズネの眉根のしわが深くなる。
「本当にそれだけですか?」
こ、こいつ。心を読んでやがる…!
「ゲームの中でくらいいい思いをしたっていいじゃないか。男はみんなモテたいんだ!」
「こんなに美人でかわいいお姉ちゃんが傍にいながら何を言っているのよ!こんなにかわいくて美人なお姉ちゃんが居るのに!」
シズネの追及をかわすように俺はそっぽを向く。
「確かにシズネはかわいくて美人で美人でかわいいがずっと一緒にいるだろ。アンパンばかり食べ続けられないのと一緒で別の刺激が欲しくなるんだよ」
すっと、シズネから怒りが引いたのが分かった。
何があったのかとシズネを見ると何かをこらえるように顔を真っ赤にしながらプルプルしていた。
「…今のをもう一回!」
アンコールされた。
「別の刺激が欲しくなる」
「もっと前」
「アンパンばかり食べ続けられない」
「もう一声」
「……シズネはかわいくて美人」
まるで太陽の日を受けたひまわりのようにシズネの顔が輝く。
「もう、美人でかわいくて性格もよくて物静かで理想のお姉ちゃんだなんてブレイド君ってば!美人でかわいくて性格もよくて物静かで理想のお姉ちゃんは心が海よりも広いので今回の事は許してあげます。たまには三人の旅路もいいわよね」
「そこまで言ってな――」
「美人でかわいくて性格もよくて物静かで理想のお姉ちゃんは心が広いけれど怒らないわけじゃないのよ?」
シズネが眩しい笑顔のまますごみだしたので俺は何か言うのを止めた。
俺たちは何事もなかったようにサーヤさんの元に戻る。
少々不安げな顔で俺たちを見つめるサーヤさん。
「先ほどの依頼ですけどお受けします」
俺の言葉を聞いてこちらもパアっと明るくなる。
「えと、それではですね…まずはギルドカードをいただけますか?」
わたわたと自分のやるべきことを思い出しているのかサーヤさんが慌てだす。
俺は自分のカードを出しながら落ち着いてくださいと声を掛ける。
ギルドカードの処理を終えてカードを俺達に差し出す。
「それでは依頼内容の説明をしますので部屋を用意してまいります。少々お待ちください」
そういって奥に引っ込んでしまう。
シズネのほうを見ればいまだに「かわいくて美人」を引きづっているらしくほくほく笑顔だ。
いつもその状態でいてくれたら俺としても楽なんだけどなあ。
しばらくして戻ってきたサーヤさんに奥に通される。
前回使った応接室ではなく、もっとこじんまりとしてさっぱりした部屋だった。
依頼内容と経路、予定日数、備品(ギルドからの依頼のためギルドの備品を使えるらしい)などの確認してその日は解散となった。
こちらも早く出たいし、ギルドとしても早く届けたい。そういうわけで出発は明日となった。
戦力的にも護衛としても二人というのは少なくないかとたずねたら
「本当は護衛なんてなくてもいいんですよ。ギルド職員たるもの、そこらの冒険者には負けられませんから。ただ、私遠距離魔法型なので近接格闘は苦手なんです。そのあたりのこともあって今回依頼を出させていただきました」
とのこと。
むしろこれ、旅の途中は俺たちのほうが足手まといでは?テント立てられないし(旅なんてしたことない)、ご飯の事考えないし(食べなくてもいいから)、移動手段適当だし(その気になれば24時間歩き続けられる)。
護衛という名の移動訓練だなこれ。
解散後はアイテムの補充とテントなどのキャンプ用品、防具の新調などをして過ごした。
シズネはデート気分でほくほく。
俺は防具を新しくしてアイテム補充もできてほくほく。
だいぶ金を使ったがまだ余裕、というほどでもないがある。
武器のほうはあまりいいのがないとのことで諦め。
さて、明日からまた新しい街に向かって行くことになる。
次はどんな街だろうか。
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これにて2章が終了です
3章開始まで今しばらくお時間をいただきます。
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