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23.森の調査

 冒険者ギルドがある大通りを通って、町の境界である門を目指す。

 まだ朝が早いので開いている店は少なく人通りも少ない。

 門が見えた。が、その時隣にいるシズネから緊張が伝わってくる。

 そっと俺の服の袖をシズネが引っ張る。


「マップ」


 小さな声で伝えられた言葉通りに不自然でないよう動きはそのまま、視界端のマップに目をやる。

 柵のところに赤丸があった。

 おかしい。赤は敵を示す色だ。魔獣なんかは赤い三角だし町の人は緑の丸…。


 ……丸?


 俺の動きが一瞬固くなったのを感じてシズネが目配せをしてくる。

 俺はそれに頷いて返し、いつでも剣が抜けるように、臨戦できるように意思を整えた。

 門が近づくにつれ、赤丸が何を指すのかはっきりしてくる。

 門には人が一人、その塀に背をあずけていた。


 どこかで見たことのある灰銀色の防具、芸術品のような柄の細剣、紺色の髪、右側だけ妙に長い前髪。

 黒い頭巾付きのローブを着て腕を組んでいたのは、昨日シズネに精神を滅多打ちにされたはずのザギーだった。


「よう、新人のガキども。昨日はよく眠れたか?」


 今までとは全く違う、下心も内に含む醜い感情も全く隠していない下卑た笑みで俺たちを迎えた。


「はん、それがあんたの本性なわけ。道理で生理的嫌悪が止まらないわけだわ」


 シズネはすでに臨戦態勢だ。いつでも抜刀できるように左手は鞘に添えられているし、口は奴をずたずたにせんといつも以上の口撃を行う。

 ま、警戒しているのは俺も一緒だが。


「それで、朝っぱらから何の用だ。自称やさしい先輩」


 ザギーはそれらすら薄汚れた笑いで返してくる。


「なに、その優しい先輩からの最後の勧告ってやつだ」


 その視線はシズネに注がれる。足先から頭のてっぺんまでなめるように注視する。見られていない俺ですら背中を何かが這いずり回るような悪寒がした。

 無意識に、足が前に出る。俺の背中にシズネを隠す。

 シズネがうっとりするような声で俺の名をつぶやいた。

 ザギーの表情が歪む。醜く、汚く、醜悪に歪む。

 だがそれも一瞬だった。すぐにまたあの浅ましい笑みへと変わった。


「シズネ、俺のモンになれ。そうすればお前のオトウトには何もしねえよ」

「却下」

「断る」


 ザギーが言い終わるか終わらないかで俺とシズネの回答が被る。


「お前みたいなやつが私を口説くなんて1億と2千年早いわ。むしろ何度生まれ変わろうと答えはNOよ。さっさと目の前から消えなさい」


 シズネは俺の背に隠れたまま強気に言い放つ。

 ザギーはその場につばを吐いた。


「チっ。お高くとまりやがって。まあいい。精々その回答に後悔するんだな」


 ザギーはにやにやと下品に笑いながら歩き出す。俺たちがやってきた町の中心のほうへと。

 その視線は始終シズネに固定されたままだ。

 どうせ頭の中はろくでもないことを考え続けているのだろう。

 そうなる前にあいつの頭をかち割ってやる。


 俺たちの横をゆっくりと通り過ぎると一度も振り返ることなく町のほうへ歩いて行った。

 ようやく訪れた平穏に俺とシズネは顔を見合わせた。

 そしてすぐにシズネは俺の左腕を抱き込み、肩へと顔を寄せる。


「うわーん、ブレイド君めっちゃ怖かったよ~」

「嘘つけ、殺る気満々だっただろうが」


 だが実際、あんなふうにまるで性欲のはけ口としか見ないような視線にさらされるのは怖いものがあるのだろう。俺ですら気持ち悪かったし。

 なので俺の右手はシズネの頭をやさしくなでる。


「うわーん」

「うん、もうわかったからその下手くそなウソ泣きはやめろ。好きにしてていいから」


 シズネは一度顔を上げて俺を見ると、ウインクして下を出して左手は拳を軽く握って頭に添える。

 所謂、テヘペロ♪である。

 殴りたい、この笑顔。だがよく似合っている。ずるい。


 そしてすぐにいつもの甘えた顔になり腕に顔を擦り付ける。

 俺も甘いなあ、と息をゆっくり吐きだした。

 そうやってしばらくシズネを甘やかしていた時だった。


「まだここにいたのか。森でなくてよかった」


 後ろから声がかかる。

 二人で振り向くとリナさんが片手で頭を抱えてため息をついていた。


「お前たち、いくら人が少ないとはいえこんなところで何をやっているんだ」


 誤解です、と言いかけて何が誤解何だろう、と自問する。


「お姉ちゃんとのスキンシップは大事だからいいんです!」

「シズネ、言うに事欠いてそれはないだろう…」


 シズネの宣言に今度は俺がため息を吐く。


「それで、何か俺たちに用ですか?」


 あきれていたリナさんが再起動しいつもの凛々しい表情に戻る。


「ああ。お前たちが受けられなかった『森の調査』の依頼、受けてきたぞ」


 おお珍しい、リナさんのどや顔だ。どや顔まで凛としてる。すごい。


「これでお前たちも『森の調査依頼』ができるぞ、喜べ」


 ん?


「ところで、ザギーを見ませんでしたか?先ほどそちらに向かったのですが」


 とりあえず落ち着こうと話題を急転換させる。

 リナさんは俺の突然の質問にも首をひねるばかりだった。


「ザギー?いや見ていないが」

「黒いローブを着ていて、先ほどそっちに向かって歩いて行ったのですが…」

「いや、数人とはすれちがったが、ザギーもそのような人影もなかった」


 おかしいな。いや、それもおかしいのだが


「それで、何の話でしたっけ?」

「ああ。『森の調査』の依頼だが、私が居なくて受けられなかったのだろう?私が受けておいた。まあ、合流できなくても私一人でも事足りるだろうし、合流できれば万々歳だ。どうやらギルドはどうしてもお前たちをDランクに上げたいらしい」


 フッと笑みをこぼすリナさん。

 俺の脳裏に両手を合わせてごめんなさいするサーヤさんが見えた。


「そんな力技でいいのかよ」


 裏口入学レベルの大問題じゃねえか。


「で、どうする。お前たちが断るのならこの依頼は私一人で片付けるが?」

「やります」


 リナさんの問いに答えたのはシズネだった。


「いいよね?ブレイド君」

「まあいいけど、どういう風の吹き回しだ?」


 シズネは二っと笑う。


「近づいてくる馬鹿を牽制するのにはランクを上げるのが手っ取り早いかなって」

「そうかい」

「それは一理あるな。現に私に声を掛ける馬鹿どもはだいたいランクを聞くと逃げていくぞ」


 ま、なめられないっていうのは重要なことだよな。

 男よけに使えるっていうのもリナさんが実証しているらしいし。

 リナさんは俺たちの肩に手を添える。


「ほら、ぐずぐずしている暇はないぞ。案外広いからな、あの森は」


 トン、と軽くたたいて俺たちを促した。

 ま、もしかしたらシナリオが進むかもしれないし。

 俺たちはリナさんに促されるまま森に向かって歩き出した。

 

* * *


 森の北側入り口付近のブラウンスパイダー、そんなものはいなかった。

 マップで確認もしたし、一応付近の探索もした。


「ブレイド君、わざとでしょ…」

「いやあ、もしかしたらとは思ったんだけど…」


 冷や汗を流す俺とじっとりと半目で睨みつけるシズネを見てリナさんが首を傾げる。

 事情を説明すると笑ってくれた。


「くく、まあ、そういうときもある。ギルドカードの討伐状況はどうなっている?」


 言われるままにギルドカードを確認する。


「あ、討伐完了になってる…」

「稀にあるのだが、魔獣が移動してしまったとか、誰かがすでに討伐済みだったとかな。そういう場合でもギルドカードはきちんと認識してくれる。まあ、棚から牡丹餅だが、運も実力、というし」


 ありがたく受け取っておけ、だそうだ。

 出鼻をくじかれ微妙な顔をする俺たちを連れて、リナさんは森の奥へと進んでいく。今回は森の調査がメインになりそうだ。




「森の調査がメインになると思っていたんだがなあ…」


 周辺警戒を終え、リナさんが弓を背負いなおしている。

 俺は一番後ろでたった今行われたフォレストウルフの小規模な群れとの戦闘を思い出す。

 きっかけはシズネだった。


「調査で奥に行くのはいいけど、調査なんだから広範囲を回らなきゃだめよね?ってことは当然、魔物にも遭遇するわよね?」


 自分から先頭を買って出、なるべく魔獣狩りを多く行うつもりのようだった。

 リナさんは笑いながらその意図を汲み、先頭を任せる。


 ――ただ、今回は私も参加するぞ?


 というやり取りを終えての第一戦目、フォレストウルフだった。

 全部で5匹。周辺を警戒しながらまとまって動いていた。

 フォレストウルフと言えば2~3匹の集団が当たり前だったため。少々驚いたが、シズネは好戦的な笑みを浮かべるだけだった。


 それに――


 俺の制止を聞かずにシズネは飛び出していった。

 こちらに気づいていないことをいいことに《風斬》にて先制。一匹の首を落とし、隣を歩くもう一匹の腹部を切りさいた。これで、一匹退治、一匹戦闘不能にした。

 こういった『急所に当てる』はこのゲームにおいて確率ではなく、自分の技量頼みになる。うまくいけば連続で急所をえぐることができるのだ。


 シズネの足取りは軽やかで風のように群れに近づいていく。

 奴らがこちらに気づき、低く唸りながら構える。

 その瞬間、シズネのこめかみを掠るようにして矢が飛んでいく。

 ヒュン、と風切り音が聞こえた次の瞬間にはフォレストウルフの脳天に矢が刺さっていた。


 また一匹、脱落した。

 あとはもうお察しだろう。


 シズネに飛びかかろうとしたフォレストウルフは刀で撃退され、横からかみつこうとすれば矢が脳を破壊する。

 最後に残ったのは最初の一撃で腹部をやられ、動けなくなった奴だけだ。

 シズネは何のためらいもなく、そいつにとどめを刺した。

 俺の出番はなかった。


「そうそう、こういうのを待っていたんだよ!」


 シズネがフォレストウルフの遺体の跡から魔石と牙を拾っている。


「しかし、シズネ。お前一段と速くなったんじゃないか」


 リナさんが感心している。


「そういうリナさんもかなりいい腕してるじゃないですか。フォレストウルフを一撃だなんて」

「ふふ、まあな。Bランクは伊達ではないということだ」


 ちょっと自慢げに髪をすくリナさん。日に当たってきらめく金髪がとてもきれいだ。


「ん?どうした、ブレイド」

「え、いや。この調子で進めましょう」


 俺は慌てて頭を振り、シズネに近づいていく。


「お前、今の連中のレベル確認したか?」

「え?レベル?そんなの見なくても倒せるじゃない」


 俺はため息を吐いた。


「まあいい。レベル差はあながち馬鹿にできないことがある。一応気を付けておいてくれ」


 まだ森の浅い層だ。そんなに強いやつらが出てくるはずがない。

 はずがないのだが…。

 次に出遭ったのはブラウンスパイダー。レベルは16。

 シズネは口を歪ませ、俺は目を見開き、リナさんは眉をしかめた。


「こんな場所で、ブラウンスパイダーが出るなど…」

「レベルも高い。こんな浅いところじゃまず出ないはずなのに」

「私はまだブレイド君を襲ったお前を許してない!」


 シズネ、そこは許してやれ。そいつ別個体だから。だいたい真っ二つにしたのお前だから。

 木をさかさまに下りてくるブラウンスパイダー。なんというか、こちらと目が合った、って感じだ。


 飛びだす静音を追って俺も飛び出す。

 飛びついてくる奴を散会するように飛んでよけ両サイドから斬りかかる。

 奴は狙いをシズネに決めたようだ。シズネの側に頭を向ける。なんだろう、殺意の差かな。

 そして前足?を振り下ろしてシズネを襲う。

 そう簡単にシズネは殺されてくれない。刀で足をはじきどうにか頭に一太刀食らわせようとしているようだ。


 だが、こちら、尻を振られるばかりで攻撃される様子がない。

 ならばと後ろから斬りかかる。

 ザシュザシュと浴びせるたびにHPが減っていくがはっきり言っていまいちだ。


 その時、蜘蛛の胴に矢が刺さる。

 それが結構効いたらしく、蜘蛛はギチギチと顎を鳴らしながら矢の飛んできた方を見る。

 そこには当然、次の矢を構えるリナさんがいる。


「決めてしまってもいいか」


 リナさんが叫ぶ理由は分かる。


「いえ!俺が!」


 俺は蜘蛛の背に飛び乗り剣を逆手に持つ。そして背に思い切り剣を突き刺した。

 蜘蛛がうめく。次は当然、俺を振り落とそうとする。

 そうはさせない。

 俺は魔力を剣に流して手前に引く。

 先ほどまでは動きそうになかったが、《魔力剣》を発動させたことで切れ味が上がり、動かせる。


「うぅぉぉおおおrrrぃぃやぁあああ」


 剣を動かした分だけ、ブラウンスパイダーのHPバーが減っていく。

 ついに剣を振り切ったとき、蜘蛛のHPは0となり、動かなくなった。


 俺が蜘蛛から飛び降りるとすぐに塵となって消えた。


お読みいただきありがとうございます

ストックが着々と消えていく……

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