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世界で一番君が嫌い  作者: びゅー
1章 法律
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1章-15 復讐②

サヤ「…最低…」

ナオヤ「…何だよ?」

サヤ「…あの子…かわいそう」

ナオヤ「…しかたない。俺たちにはどうすることもできないよ」

サヤ「…あの子…不幸であることに希少価値を見出して生きてきたんだよね」

ナオヤ「…多分な」

サヤ「…不幸に、耐えられなくて…」

分からなくはない。

というより、同じように昔きついことがあった身としては、痛いほど分かる。

でも、それをおれはばっさりと切り裂いた。

『たかが親二人死んだところで』

アヌビス「…それ、おれは間違いだとは思わないぞ」

ナオヤ「おれも間違いだなんて思わない」

アヌビス「でも、おまえあのとき『わかるか』って…」

ナオヤ「わからねえわけねえだろ。

……おれだって、そうだった」

ナオヤはちょっと下を向いた。

サヤ「…最低…」

やっぱり、そうなんだ。

あんなこと言ってたけど、やっぱり。

ナオヤ「でもな」

ナオヤは前を向きなおした。

ナオヤ「いまのおれには、どうだっていいんだ、そんなこと」

アヌビス「…。そうか」

ナオヤ「人間、割り切るのには結構時間がかかるから、

それまで、そっとしておいてやれ」

サヤ「…最低…」

忘れた、の?

そう聞きたかったけど、とても聞けなかった。


サヤ「…復讐、か」

昔、紙切れに抱いた憎しみが、思い起こされた。

ナオヤ「それも一つの心のよりどころなんだろうな」

アヌビス「…相手を、殺すことが、か?」

ナオヤ「殺さなくていいんだよ。…なんでもいいんだよ。

ストレスぶつけられりゃ、なんでも」

サヤ「…それって、…悲しいね」

ナオヤ「…そうやってでも必死に生きてるんなら、別にいいと思うよ」

サヤ「…でも…人を傷つけるために生きるなんて…あまりにも本末転倒だよ」

ナオヤ「…おまえはそうじゃないって言い切れるか?」

サヤ「…そ、それは…」

わたしは口ごもってしまう。

ナオヤ「いいじゃないか別に。何も恥ずかしいことじゃねえよ。

動物だって植物だって、全部他のものを傷つけまくって生きてるよ」

サヤ「…悲しいよ、それって」

ナオヤ「それでいいじゃないか。

悲しむことなんてないよ」

サヤ「…よくないよ」

ナオヤ「おまえって変な所で潔癖だよな」

サヤ「そうかな」

ナオヤ「そうだよ。

影があるからこそ光は美しい、とか言うやつ、よくいるじゃん?」

サヤ「…うん、まぁ。それがどうしたの?」

ナオヤ「つまり、おれは影なんだ。

悲しいことに。生まれてきた時から。

それはもう、仕方ないことなんだ」

サヤ「…」

ナオヤ「不幸な人間がいるから

幸せがいるんだ。

それで役に立てるなら、それでいい」

かなり皮肉そうにナオヤはそう言った。そう聞こえた。

その通りだと思った。

サヤ「…ねえ、聞いていい?

今の最低にとって…生きがいって、何?」

ナオヤ「…またいきなりな質問だな」

サヤ「いいじゃない」

ナオヤ「生きがい、ねえ。

生きる理由、ねえ」

サヤ「うんうん」

ナオヤ「そんなもんなくたって生きれるさ」

サヤ「えー!?ごまかしてるだけでしょ、それ!?」

ナオヤ「いやー、生きるのなんて理由いらんぜ?」

ノルン「いや、それは難しいと思うよ。

私だって、知りたいって言う欲望のために生きてるみたいなところあるし」

ナオヤ「そうだな、じゃああえて言うなら、……そうだな、

最低であることかな、

それがおれの生きがいだ」

サヤ「…なにそれ」

ナオヤ「世界で一番最低な人間になるのがおれの夢だ。

どうだ、すがすがしいだろ」

アヌビス「すがすがしくねえよ」

サヤ「あっそ」

ナオヤ「で、おまえはそのライバルってわけだ」

サヤ「わたし!?

なんでわたしがライバルなのよ、コラ」

アヌビス「…」


アヌビス「しかし、ああは言ったけど、どうするんだ?」

ノルン「じゃーん」

ノルンはそう言って小さなディスクを取り出した。

サヤ「このディスク、何?」

ノルン「聞いてみる?」

ノルンはポータブルCDプレイヤーを差し出した。

サヤ「…なになに…」

『君たちは色々と知りすぎてしまったようだ。悪いが消えてもらおう』

アヌビス「これ、どうしたんだ!?」

ノルン「これが小型録音記♪」

サヤ「いつのまに…」

ノルン「これを、あとはキャットフードに通報する。

さすがに、無視するわけにはいかないでしょ。

いくら腐ったって、キャットフードは名目上正義の町と呼ばれているぐらいだもの」

アヌビス「…あとは勇者軍の出番というわけか」

ノルン「そゆこと。…でも、早速送ったんだけど、反応がないなあ…」

アヌビス「…待つしかないのか」

ノルン「うん。…ちょっと待っててね」


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