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世界で一番君が嫌い  作者: びゅー
1章 法律
31/116

1章-17 交渉

翌日。

アヌビス「さて、依然打つ手無しな訳だが…」

ナオヤ「手ならあるぞ」

ノルン「?」

サヤ「最低、ちょっと眠そうだけど…」

ナオヤ「まあ昨日寝てないからな」

サヤ「マジ?」

アヌビス「大丈夫かよ?」

ナオヤ「一日ぐらい平気だ。それより、聞いてくれ」

サヤ「どうしたの?」

ナオヤ「つまりだな…」


ナオヤ「一言でいうと、交渉する」

ノルン「交渉?」

ナオヤ「ああ、青龍についていくことを拒んでいる、

側を味方につける」

サヤ「どうやって」

ナオヤ「奴らは既に八方塞がりなんだから、逃げ道はないわけだ」

サヤ「…って、いうと?」

アヌビス「どうして八方塞がりになるんだ?」

ナオヤ「今の状況を考えろ。

ロールスロイスは、キャットフードとの交渉において、『ミサイル』を使って、

人質を取って脅しをかけているわけだ」

アヌビス「…そうだな」

ナオヤ「でもな、

結局のところ、ミサイルなんて、あってもなくても何の意味もねえんだよ。

撃てるわけねえんだから」

サヤ「そうかな?」

ナオヤ「そうだ。

仮に撃ったとしたら、まさにこの町も青龍も終わりだぜ」

アヌビス「…し、しかしだな…」

ナオヤ「さて、要するにミサイルは一見すごい脅威のようで、実は何の役にも立たない飾りにすぎないわけだ。

キャットフードのお偉方がビビってるのか何か知らんが、

勇者軍はミサイルを衛星から撃ち落とすシステムみたいなのを準備しているらしい。

そうなれば、あとは…」

サヤ「…何?」

ナオヤは、ニヤリと笑った。

ナオヤ「なあ、ノルン」

ノルン「何?」

ナオヤ「電波を盗聴する機械があるなら、こちらから発信する機械もあるか?」

ノルン「もちろんあるけど、どうするの?」

ナオヤ「ちょっと貸してくれ」


ナオヤ「…これで、ロールスロイスの副首脳に繋げるのか?」

ノルン「…えーっと…周波数は盗聴器で測定した所328Hzね。

…これで設定したから、このボタンを押せばいつでも首脳のところにつなげるけど…

でも、どうするの?」

ナオヤ「…多分、いける」

ぴーっ。

声「もしもし、誰だ?」

ナオヤ「はいはい、聞こえますか?」

声「誰だ貴様!名を名乗れ!」

ナオヤ「名乗るほどの名前はないけど、

そうだな、あえて言うならおれは、最低だ」

声「最低?」

ナオヤ「この町に侵入してきた子供がいるって、聞いたでしょ?」

声「先日、そのような情報が入ったが、…まさか、おまえが?」

ナオヤ「…そう、おれがその侵入者だ。今発信機であんたの部屋に繋いでる」

声「ど、どこからこの場所が…」

ナオヤ「それで、だ。あんたに話があるんだ」

声「…何が目的だ」

ナオヤ「ふふふ。今回の訪問で得られた情報をですね、ちょっと外部へ流そうかと」

声「……」

ナオヤ「知り合いがね、ちょっと高性能な発信機を持っててね、ここから平気でキャットフードにも繋がるんだよね。

しかもなんと、おれ勇者さんの知り合いなんだよ」

声「キャットフードのスパイか」

ナオヤ「そんなたいそうなものじゃないさ。

まぁ、仮におれがこのことを勇者さんに知らせるとして、

そうなったらその後どうなるかは、まあ、ご想像におまかせしようかな」

声「…」

男は絶句した。それを好機と見たナオヤは、更に詰め寄る。

ナオヤ「まあ、キャットフードのことだから、市民からの信頼を取り戻すために、あんたらの貿易やら闇取引やらの話は全部闇に葬られるだろうね。

それにあいまってあんたらの側はミサイルも撃てない。

撃ったらその時こそ報復が来てこの町が物理的に滅びるもんね」

声「…」

アヌビス「な…なんだこいつ」

ノルン「…」

サヤ「口だけは達者だからなあ」

突然の出来事に、相手は少なからず動揺しているようだった。

ナオヤ「じゃあ、そのあとは、どうなるかなあ?

まあこの町は、まずまっちがいなく孤立するだろうね。

そして資源がなくなり最後にはみんな飢え死にするかもね。

もしくは他の町の完全なる支配下に置かれるか。どちらにしろご愁傷さまです」

声「…き、貴様…」

ナオヤ「だが、おれにも慈悲の心はある」

声「…何が望みだ」

ナオヤ「この町も、そして人々も。さらにはあんたも助かる方法がある」

声「…何をたくらんでいる」

ナオヤ「ちょっとした取引だよ」

声「取引?」

ナオヤ「ああ、簡単な取引だよ。

…あんたに、ちょっとクーデターをやってもらいたいのさ」

声「く、クーデター?」

ナオヤ「そう、クーデターだ。あんたが青龍を摘発すればいいんだ。

そして責任は全部青龍に負わせればいい。

そうすれば最悪この町の立場だけは守り通せる」

声「…」

ナオヤ「どのみちあんたらの町の制度には無茶があるんだ。

このままじゃいずれ崩壊しちまう。

だったらここで切り崩した方が絶対にいい」

声「…しかし…」

ナオヤ「いいか、成功したらあんたがこの町の長になれる。

さらに町の人の信頼も得られる。

おまけにキャットフードからの信頼も得られる。

その上あんたのやることは簡単だ」

…。

無言の時間が流れる。

声「…私は、何をすればいいのだ」

ナオヤ「一つ」

ぽちっ。

そういうとナオヤは録音されたディスクを再生した。

ナオヤ「このテープを、キャットフードに、あんた名義で公表する」

声「…」

ナオヤ「二つ。

ミサイルの使用を少なくとも今の間だけ止める」

声「…」

ナオヤ「…どうだい?

これだけで青龍は町の裏切り者として処分することができる。

そしてこの町の立場もよくなる。

おまけにあんたは何の苦もなく出世できる。

どうだい?何一つ悪い話じゃないだろ?」

声「…しかし、青龍には側近の者が数名いて…」

ナオヤ「そいつらも一緒に追放すればいいさ。そこはあんたの手際のよさを信じるぜ。

…あんたの派閥には優秀な連中が数名いるだろ?

そいつらとも相談して、うまくやれよ」

声「…そっちの目的は何だ」

ナオヤ「おれたちの目的は八音の旋律だ。

それさえ貰えれば他はあんたが好きなようにやって貰って構わない」

声「…」

ナオヤ「…ちなみに断っておくが、おれたちにはほかに手はない。

あんたに断られたら、おれたちはこれでおしまいさ」

サヤ{さ、最低!そんなこと言っちゃってどうするのさ!}

ナオヤ{うるせえ、黙ってろ}

声「な、なぜそんなことを…」

ナオヤ「この意味、わかるよな?」

声「…」

ナオヤ「…」

声「…。

わかった。

…その話、乗ろう」

ナオヤ「…サンクス。

じゃあ今からこの音をどこかに録音してキャットフードに流してくれ。

いいか、あくまで、『長一人の責任』にするんだぞ。

『命令』されて仕方なくやったことにしろ。

『村全体の責任』とかにするなよ。いいな」


サヤ「…」

アヌビス「…」

ノルン「…お見事、ね」

ぱちぱちぱち。

ノルンは拍手までしてくれた。

サヤ「…でも、これで解決するのかなあ」

ナオヤ「あとは時間が解決する」

アヌビス「裏切られたらどうするんだ?」

ナオヤ「そうしたら直接対決の始まりさ。

さすがにやつらもそこまで馬鹿ではあるまい」

ナオヤはあさっての方向を向きながら余裕の表情を浮かべていた。


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